第2話 寝取られない世界線を目指せ!
【6月3日(月) 12:10】
いびつな世界が再構築されていく。
ひどい立ちくらみの中から俺は意識を取り戻し、再び“過去”へ戻ったらしい。
……いや、間違いない。
俺は昼休みのこの時間に戻っている。
そばには紅音の姿がある。
彼女は俺を不思議そうに見つめ、声を掛けてくるのだ。
「なんか顔色悪いよ。大丈夫?」
セリフは微妙に変わるが、俺を心配してくれる行動は変わらない。
なるほど、ここからスタートというわけか。理解した。
「だ、大丈夫だ」
そんなわけがなかった。
紅音が寝取られるところをすでに二回も目撃してしまった。精神は常にすり減り、俺の心をえぐった。
あの運命を変えられないのか……?
このまま同じように過ごせばきっと紅音は、あの男に奪われてる。そして、三日後の夕方。教室内で紅音を寝取られる。
そんな残酷な運命が待ち受けている。
俺はそれを知っているんだ。
それなら過去を変えるしかないよな。
そうだ。
あのアプリは俺に過去を変えろというメッセージでもあるのだ。
誰の仕業――いや、素敵なプレゼントか知らんが、ありがとよ……!
「陽くん、保健室行く?」
「紅音は先に行ってくれ。俺はちと用事がある」
「そうなんだ。じゃ、またね」
少し寂しそうに紅音は校舎へ。
本来ならお昼を食べに食堂へ向かうところだった。
けれど、このままでは運命を変えられない。なにか方法を考えねば……。
一人で悩み続けるか、それとも誰か頼れるヤツを探すか。
気づけば校庭にある簡素なベンチに腰掛けていた。俺は頭を抱え、悩むばかり。
「……どうすりゃいい」
「おや、君は
ベンチの隅に女生徒がいた。
ん……この人は。
ああ、そうだ。
同じクラスの
成績優秀で、容姿レベルも高い。それに制服越しでも分かる巨乳だ。
金髪というかクリーム色のような髪が目立つ。だけど、彼女は不思議と一人を好むようで、誰かといるところを見たことがない。
「古河さん、いつもここに?」
「そうだよ。昼食のパンを食べ、読書中さ」
彼女は【存在と時間】という本を読んでいた。
著者はハイデガー? 知らんな。
けど、なんだか俺の状況を説明すれば解決策を教えてくれそうな気がしてきた。
あんな難しそうな本を読んでいるんだ。ワンチャンあるかもな。
「古河さんは……その、タイムマシンだとか、そういうの好きかな」
「タイムマシンとは唐突だね。これでも、あたしはオカルト研究部の部長なんだ」
「マジか。それは知らなかったよ」
「タイムマシンのことを聞きたいのかい?」
「いや、俺が聞きたいのは運命は変えられるのかってこと」
「なるほど。タイムマシンで過去を変えたいというわけか」
「ま、まあ……例えばの話だけどね」
すると古河さんは微笑んだ。
興味津々らしい。
あのアプリのことは話さない方がいいだろうな。どうせ信じてもらえそうにないし。というか、あれが果たしてタイムマシンなのかすら分からない代物だ。
「つまり、君は“過去改変”をしたいわけだ」
「そう、それ。これも例えばなんだけど、三日後にAさんが連れ去られるとする。その運命を変えたい」
さすがに“彼女を寝取られる”だなんて言えないから曖昧にした。
「……ふむ。四之宮くん、なんだか具体的だね」
「っ! そ、そんなことないよ。そういう研究をしているんだ!」
「ふぅ~ん。まあいいや」
疑いの眼差しを向けられる。
なんだか見透かされているようで怖いな。
「とにかく教えてくれ」
「運命は変えられるものだよ。だけどね、過去に戻って下手に干渉すると未来が大きく変わってしまう場合がある。どちらかと言えば、
「どういうことだい?」
「世界線という言葉を聞いたことがあるかな」
「知らないな」
「簡単にいえばパラレルワールドなんだけど、実は様々な世界があるんだよね。ああなっていた運命、こうなっていた運命とか……分岐しているんだ。だから、どんな世界線に変わるか分からないし、とても危険なことなんだ」
「じゃあ、運命は変えられない?」
「いや、さっき言ったでしょ。運命は変えられるって。……なんであれ、Aさんの連れ去りを阻止することは可能だと思うよ。でも、最終的な解決策を見つけるのは困難を極めるだろうね」
そうだったのか。でも、もしかしたら紅音が寝取られない世界線があるかもしれない……ってことだよな。
なんだか少し希望が見えてきた気がする。
「おかげで助かったよ、古河さん」
「そうかい。またいつでも声を掛けて」
俺は礼を言ってベンチを離れた。
危険であろうとも運命を変える。俺は紅音を寝取られたくないんだ……!
今は情報を集める方が先決だ。
紅音がなぜあの男に寝取られてしまうのか……探らねば。
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