生徒会と奉仕活動②

 俺は九条くじょう先輩と一緒に生徒会室を後にする。


「どこに行くんですか?」


「職員室だよ。君は『生徒会だより』という物を知っているかな?」


「はい、知ってます」


 九条先輩の言葉に首を縦に振る俺。


『生徒会だより』とは、月に一度、生徒会が発行しているプリントである。月毎の学校行事、時事ネタ、ちょっとした豆知識等が記載されている。


「知っているのなら話が早い。明日、生徒会だよりを配布する予定なんだ」


「なるほど」


 九条先輩曰く、生徒会だよりは学校内に幾つか置く場所が決められている為、一緒に『生徒会だより』を運ぶのを手伝って欲しいとのこと。お安い御用だ。


 ――職員室まで辿り着くと、生徒会顧問であるあずま先生は九条先輩に見えるように軽く手を上げて、気怠そうな声音と共に言った。


「『生徒会だより』なら出来てるぞー、俺のデスクにあるからさっさと取りに来てくれ」


 失礼します――と、言って九条先輩の後ろに続いて、俺は職員室に足を踏み入れた。


 東先生のデスクには印刷された『生徒会だより』という題目のプリントが束になって置いてあった。


「かなりの枚数ありますね」


 200枚くらいはあると見てとれた。


「いつものことだよ。持てるか?」


「舐めないで下さい。余裕です」


「おー、さすが男子」


 くすっ――と、笑いながら言う九条先輩。


「俺のデスクでアオハルはやめてね? ほれ、さっさと行った行った」


 しっしっと、片手で追い払う仕草と共に東先生は変わらず気怠そうに言った。俺は束になった生徒会だよりを持って、九条先輩と一緒に職員室を出た。


「――九条先輩」


「……っ!?」


 九条先輩と呼んだだけなのに、そんな驚くことあります?


 こほんっと咳払いを一つして息を整えながら、九条先輩は言う。


「いや、すまない。後輩に先輩呼びされることがあまりなくてね……その、つい、驚いてしまった」


「はい?」


 困惑に満ちた表情を浮かべる俺に、九条先輩は苦笑交じりに口を開く。


「後輩達は僕のことを『会長』か『王子』って呼ぶんだ」


「後輩から王子って呼ばれてるんですか……」


「うん、呼ばれてる。……えっ、鼻で笑われてる?」


「笑ってませんよ?」


「何故疑問形なんだ……まあ、いい。話を戻そう。

 僕って昔からそうなんだけど、女子じゃないって感じだろう? 特に後輩達からは王子と呼ばれることの方が多い」


「初耳なんですが……」


 俺の言葉に九条先輩は口を押さえて笑う。


「――あははっ! いや、すまない。つい、おかしくて……うん、君はそうかもしれないね。僕が生徒会長になってからは、どちらかといえば『会長』呼びの方が浸透しているよ」


「俺も『会長』と呼んだ方が良いですかね?」


「いや、さっきは驚きはしたが、君には九条先輩と呼んでほしい。なにかと新鮮味を感じる」


「さいですか」


 つい、話し込んでしまったね――と、苦笑交じりに言う九条先輩に続いて俺は足を進めた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『生徒会だより』を各設置場所に補充し終えた俺と九条先輩は生徒会室へと踵を返した。


