第5話 寝取られるまで彼女を監視せよ

 大変心苦しいが、紅音を後回しにして俺は古河さんと話をすることにした。

 そのまま屋上へ向かった。

 幸い誰もいない。これなら気兼ねなく話せるな。


「……教えてくれ、古河さん。どうすれば俺は紅音を救える……?」

「まずタイムマシンについて詳しく聞かないとね」


 それもそうだな。


「えっと、最初に変なURLが届いたんだ。それをタップすると『BE』という謎のアプリがインストールされていた。それを使ったら過去に来れたんだ」


「それは興味深いな。見せて」


 俺はスマホを取り出し、そのアプリを見せた。

 URLのメッセージは残っていなかったが、アプリだけは残り続けていた。


「それを押すと俺は過去へ戻れる」

「へえ、今押したら戻っちゃうってことかな。日付とか時間、座標の指定はできないのかな」

「多分……無理だと思う」


「さすがにデロリアンのようにはいかないか」


 デ、デロリアンってあの有名なSF映画の車の名前か。さすがの俺でも知っていた。動画配信サイトでたまたま見ていたからな。

 主人公は車型のタイムマシンに乗り、過去や未来へいって運命を変えるんだよな。


「今分かっているのは6月3日の12:10に戻るということだけだな」

「なるほどね。アプリを改良できるかもね」

「出来るの?」

「ただの推測さ。でも、知り合いに頼めばワンチャンあるかも」

「マジか! その古河さんの知り合いって……」

「それは後にしよう。今はもっと情報が欲しい」

「……分かった」


 古河さんは俺の過去のことや未来のこと、生い立ちを聞いてきた。

 俺は包み隠さず、全てを話すことに。


 若葉 紅音とは子供の頃からの付き合いで幼馴染。小学生、中学生と奇跡的に同じクラス。一緒にいる時間も誰よりも多かった。

 ほとんど公認カップルみたいな扱いを受け、現在に至っていた。

 元から可愛かったが、高校生になると更にその魅力が増した。誰もが憧れるような存在となり、男共が寄ってきた。

 そんな状況に嫌気が差したのか、今年になってから紅音から突然告白され、付き合うようになった。

 俺自身も紅音のことは好きで、いつか気持ちを打ち明けようと思っていた。だから、ひとつ返事だった。


 付き合っても変わらない日常が続くと思っていた。だが、今日から三日後に紅音は、澤野という男に寝取られる。


 あの光景が今でも脳裏に焼き付いている。


 なぜ、紅音はあんな男と……。

 その理由は定かではないが……あの感じだと強要されているようにも聞こえた。脅されている可能性もある。


「――少し割愛したけど、大体こんな感じ」

「へえ、幼馴染だったんだ」

「家が近くてね。幼い頃から一緒に遊んでた」

「まあでも、若葉さんは可愛いからね。狙っている男がいてもおかしくない」

「だよな。俺がちゃんと見ていなかったから……」

「けど、告白してきたのは向こうからでしょ? なのに他の男になびくだなんて変だね」


 古河さんの言うとおりだ。

 少なくとも紅音は俺のことが好きだったはずだ。だからこそ告白してきたんだ。俺だって気持ちは一緒だと信じていた。だから返事をしたんだ。


 でも――。



「今からでも澤野をぶっ飛ばす方がいいかな」

「それは意味がないと思うよ」

「だよな……。そもそも、紅音が寝取られるのは三日後のはずだった」

「世界線が変った影響か、それとも最初から澤野くんとやらとはそういう関係だったのかもね」


 むむぅと考える古河さん。

 世界線のことはよく分からない。

 最初から澤野と関係をもっていたのなら……俺は紅音のことすら許せそうにない。そんなの浮気じゃないか……!

 俺の気持ちをもてあそんでいたということになる。


 いや、そんなはずがない……!


 紅音はずっと幼馴染で俺を裏切るだなんてしなかった。ずっと助けてくれたし、俺も彼女を助けてきた。そういう仲だ。


「もう一度過去に戻るしかないのか」

「まって。安易に戻り、余計なことをしてしまうと世界線変動が起こってしまい、今度はもっと酷い未来が待っているかもしれない。ここは慎重にいくべき」


「ど、どういうことだよ」

「世界は思ったよりも残酷ということ。そう簡単には若葉さんを救えないと思う」

「……そうだよな。すまん」


「謝る必要はないよ。四之宮くんが思ったよりも冷静で良かった」


 微笑む古河さん。彼女を前にすると頭がパニックにならないというか、落ち着けた。

 そうだよな、ただ戻っても意味がない。

 古河さんとはまた最初からやり直しになるだろうし、こうしてまた話せるか分からない。今は彼女の力を借りるしかない。


「俺が紅音の行動を止めるしかないか……」

「ずっと張り付くのもいいかもね。とりあえずさ、三日後まで監視してみるとか」

「……俺の身が持つかどうか」

「無理なら、あたしが代行してあげてもいいけど」

「んや。古河さんにあの教室のシーンを見せられないよ」

「そっか。分かった」


 やはり、紅音と澤野の関係性を暴く方が優先か。それから過去へ戻る。

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