第7話 混沌
道具屋では色々と購入した。まずはポーションだ。これは飲み薬のことで最下級の六等級を五本買った。六等級は栄養ドリンクと呼ばれている程度のモノで無いよりはマシと言う程度の効果しかないらしい。
他にも除虫剤を五本。二本は塗り薬。三本は火に焚べるタイプの物を選んだ。朝起きた時に虫に集られたくなかったので。
他には携帯食を三日分。水筒に水を一日分と涙石という水を生成してくれる石を購入した。生成してくれる水の量は二日分ほどとのことだ。
「さて、そんじゃあ山越えでもしてみますかね!」
ヤバそうなら引き返せば良い。まぁ山道は一日で超えられる程度の道らしいので、それほどではないだろうが。
翌早朝。夜も開けきらない内に私はギレッツェの町を出た。宿泊していたフローレの宿の女将が泣いていたのが印象的だった。私にとっては数少ない知り合いの一人だ。町に寄ったらまた来ますねと告げての旅立ち。
町を出る頃には空は濃紺から白へと変わり始めていた。山向こう側に太陽があるので、陽が差すまでには、もう少し時間がかかるだろう。晴天で風は微風が吹き上げている。まぁね海がある町だから当然なのだけど。
山には樹木や草木が生い茂っている。その間を馬車がすれ違える程度の広さの道が山奥まで伸びている感じだ。
意外にしっかりした山道だ。これなら迷うこともないだろう。私は人通りの少ない道を行く。他にも旅の装いをした人がぽつりぽつり。行商人かな。馬車移動じゃないのはグリフォン出没のせいだろうか。私は自分のペースで歩くのだった。
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道中。狼の遠吠えが何度か聞こえた。だが狼は賢い。人間を襲うのは稀とのことだ。一人でいる弱そうな人間を狙うらしい。でも人間だって馬鹿じゃない。徒歩の行商人は途中で一塊になって移動をする。
ギレッツェの町を出て、しばらくは一人で歩いていたが次第に私の周りを行商人が取り囲み始めた。なんとなく集団に見えなくはない距離。どうやら、いざとなったら私の腕を当てにしているのだろう。
ならなぜ声をかけないかと言われたら護衛料をとられるのが嫌だから。行商人といえども金が潤沢にあるわけではないのだ。護衛を雇う金を渋る程度に困窮した行商人集団。数は五人ほど。
「はぁ……」
いざとなったら一人で逃げるかな。助ける義理はないし。
そんな事を考えつつ山道を行く。山林はいつしか終わり岩だらけになった。
見通しが良い代わりに木々にはハーピーの姿がぽつりぽつり。
だが一つの群れに見える。ましてや上空にも意識を向けている集団にはハーピーは襲いかかってはこない。
私は時折、上空を見上げる程度で歩みを進めていく。狼は遠吠えだけで姿は見えず。
そんな感じで、そろそろ山頂に差し掛かろうとした所で前方から馬車がやってきた。二頭立ての馬車だ。荷台も牽いているし武装した護衛の姿も見える。
私達は脇の方へ避けて、何事もなくすれ違う、かに思われた。
そこで異変が起こった。突如として上空から大きな獣が襲いかかってきたのだ。無音で。
狙われたのは馬車に繋がれている馬。
「キュワァアア!」
甲高い獣の鳴き声。
誰かが叫ぶ。
「グリフォン!」
バッサバッサと羽音が聞こえる。でかい!
私はグリフォンの獣としての大きさに圧倒され動けない。
馬車の横に居た護衛がグリフォンに斬り掛かった。
しかし剣は確かにグリフォンを斬りつけたはずなのに、対象のグリフォンはピンピンしている。怪我も追わなかったようだ。傷一つ付くことなく馬を襲っている。なかなか防御力も高いようだ。馬の嘶きと護衛の怒声。グリフォンの鳴き声に羽音、といった具合で私はその戦いを呆然と見ているのだった。
グリフォンの前足は猛禽類の物で、その鉤爪で馬を捕まえて持ち去ろうとしている。しかし護衛だって抵抗する。そうはさせじと剣を振ってグリフォンを牽制しているのだ。
そこにグリフォンの居る場所の反対側から悲鳴が上がった。
「ひ、ひぃいい! た、助けてくれぇ!」
私が視線を悲鳴の方へ向けると、ハーピーに掴まれ上空へ持ち去られようとしている行商人が一人。意識がグリフォンに向いている間に、少し離れた場所に居た彼へ襲いかかったのだ。
私は足元に落ちていた石を拾いハーピーへ向かって投げた。それは見事にハーピーの顔へ当たったが、しかしハーピーも必死だ。鉤爪はしっかりと行商人を捕まえたまま。
私はもう一度、石を拾い投げつけようとした。そこになんと狼まで登場した。数は五頭ほど。どれも大きい。
「クソ!」
私は手に持っていた槍のことをようやく思い出して構える。私の持つ槍はそれほど長くはない。私の女性としては平均的な身長ぐらいしかない。大人一人分といえばいいか。
そんな槍を構えて狼を迎え撃つ。飛び掛かってきた狼に一線!
槍を一突き。すると狼はそれを避けて、私から距離を取って睨み唸り声を上げた。私は狼一頭と対峙して動けなくなってしまう。その間に他の狼が行商人を襲い始めた。あちこちで悲鳴が上がっている。
しかし私は狼一頭に全神経を釘付けにされ、周囲に気を配る余裕なんてなかったのだった。
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