 九条先輩は余った先月分の生徒会だよりを手に持っている。


「おや?」


 生徒会室の扉に手を掛けた九条先輩は開口一番に声を上げた。


 視線の先には、椎名の隣でスマホを弄る見知らぬ女子生徒が居た。制服は着崩している。


「あ、会長おかえりー。その人が竜胆リンちゃんと椎名しいなが言ってた変態?」


「違います」


「じゃあ、竜胆ちゃんが言ってた生徒会あたしらの犬?」


「はい」


「はい、じゃねぇよ」


 九条先輩は苦笑気味に口を開いた。


北崎きたざき君紹介しよう。彼女は生徒会書紀の二階堂にかいどう凪紗なぎさ。学年は私と同じ3年生だ」


「先輩だよ〜。話は二人から聞いてる〜、一週間よろ〜後輩くん」


 手をひらひら振りつつ二階堂にかいどう先輩は言った。


 ――二階堂凪紗。


 ゆるふわウェーブが掛かった金髪ロング、端正な顔立ち。日に焼けた肌、タレ目メイクと垢抜けた容姿が印象的な美少女。


「よろしくお願いします」


「二階堂先輩! 今日の生徒会日誌担当は二階堂先輩ですよ」


「――あっ、椎名、ポッキー食べる?」


「わぁー! 良いんですかー!」


「うん、いいよ~」


「いただきます!」


「はい、どうぞ~」


 言って、隣の椎名にポッキーをあ~んと食べさせる二階堂先輩。


 さらっとお菓子で椎名の気を引いて、話を逸しやがった……手慣れてるなこの人。


「――後輩くん後輩くん」


 二階堂先輩は、こっちにおいでと言わんばかりの手の仕草と共に俺を呼ぶ。何故だろう? 彼女が持つ生徒会日誌を押し付けられそうな気がしてならない。


「えー、なんでそんなに警戒してるの? ひどーい、あたしはただ、後輩くんに肩を揉んでほしかっただけなのにぃ」


「ぜひ、やらせていただきます」


 誠心誠意全力で揉ませて頂きます! 


 という意気込みで二階堂先輩の元へ足を進めようとしたところ、


「北崎君?」


 強張った笑みを浮かべる九条先輩に腕をがっつり掴まれた。なんで?


 九条先輩に続いて、竜胆りんどうが訝しげな視線と共に言う。


「二階堂先輩、あの男から厭らしい視線を感じます」


「えー、そうなの後輩くん?」


「二階堂先輩、俺の目を見てください。先輩の肩を揉む以外のことは何も考えていませんよ」


「ほんとだ竜胆ちゃんが言った通り厭らしい」


「なんでだよ」


「後輩くんには罰として、あたしの代わりに生徒会日誌の記入を命じます。ということで後輩くんには、この生徒会日誌を贈呈しま〜す♡」


「……」


 二階堂先輩は立ち上がり、未だ九条先輩に腕を掴まれたままの俺のところまで距離を詰めて、微笑交じりに言った。……ちくしょう、結局押し付けられた!


 18時15分


 生徒会日誌をなんとか書き終えた俺。


 机の上で項垂れる俺に対して、九条先輩はいつの間にか自販機で購入していた甘すぎる缶珈琲を手元に置いて言う。


「お疲れ様」


「本当に疲れました……ありがとうございます。いただきます」


 冷えた缶珈琲を開けて喉を潤す。……甘い。


 生徒会室には俺と九条先輩しか居ない。他の生徒会メンバーは本日の活動を終えて、既に帰路へと踵を返している。解せぬ。


「さて、僕達もぼちぼち帰ろうか」


「はい」


 俺と九条先輩は生徒会室をあとにした。


 日誌と生徒会室の鍵を顧問の東先生に返却したのち、昇降口まで足を進める。


 俺は無事に奉仕活動一日目を終えた。葛原くずはら? 知らね。


「北崎君」


「はい、北崎です」


 上履きからローファーに履き替え、校門前まで足を進めたところで、九条先輩は微笑交じりに言う。


「明日挨拶運動があるから、朝の7時までには学校に集合して置くように」


「……パードゥン?」


「朝7時学校集合。既に葛原君にも伝えてある。遅刻は絶対にしないように、わかった?」


「……ワカリマシタ」


「では、また明日」


「また明日」


 お互い手を振りながら俺と九条先輩は校門前で別れた。


 そっかそっか、生徒会の挨拶運動かー。奉仕活動の一環としたら強制参加だよなぁ……はぁ。


 俺はため息交じりに、重い足を上げながら家路を急いだ。


「ただいまー」


「――おかえり」


 自宅へと辿り着いた俺に、開口一番、不機嫌そうに奈央なおは言った。


 ……というか、なんで彼女は俺のパーカーを着てるんですかね? 


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