生徒会と奉仕活動

 ――放課後。


 生徒会室へとやって来た俺と葛原くずはら


 生徒会室の扉をノックしたのち


「どうぞ」


 九条くじょう先輩に促されるがまま、本日二度目の生徒会室へ足を踏み入れた。


「来たか」


 生徒会室には九条先輩以外に二人の女子生徒が居た。


「会長、この人達は誰ですか?」


 小柄な女子生徒が九条先輩へ首を傾げて問う。


 九条先輩が口を開くより先に、彼女の対面に座る眼鏡を掛けた女子生徒が淡白な声音と共に口を開く。


椎名しいな、覚えてないの? 今朝、会長に名指しで呼び止められてた生徒が居たじゃない」


「――あっ、確かに居ました! ……つまり、あなた方二人は不良、学園の問題児ということですね!」


「何故そうなる」


「あら、問題児という点は間違っていないでしょう?」


 椎名という名の女子生徒に追随する形で、にこっと笑みを浮かべて眼鏡の女子生徒は言った。……わー、目が笑ってない。


里緒りお、落ち着いて。三玖みくもそんな怖い表情しないで、二人が後退ってしまうだろう?」


 くすっ――と、笑って二人を宥める九条先輩。


「いえ、御褒美です!」


 葛原こいつは何を言っているんだろうか?


「二人は不良生徒ではないよ。僕が保証する」


 そして、九条先輩の一人称は『僕』だった。


「まあ、変態かもしれないが……」


「ちょっと? 変態枠に俺を囲わないで下さい!」


 俺と葛原から若干距離を置く九条先輩に思わず声を張り上げた。


「生徒会メンバーを紹介しよう」


 と、柔和な笑みを浮かべながら九条先輩は言った。


「彼女は副会長の竜胆りんどう三玖みく。学年は君達と同じ2年生だ」


 ――竜胆三玖。


 紫長髪を纏めたサイドテール。容姿端麗。黒眼鏡を掛けた女子生徒。


「ちなみに三玖の眼鏡は伊達眼鏡だ」


「会長、余計なことは言わないでください」


「竜胆さんは伊達眼鏡……竜胆さんは伊達眼鏡……覚えた!」


 九条先輩、隣で独り言のようにインプットしてる葛原クズがいます。あと、何かメモってます。


 続けて、九条先輩はもう一人の小柄な女子生徒の肩にそっと手を置き口を開く。


「そしてもう一人、この子の名前は椎名しいな里緒りお。学年は君達の一つ下で、我が生徒会の癒やし担当」


 会長に同意します――と言わんばかりに小さく何度も頷く竜胆りんどう


「違います! 生徒会の会計です!」


 冗談交じりに言う九条先輩に対して、椎名はぷくっと頬を膨らませながら声を張り上げた。


 ――椎名里緒。


 茶髪、ショート。あどけなさが残った可憐な顔立ち。


 栗色に染まる大きな瞳と、小柄で華奢な体躯が印象的な女子生徒。


「――椎名ちゃんは舐めたくなるような可愛さと、メモメモ」


 一言もそんなこと言ってないんだよなぁ……お前の耳どうなってんだ?


「他のメンバーは、また来た時に紹介しよう。――と、その前に」


「……あっ」


 流れるような足取りで葛原の間合いを詰め、奴が先程から書き込んでいたメモ帳を剥ぎ取る九条先輩。お見事。


「彼は葛原くずはら拓真たくま君」


 九条先輩は、端的な自己紹介と共に葛原のメモ帳を二人に手渡す。


 渡されたメモ帳の内容にぺらりぺらりと目を通していく――――二人の表情が段々と強張っていくのがわかる。あっ、これ知ってる。ゴミを見る目だ。


「名は体を表すとはまさにこのことねクズ」


「こ、こんなメモ帳……女子生徒達の敵です! へ、変態!」


「女子から言われる罵詈雑言なんて、俺にとっては御褒美だぜ★」


 この葛原クズメンタル鋼過ぎない?


「……ふむ、なるほど。では僕からも一言良いかな? 変態君」


 呼び方が『変態』に切り替わってる。


「どうぞ!」


 爽やかな笑みを浮かべて首を縦に振る葛原。


「――君も彼等と一緒に校庭の草むしりを命じる」


「……Oh」


 葛原は、それはそれは綺麗な土下座を決めて、草むしりの撤回を求めたが、これは葛原君個人に対する追加の罰則だ。君に拒否権はないよ――と言われ九条先輩に一蹴された。


 彼女の後ろで、ぱちぱちぱちと拍手する竜胆と椎名を尻目に、葛原は生徒会室を後にした。


「最後に、彼は北崎きたざきかすみ君。葛原君含め奉仕活動の一環として、今日から一週間生徒会の雑用係としてみっちり働いてもらう。遠慮なくこき使ってくれ」


「……一週間よろしくお願いします」


 九条先輩の言葉に二人はそれぞれ反応する。


「へぇ、つまり貴方は一週間、生徒会の犬ってこと?」


「できれば人として扱ってくれ。まあ、俺にできることがあればなんなりと」


「ゾクゾクするわね……」


「ちょっと待て、なにさせる気だ!?」


 竜胆の笑みに悪寒が走る。……なるべく副会長と一緒に居ることだけは避けよう。


北崎きたざきさん!北崎きたざきさん!」


 ぱあっ――と、目を輝かせて、てくてく此方へと距離を詰める椎名。


 彼女は絶えず栗色に染まる瞳を輝かせながら、口を捲し立てた。


「こ、これから一週間は、生徒会で重たい荷物や備品を運ぶ時は、北崎さんに頼めば良いということですか!」


「……っ、そうだね、そういうことだね!」


「やったー!」


 と、言って小さくジャンプする椎名。……ま、眩しい眩し過ぎる。

 竜胆の後だから余計に光が際立つ。というか、荷物運びくらい別に一週間と言わず毎日運びますよ?

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