第8話 血の跡
私は狼と睨み合い槍を構えて隙ができるのを待つ。そこかしこで悲鳴が上がっているが私にはどうしようもない。というか狼から視線を逸らせば私も悲鳴を上げる側に仲間入りだ。
そうやって睨み合うことしばし。
突如として辺りに突風が吹いた。私の顔面を強風が叩きつけ、そして眼の前に居た狼が吹き飛ばされて地面を転がった。
私は目を細めて何事かと視線を風上へと向ける。するとそこにはグリフォンが居た。どうやら風の魔法で周囲を薙ぎ払った余波らしい。馬車の護衛も狼もハーピーも吹き飛ばされている。
そしてグリフォンは何を思ったのか私の方へ突っ込んできた。私は驚いたが、それでも構えていた槍を突き出すことに成功。何度も練習した基本の突きだ。
それがグリフォンの顔面を捉えるかに思われた。しかしすんでのところで急上昇されて避けられてしまう。その細やかな制動と軌道に思わず舌打ち。
「ちっ!」
上空で私達を睥睨するグリフォン。体躯には切り傷が付けられ血が地面に滴っているのが見える。結構な量に見える。どうやら護衛は仕事を全うしたようだ。グリフォンがひと鳴きして山道の向こう側へと飛び去っていく。それに合わせるかのようにハーピーも狼も散り散りに去っていった。
私達はそれらを呆然と眺めていることしか出来なかったのだった。
ただただ自分たちが助かったという事実に安堵しながら。
ただ助からなかった人も居たようだ。私の周りに居た行商人のうち一人足りない。
どうやら一人だけハーピーに持ち去られたらしい。
まぁ私には助ける義理も義務もない。余裕もなかったしね。他の行商人たちも助かった者たちで喜び合っているだけで誰も助けに行こうとは言わない。
まぁね。助けに行こうと言われてもハーピーの巣が何処にあるかも分からないけどさ。
「ふぅ……」
私は一つ大きく息を吐き、気を取り直して歩きだす。行商人たちも歩き出す。馬車も動き出した。お互いがお互いの目的地を目指して移動を開始する。
しばらく山道を登った先で道に血が落ちてるのを発見した。グリフォンの血か、それとも連れ去られた行商人の血か。どちらか分からないが行商人の一人がそれを見て一言。
「なぁ。もしこの血が行商人のものなら、彼の持っていた荷が手に入るかもしれないぞ?」
すると別の行商人が言った。
「でもグリフォンのものならヤバいだろ。手負いの獣は危険だぞ?」
そして三人目の行商人が言う。
「でも、よ。もし荷が手に入ったら儲けものだぞ」
……まぁ気持ちは分からんでもないが、欲を出すと碌な事にならんぞと思った私は、彼らの問答に構わず歩き出そうとする。すると今まで黙っていた行商人が言った。
「なぁ冒険者のお嬢ちゃん?」
「なんですか?」
「護衛料を出す。一緒について来ちゃくれんか?」
「……いくら出せますか?」
すると、それなりの額を提示してくれた。どうやら荷を見つけた時の皮算用で護衛料を出すつもりらしい。私は少しだけ迷ったが、結局はまぁいいだろうと頷いた。お金は欲しいからね。
というわけで手負いのグリフォンじゃありませんようにと願いながら血の跡を追うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。