第6話 何度でも寝取られる

 過去に戻れるとはいえ、紅音が寝取られているということを考えると……正直、体調が悪化するばかりだった。

 あの初日の光景を思い出してしまうのだ。


 けど、それでも……俺は進まねばならない。

 この地獄をきっと天国に変えてみせる。



 昼が終わり、教室へ戻った。

 すると、すでに紅音の姿があった。


 澤野と色々あっただろうに、紅音は澄ました顔をしていた。……バレたくないのか。いや、でも脅されているのなら相談してくれてもいいじゃないか。



「よ、よう。紅音」

「陽くん。どこに行っていたの?」


 まずは俺のことが気になるよな。


「俺はちょっと知り合いと話していてね……」


 ウソではない。

 古河さんと話していたからな。


「そっか。まさか女の子じゃないよね」


 そのまさかだけどな。

 でも、紅音だってあの男――澤野と……。

 このまま聞いてしまうか?

 いや、ダメだ。


「ただの知り合いさ……」

「そっか。ならいいけど」



 直後、午後の授業がはじまった。

 紅音のことが気になって授業なんて集中できるはずがなかった。


 身が入らないまま放課後。



「紅音、一緒に帰るぞ」

「うん。分かった」



 よかった。てっきり断られるかと思った。

 放課後までは特に紅音に不審な動きはなく、いつも通り。ということは、あの昼だけ変化してしまったということなのか……?


 一緒に下校して家を目指す。

 俺は話を振っていく。

 少しでも情報を引き出すために。


「ところで紅音」

「なに~?」

「最近変わった事とかないか」

「変わったこと?」


「ほら、紅音って俺と付き合ってからも人気じゃないか。他に男とかさ」

「な、ないない。そんなのないよ~。全部断ってる」


 ということは告白だとかされているってことか。

 でも、澤野との関係はどうなっているんだ?


「そうかな。浮気とかしてないよな?」

「なんで疑うの」

「ちょっと気になってな」

「大丈夫。信じて」


 ……そりゃ信じてやりたいさ。

 三日後のアレがなければな。


「頼むから他の男と付き合うとかやめてくれよ」

「う、うん……」


 なんだか自信なさげになってきた。やっぱり、なにか隠しているようだ。

 とりあえず話題を変えよう。


「そういえば、付き合い始めてからあんまり恋人っぽいことしてないよな」

「そうだね。デートとかキスとかしてない」

「だろ。もう少し恋人同士っぽいことしよう」

「ほ、本当に!?」


 嬉しそうに期待の眼差しを俺に向ける紅音。もしかして、やっぱり俺のことが好きなのか。そういうことがしたかったのかな。

 だから、澤野に言い寄られて断れなかったとか? そんなわけないか。少なくとも昼休みは嫌がっていたように聞こえたし。


 せめて手を繋ぐくらいは……しておくか。


「さっそく手を」

「子供の頃以来だね」

「なんか懐かしいな」


 さすがにちょっと恥ずかしいが、恋人同士なんだから問題はない。


 家まで歩いてきた。

 さすがにここでお別れだ。


「じゃ、また明日」

「おう、紅音。スマホ、ちゃんと見てくれよ」

「もちろん」



 紅音と別れた。

 普通にしている分には楽しい。

 しかし、俺の脳裏にはずっと三日後の映像が流れ続けていた。……だめだ。アレが最後に訪れると思うと不安でいっぱいだ。

 今日だってすでに寝取られているんだ。

 本当なら追及したい。

 でも、まだこの世界では三日後のあの光景までには至っていないはず。



 次の日の朝、そのまた次の日も俺は監視を続けた。



 不審な行動は見当たらなかった。


 そして、あの三日後を迎えてしまった。




『陽くんより……気持ちいです』

『若葉さんっ!』




 くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 なんで、なんでこうなるんだああああああああああ!!

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