幼馴染と生徒会長③

 ――随分と楽しそうね? 


 と、口元の笑みを絶やすことなく言った奈央なおの目は笑っていなかった。……うわぁ、超不機嫌。


 奈央はちらり、九条くじょう先輩へ視線を移す。

 俺を上から睥睨する奈央。


「彼女は……確か、百瀬ももせさんで合っているかな北崎君?」


 はい、間違いございません。あと、唐突に肩を掴まないでください九条先輩。痛いです。


「ところで、君と彼女はどういう関係?」


「幼馴染です」


「10年来の幼馴染です」


 俺の言葉に奈央から訂正が入りました。


「ふーん、なるほどね」


 奈央に視線を移して、口角を吊り上げながら九条先輩は口を開く。


「わざわざ10年を誇張するあたり、独占欲が強い幼馴染みたいだね?」


「は?」


 九条先輩の言葉に青筋を立てる奈央。……やめて! 仲良くして!


 不意に九条先輩は、ぎゅっと俺の腕を絡めて言う。


「幼馴染ちゃんには悪いけど――――彼と僕は見ての通り特別な関係なんだ」


「「……は?」」


 俺は直ぐ様九条先輩に視線を移した。


 悪戯染みた笑みを浮かべる九条先輩。


 ちょっと何言ってるのこの人!?


 ――はっ、と恐る恐る奈央に視線を移す。


「……」


 ……10年来の幼馴染なのでわかります。ゴミを見る目ですね。


 奈央は鋭い剣幕で此方をを睨みつけながら、


「……消す、社会的に」


 親指を首元に添えて、怒気を孕んだ低い声音と共にはっきりと言った。何それ怖い!!


 舌打ち交じりに奈央は教室へと踵を返した。


 ため息交じりの声音と共に俺は九条先輩に問うた。


「……なんで奈央にあんな大嘘を吐いたんですか?」


「幼馴染マウントが癪だったから?」


 膝下で頬杖を付きながら九条先輩は苦笑交じりに言った。


「何故に疑問形?」


「冗談だ。……まあ、先輩をからかった仕返しと思ってくれたまえ」


「なるほど……」


 内心頭を抱えるどうも俺です。放課後、ハーゲン○ッツ買って帰るから機嫌直してくれないかなぁ…………直してくれないなぁ。


「ねえ、北崎君」


「はい――」


 二度、悪戯染みた笑みを浮かべて九条先輩は口を開く。


「――いっそ僕達、本気で付き合っちゃおうか?」


 冗談交じりに言う九条先輩に俺はくすっと笑いながら言葉を返した。


「あははっ、九条先輩見たいな可愛い女の子と付き合えたら夢みたいですね〜」




「……ふㇸぇ?」


「え?」


 九条先輩はみるみる顔を紅色させて、か、か、かわわわわわ――と口を震わせる。


「ちょっと、九条先輩?」


「す、すまない! ぼ、僕はちょっと用事を思い出したから失礼するよ!」


 勢い良く立ち上がった九条先輩は、耳に掛かった黒髪を指先に絡めていじりながら、口を捲し立て足早に体育館裏を後にした。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


二階堂にかいどう先輩、駄犬が来ました」


「よ〜し、確保ー」


「嫌です」


「はい……えぇっ、竜胆りんどう先輩!? 私一人じゃ北崎さんを抑えることができません!」


椎名しいなファイト」


 放課後、生徒会室へ足を進めると開口一番に竜胆と椎名の声音が耳に響いた。


 竜胆に駄犬扱いを受けたがスルーして置く。椎名に関しては『駄犬→北崎さん』という認識止めない?


「……あの、何か?」


 凛とした表情で堂々と生徒会長の席へ腰を下ろす二階堂先輩。


「後輩くんに聞きたいことがあるんだけど、嘘偽りなく正直に答えてくれるかな?」


「はい」


 机の上に肘をつけながら、柔和な笑みを浮かべて二階堂先輩は言った。


「後輩くん、君は会長と付き合ってるの?」


「いいえ」


 俺が頭を振ると一瞬、生徒会室は静寂に包まれた。


「……ん?」


「……あれ?」


「嘘偽りなく正直に答えてってあたし言ったよね?」


「嘘偽りなくいいえです」


「あれぇ?」


 二階堂先輩は小首を傾げた。


 二階堂先輩に続いて竜胆が口を開く。


「会長本人から聞いたけど、昼休みに会長を誑し込んだんじゃないの?」


「言い方あァ! ……いや、ちょっと待て。今、会長本人から聞いたって言った?」


「言った」


 こほんっと咳払いを一つしたのち、柔和な笑みを浮かべながら二階堂先輩は口を開く。



「後輩くんは、会長のことを可愛い可愛いって言って女の子扱いしたでしょう?」


「……確かに言いました」


「あのね、後輩くん。会長は可愛いという言葉に免疫がないの。異性からなら特に」


「……なるほど」


「言ってしまえば会長はちょろい!」


「ちょろいって……」


「ちょろい者はちょろい! あと、重い」


「はい?」


 今、重いって言いました?


「……まぁ、そこは置いといて――会長はちょろい! はい、みんな復唱」


 ぱんぱんと手を叩きながら二階堂先輩は言った。


「「会長はちょろい!」」


「ちょっと、竜胆リンちゃん声出てないよ! もう一回! 会長はちょろい!」


「「会長はちょろい!」」


 二度、竜胆は口を開くことはなかった。何故か?


「会長が扉の前に居るのに、言うわけないじゃないですか」


「「「えっ」」」


 ガラっ――――と、開かれた扉の前で強張った笑みを浮かべながら九条先輩は言った。


「誰がちょろいって凪紗なぎさ?」


「……やっべー」


 囁くような声音で二階堂先輩は呟いた。


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本編とは全く関係ない番外編を書きたくなり、千尋がメイド服を着た春休みの話を書こうと思いましたが、書いては消してを繰り返してました。

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