俺の幼馴染は外では澄ましているが――家ではだらしない。

桜井日高

北崎と百瀬

 おれの幼馴染百瀬ももせ奈央なおは、学園内で高嶺の花と称される程の美少女である。


 学年問わず、分け隔てなく笑みを絶やさず、優しい彼女に対して、告白する人は多数居た。


 告白した相手に対する奈央の返事は一貫してNOである。


 一度、クラスメイトにこんなことを言われた。


北崎きたざきの幼馴染が百瀬ももせさんなんて羨ましいよ」


 ――と。


 俺、北崎きたざきかすみは声を大にして言いたい。


 ――完璧な外面に騙されるな!


 外では女を捨てないがあいつのモットーである。


 家や幼馴染の前ではどうしようもなくだらしないんですー!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 5時30分


 ピピピ! ピピピ――と、スマホのアラームが鳴った。


 手探りでベッドの横に置いていたスマホを探す。


 スマホを手に取りアラームを止めて、毛布の中で一度体を伸ばした後、おれはゆっくりとベッドから起き上がった。


 自室から出て、階段を降り朝の身支度を済ませる。


 すっきりとした意識の中、俺は台所に向かい、腰エプロンを身に着けて朝食作りの準備を始めた。


 時計の針が6時を示すと俺は一旦作業を中断して、スマホを手に取り電話帳から幼馴染の番号へ発信を押す。


 5コール目で繋がると、彼女の寝起き声が耳に届いた。


「……はよ……ござ……す……ませ」


 これはがっつり寝ぼけてますね。


奈央なお、朝だぞー」


「……ん〜あと5分」


 若干不機嫌そうな声音で言う奈央。


「6時に起こしてほしいって言ってきたのは奈央だろ? ちゃんと起きなさい」


「……ふぁい」


 多分「はい」って意味だと思う。


「じゃあ、俺まだ朝食を作ってる途中だから」


「起こしてくれて……ありがと。また後で」


「あいよ」


 軽く言葉を返すと奈央は通話を切った。


 6時45分


 トースターに突っ込んだ食パンが焼き上がったことを告げる音が鳴った。


「おはようにいさん」


 寝起き特有の低い声音と共に、世界で一番可愛い弟(※異論は認めない)、北崎きたざき千尋ちひろがパジャマ姿のままリビングへと顔を出した。


「おはよう千尋ちひろ。もうすぐ朝食ができるから、顔洗ってこい」


「うん、そうするー」


 眠気眼を擦りながら顔を洗う為に千尋は洗面所へときびすを返した。


 俺は食卓にトーストと目玉焼き、フライパンで焼き塩胡椒で味付けしたウィンナーを乗せた皿を2つ並べた。大皿に盛られた野菜サラダを食卓の真ん中に置く。


 続けてティーカップにインスタント珈琲を注いだ。


 朝食の準備を終えたタイミングで、欠伸交じりに千尋が食卓に付く。互いに手を合わせて合掌。


「「いただきます」」


 トーストに苺ジャムを付けて頬張る千尋を眺めつつ、俺はティーカップに口を付けた。


 7時50分


 私立浅倉あさくら学園の制服ブレザーに着替えて通学鞄を持ちながら千尋と一緒に家を出た。


「――おはようお二人さん」


 家の鍵を閉めたタイミングで後方から声を掛けられた。

声がした方後に振り向くと、視線の先には幼馴染――百瀬ももせ奈央なおの姿があった。


金髪セミロングをお気に入りのヘアゴムで見慣れたツインテールにまとめている。色白、長い睫毛に切れ長な目つき、碧眼へきがん。細身で小柄ながら胸が大きい。


イギリス人の母と日本人の父を持つ。口元のほくろがセクシーなハーフ美少女。


 柔和にゅうわな笑みを浮かべて、千尋は奈央に対して口を開く。


「おはようナオちゃん」


「おっす」


 千尋に続いて俺は奈央に挨拶を返した。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 雑談交じりに私立浅倉あさくら学園に繋がる通学路を歩く。

 校門近くまで足を進めると、男女問わず奈央なおに対して声を掛ける浅倉生達が多数居た。


「相変わらずナオちゃんは大人気だね」


 と、苦笑交じりに言う千尋ちひろ。……ソダネ。


 奈央は微笑びしょうを交じりに周囲の生徒達と言葉を交わしていた。


百瀬ももせさんおはよう!」と言われれば「おはよう田中たなか君」と挨拶を返したり、「おはよう奈央ちゃん今日も可愛いね」と言われば「おはよう青山あおやまさん。あははっ、本当? 嬉しい、ありがと。青山さんも可愛いよ」と、はにかんだ笑みを浮かべながら言った。


「おはよう百瀬――髪切った?」


「おはよう――先輩――切ってません――」


 何度も彼女の名前を呼ぶ生徒達の声音が耳に響いた。


私立浅倉学園の校門をくぐり昇降口にて千尋と別れる俺と奈央。


下駄箱を開き、ローファーから上履きに履き替えたタイミングで、奈央は小さな欠伸を一つ。


「また後で」


「あいよ」


お互いクラスは別の為、階段を上り終えると軽く手を振り――各々教室へ足を進めた。

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