試食

天川裕司

試食

タイトル:試食


私はとあるスーパーで働いている店員。

私が働いてるのは1階の食品売り場で、

今日はそこの試食コーナーで働くことになっていた。


「いらっしゃいませ〜、安いですよーこのお肉、いかがですかぁ〜」


今日の試食コーナーのメインは、

とてもおいしくてジューシーなボンレスハム。

そのハムを小さく切って焼いて、

爪ようじを刺し、お客さんに食べてもらう。


一般にどこのスーパーでも見られるような

あの試食コーナーの雰囲気。


辺りにお肉を焼く良い匂いが充満し、

いろんなお客さんが寄ってきてくれた。


「やっぱり主婦の方が多いわね」

なんて思いながら見ていると、ちょっと小太りの

汚らしいランニングシャツを着た中年男性が、

その主婦たちの後ろから顔を覗かせてやってきた。


「(ンもう〜こういう所に来る時ぐらい、もうちょっときれいな格好してきてよね…汗)」

なんて思いつつ、

私はその男性を心の中で少し毛嫌いした。

まぁ私も女性ながら、その不潔感を

毛嫌いしていた感は否めない。


でもその人だって大事なお客様。


「いらっしゃいませ、おいしいですよ?どうぞ、おひとついかがですか?」

とその男性にも声をかけた。


男「………もぐもぐもぐ」


男性は爪ようじを刺したハムを3本ほど取り上げ、

一気に口にほおばり、おいしそうに食べていた。

でも終始、無言。


そして他の製品には目もくれず、

そのままスタスタ帰っていった。


「やっぱりああゆう人は買ってくれないよね。結局、試食 食べただけ」


なんて思いながら見ていると、

また次は別の男性が主婦たちの後ろから顔を覗かせ、

試食コーナーへやってきた。


でもここでふと変に思った。

さっきの男性と同じようなランニングシャツ。

ちょっと汚れてるし、不潔感も何となくそのまま。

でもさっきの人より痩せてるし、体型は違うし顔も違う?


別人だから当たり前だけど、でもその人を見ると

なんとなくさっきの人の面影が浮かんでくる。


そしてその人も黙ってハムを3つほど取り、

口にほおばってもぐもぐもぐ…とおいしそうに食べた後、

無言で帰っていった。


そしてまた見ていると、別の男の人がやってきて

ハムを3つほど取り上げ口にほおばり、もぐもぐもぐと食べた。


その人の服装もランニングシャツで、

さっきの人よりさらに痩せており、

顔も頬のところがものすごくこけ、

おそらく別人…


「(え…もしかして、さっきの人と同じ人…?)」


私は心の中で妙なことを思い始めた。


「あれ?」


気がつくと、さっきまでフロアにいた

お客さんたちが誰もいなくなっており、

それまでとは別世界を見ているような気がした。

まるで瞬きするその一瞬で、周りの世界が変わった様子。


気がつくと今目の前にいたあの男の人がいなくなっており、また向こうからランニングシャツの男がトコトコ歩いてきて、

試食コーナーの前に立ち止まる。私の目の前。


「き、きゃああぁあ!!」


私は思わず悲鳴をあげた。


その人はかなり痩せていた人だったけど

私の目の前でみるみるしぼむようにまた痩せてゆき、

風船がしぼむように骨と皮だけになった後、

顔の肉がボロッと落ちて、中から骸骨が出てきた。


男「シショクッテノハアリガテェヨナァ ソトデガシスルマエニコンナノシリタカッタヨォオォ」


私は恐怖のあまりうずくまった。


主婦の客「な、何してるんですか?大丈夫ですか?」


「……え?」


いつもの店内のざわめきが返ってきていた。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=8k5qlj9utZs

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試食 天川裕司 @tenkawayuji

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