深夜にプールに忍び込む話

@edamame050

第1話

夜中プールに忍び込む話

「本当に行くんですか?ひまりちゃん」


 網のフェンスによじ登ってる彼女を見上げる。


「ここまで来たんだから、引き返すわけにもいかないよ」


 彼女はなんでもないようにそう言うと、ひょいとフェンスの向こう側へと降りてしまった。


「ほら、ほのかも早く来なよ」

「う、うん」


 ひまりちゃんに促され私もフェンスにしがみつく、ふと誰かに見られてないか校庭に視線をやるとは真っ暗で辺りは静寂に包まれていた。


「大丈夫だって、ほら早く」


 私の心境を察してか、ひまりは手招きして私が早く登るよう急かす。

 フェンスの向こう側へと降り立つ。備え付けられた照明がプールサイドを、そして水面をネオンブルーに照らす。


「ふっふっふ、不法侵入成功だね、ほのか」


 ひまりちゃんは少年のような悪巧みに成功した笑みを見せて、ブイサインをこちらに見せる。


「やっぱり帰りましょうよ。バレたらまずいですよ」

「ビビリだなぁ、ほのかは」


 ひまりちゃんが制服のシャツのボタンを外して、スカートを下ろすとフリルのついた水着が露わになる。


「じゃーん! どう? 可愛いでしょ?」


 自信ありげに大きく腕を広げ、その場でぐるりと一回転するひまりちゃん。


「うん、すごく可愛いです」


 私は素直に手をパチパチさせて、彼女に賛美の言葉を送る。


「えへへ、ありがとう」


 にへらと表情を崩す彼女、こんな顔を見せてくれるのは私だけにだということを知ってるから、特別な気分になれる。


「ささ、ほのかも早く脱いで脱いで」


 ……正直、ひまりちゃんと違って私は平坦な体つきをしているから、積極的に見せるのは好きじゃない……


「早く早く」


 うぅ……脱ぐしかないか。

 私は身に纏ってる衣服を着ている水着を除いて脱ぎ捨てると、貧相な身体を隠すよう両手で自分を抱いた。


「おお! スクール水着! ほのかが着ると味が出て良いですなぁ」


 彼女はどこからか出してきた、カメラを構えるといろんな角度から私を撮影した。


「ちょっと、恥ずかしいから撮らないでください」

「その表情もたまらないねぇ」


 恥辱の撮影会を終えて私たちはプールに近づく。


「入る時は一緒に入ろうねー」

「うん」


 お互い手を繋いで、いっせーので飛び込むことにした。

 私は遅れないよう横目で何度か彼女を見ながら、タイミングを測った。


「いっせーのっ、せっ!」


 彼女の合図に合わせて私もプールサイドを蹴った。

 鼓膜に水が弾ける音が鳴り響くと、次に水泡の音で暫し包まれる。


「ぷはぁー、ひんやりするー」


 私が空気を求めて地上に顔を出すと、同時に隣で水しぶきをあげてひまりちゃんが頭を上げる。


 確かにひまりちゃんの言うとおり身体はプールの水に覆われて、熱帯夜ということもあってか心地よかった。


「それで、いつまで手繋いでんのさ」


 にやにやとする彼女に言われてやっと気づく。慌てて咄嗟に手を離す。


「もー、ほのかは私のことほんと好きだなー」

「う、うるさいです」


 茶化したように彼女は言うが、本当のことなのであまり強くは言えない。代わりに恥じらいの抗議としてら彼女に強がるのが精一杯だった。


 すると彼女は綺麗なフォームでクロールをして、あっという間に私から離れてプールの端に行ってしまう。


 それを追いかけようと必死に足をバタつかせるが、いかんせん私の体育の成績は一ということもあって、なかなか追いつけない。


「待ってください」


 途中、足が攣りそうになる。それでも彼女に追いつきたくて足を休めなかった。

 彼女が向こうから泳いでやってくる。


「ほのか、犬かきじゃ私に追いつけないよ?」


 そばにきた彼女の肩に手を置くことで、やっと私は足を休めることができた。


「せっかくだし、泳ぎ方教えてあげる」


 そう言うと彼女は私の背後に回って、後ろから手首を掴む。


「いい? 最初泳ぐ時はこうやって手を……」


 密着する彼女の肌身をその身で感じて理性がおかしくなる。

 彼女は懇切丁寧に教えてくれてたのだが、ありがたい講義の九割は私の煩悩によって無に帰してしまった。


「じゃあ、やってみよー」


 彼女の手をビート板代わりにして足をバタつかせる。半分のところまで来た時、私は体力の限界を感じて私は足を止めてしまった。


「ほらほら、あと半分だよ?」

「ひまりちゃん、も、もう無理」


 ひまりちゃんにしがみつきながら、ぷかぷかと浮かぶ。


「もー、仕方ないなー」


 ひまりちゃんは私を引き剥がすとプールサイドに上がって、何かを手に取りまたプールに戻って来た。


「何、取って来たんですか?」

「カメラ」


 彼女は一体何を考えているのだろうか?


「水中撮影しよ?」

「暗くて何も見えませんよ」


 彼女はカメラを構えるとそのまま水中に潜ってしまった。私も後に続くように息を止めて水面の下に潜る。


 水中で私はとりあえずピースをしてみた。

 取られてるか分からないが、それがセオリーだと思ったから。


 水中にフラッシュがたかれる、ところでそのカメラは防水仕様なのだろうか?

 しばらくポーズを何個か取ってみて息も続きそうになかったので、顔を出す。


「ぷはぁ、取れたかな?」


 彼女はカメラを確認する。


「あー、悪くないかも?」


 私も気になり覗き込むとそこにはフグのように顔を膨らませて、ピースをする私が朧げに写されていた。


「なんか嫌です!」

「まぁまぁ可愛いと思うよ?」


 それから私たちはプールサイドに上がると持参して来たタオルで身体を拭いて、そのまま服を着れば濡れるので一度水着を脱ぐことにした。


「タオルで隠さないでもっと自信持ってオープンにしなよ? ね?」

「目が血走ってるので、嫌です」


 制服に着替え終わると「ほのかの裸、見たかったのに」とひまりちゃんがぼやいていたが聞かなかったことにした。


 ***


「ね、今度は何しよっか」

 帰り道、街灯に照らされながら彼女は笑う。

「なんでも良いですよ」

 きっとこれからも彼女とならいろんな楽しいを見つけられるだろう。

 私たちの夏休みはまだまだ始まったばかりだ。




 






 

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