北崎と百瀬③

 時計の針が13時を示す5分前。


 弁当を食べ終えて後片付けを済ませた奈央なおは、地面から立ち上がり、んっと吐息を漏らして大きく背を伸ばした。


「そういえば、今日ってバイト?」


「バイトだな」


 俺は奈央の家族が経営している『喫茶店百瀬』でアルバイトをしている。


「そっか、夕食もウチで食べていくでしょう?」


「どうかな」


「食べていくでしょう?」


「……お邪魔じゃなければ喜んで」


「よし」


 目を細めて笑う彼女を見ながら俺は重い腰を上げた。


「おーいカスー、約束通りバスケしようぜー!」


 お互い教室へと踵を返そうとしたタイミングで、不意に声を掛けられた。声の主は言うまでもなく葛原クズである。


 爽やかな笑みを浮かべながら複数人のクラスメイト達を連れて、悪友は此方へとやって来た。


「約束?」


「してないそんな約束してない。なんなら室内シューズも持って来てない」


 小首を傾げて問うた奈央の言葉に頭を振る俺。


 俺の言葉を聞いて葛原は「ほらよ」と、言って手に持っていたシューズケースを俺に投げ渡した。


「……」


 というか、俺のシューズケースだった。中にはもちろん履き慣れた室内シューズが入っている。


 あのゲス野郎は絶対後で埋めて帰ろう。


「なんで百瀬ももせさんが此処に居るんだ……」


 葛原の後に居る男子生徒が奈央にちらり視線を向けて、独り言のように小さく呟いた。


 続けて男子生徒達が葛原の肩を叩いて小さな声で言う。


「おい、どうする葛原くずはら、百瀬さんが居たら北崎をバスケと称して潰す計画に支障が出るぞ」


 あぁ? 普通に聞こえてんぞ駄阿呆。……まあ、薄々そんな気はしてたけども。


「大丈夫だ計画に支障はない」


 真面目な表情でなに言ってんだこいつ。本人に聞こえてる時点で支障出まくりだろ?


 ちらり、俺と奈央を交互に見た葛原は口角を吊り上げて言う。


「それより気にならないか? 何故あの二人が一緒に居たのか」


「「「……確かに気になる」」」


「一緒にお昼を食べただけだよ?」


 苦笑気味に奈央は言った。


「「「幼馴染特権かちくしょう!」」」


 葛原は男子生徒達の反応を見て、一人腹を抱えて笑う。


「じゃあ、私は先に戻るね――――ちょっとかすみ、なんで私の手を掴むの?」


 教室へと踵を返す奈央の手を掴み、俺は彼女を引き留める。続けて口を開いた。


「頼む。まだ行かないでくれ」


「……えっ、なんで? 友達とバスケするんでしょう?」


「端的に言うと命に関わる。後、友達じゃない」


「はい?」


 奈央は、なに言ってんだこいつ? 見たいな表情を浮かべた。


「バスケしないの?」


「あいつ等の会話を聞く限りそれはない。……頼む奈央、バスケットボールとコートを血で汚すわけにはいかないと思って、俺の側に居てくれ。おなしゃす!」


「……ちょっと何言ってるかわからない」


 深々と頭を下げる俺に奈央は小さくため息を吐いた。


「わかった……」


 呆れ交じりに奈央は頷いた。


 よっしゃああああああぁ!!


 奈央が見守る中、無事安心安全なバスケが始まったが、開始して10分も経たないうちに彼女は体育館から姿を消した。ちくしょう!


 安心安全なバスケは一瞬のうちに瓦解した。


「覚悟しろ北崎!」


「狩る」


「百瀬さんとイチャイチャしてんじゃねえー!」


「上等だ! 全員返り討ちにしてやる!! かかってこいやああぁー!!!」


 俺はクラスメイト達と、闘わなければ生き残れない争いに身を乗り出したのである。


 ちなみに、葛原はドリブル中に金的を狙い見事命中。一番最初に潰した。



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