北崎と百瀬②

 授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く昼休み。


 2年C組の教室は喧騒に包まれていた。


北崎きたざきー」


「あん?」


 購買部へ昼食パンを買いに行こうとした矢先、クラスメイトであり中学からの腐れ縁である悪友、葛原くずはら拓真たくまが声を掛けた。


 ――葛原拓真。


 黒茶ダークブラウンに染まる髪、端正な顔立ち、吊り長な目つき。背丈は高く筋肉質な体つき。口が軽く性格がゲスい残念なイケメンである。


「昼飯食べ終わったら食後の運動がてら、クラスの何人か誘って体育館でバスケしようぜ」


「嫌だよめんどくさい」


「それじゃ、13時に体育館集合な! 室内シューズは忘れずに持って来いよー」


「おい、人の話はちゃんと聞けよ葛原クズ


「俺は百瀬ももせの件でお前を妬んでる奴等に頼まれただけだよカス――あっ」


「「……」」


「……おい、今なんて言った?」


 葛原くずはらは咳払いを一つしたのち、口角を吊り上げながら言う。


「大丈夫大丈夫、最初はちゃんとバスケするつもりだから」


「絶対する気ないだろう!!?」


 足早に教室から後退る葛原に向けて、俺は声を張り上げながら言った。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 購買部で、無事パンと飲み物を買った後、体育館裏まで足を運んだ。昼食を摂るときはいつもこの場所である。


 快晴の空の下、校庭を見渡しながらパンを食べることが昼休みを過ごす俺の日課になっていた。


 ちなみに、千尋ちひろにもスマホのメッセージアプリを通じて、「お昼一緒に食べよ?」と誘ったが、今月は未だ既読スルー又は未読スルー。


 大丈夫、お兄ちゃん慣れてるから。弟に無視されたからって泣いてなんかないから。


 袋からメロンパンと紙パックのカフェオレを取り出す。


 メロンパンの包を開封したタイミングで、スマホからメッセージアプリの通知音が鳴った。


 えっ!? まさか、本日ついに千尋からの返信が――――、


「――あ、なんだ奈央なおか……」


「――なんだとはなんだ、失礼ね」


「うおっ、びっくりしたー」


 不意打ちとばかりに、奈央は眉間に皺を寄せつつ、自身のスマホを手に持ちながらじと目を向けて、すたすた此方へやって来た。


ディスプレイに表示されたメッセージアプリには、


 あんた今一人?


という文字が表示されていた。


 体育館裏の出入口扉前にある段差が少ない階段に腰掛けていた俺を見て奈央は口を開く。


「というか、やっぱり此処ここに居た。隣、詰めて」


「あ、はい」


 奈央に言われるがまま、自分が独占していたスペースを体を端に寄せて空ける。


 奈央はちょこんと隣に腰を下ろした。手には小さな包に入った弁当箱を持っている。


 俺はすぐさま首を傾げて彼女にうた。


「いつもは教室でクラスメイト達と一緒に弁当食べてなかった?」


「……さっきまで呼び出されてたの」


 若干、不機嫌そうに言う奈央。


「先生に?」


「名前も知らない後輩に」


「……ひょっとして、また告られたのか」


「YES」


「返事は?」


「いつもの常套句、ごめんなさい。好きな人が居るのでー」


「えー……今月何人目?」


「……んー、10人目?」


「さすがですお嬢様」


 言って、メロンパンを一口サイズに千切ってぱくりと口の中に放り込む。


「別に」


 と、奈央は低い声音と共に小さく呟いた。


「ねえ、かすみ


「ん?」


「私のピーマンの肉詰めハンバーグと霞のカツサンド交換しない?」


 包から弁当箱を取り出して、ぱかっと蓋を開けたと同時に弁当の中を凝視すること数秒、俺が袋からカツサンドを取り出したところを見て――彼女は言った。


「やだ」


「なんでぇぇ……」


 俺の言葉に段々声が弱々しくなる幼馴染。なんでと言われても返す言葉は一つだ。


「好き嫌いせずに食べなさい。波瑠はるさんが奈央の為に朝早くから準備して作った弁当なんだから」


 波瑠さんとは奈央のお姉さんである。


「……うん、わかった」


 俺の言葉に奈央は首を縦に振る。続けて彼女は口を開いた。


「ハンバーグは私が食べるからピーマンは霞が食べて」


「好き嫌いせずに食べろや」


 俺は笑みを絶やすことなく、語気を強めてはっきりと言った。


 ……結局、奈央はブレることなく、ピーマンとハンバーグを取り分けて、箸で掴んだピーマンを「はい、あーん♡」と柔和な笑みを崩すことなく、俺の口元へねじ込んだ。半ば強引である。



 ……ざけんな!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る