第6話 ギレッツェの町を出よう

 旅に出よう。王になるために。


 季節はもうすぐ秋になろうかという時期のこと。私は一つの街で冒険者家業をしていても王には成れないと言う事実に直面する。


 それは、とある二人の老人を見たことだった。


 一人目は、ずっとこの町で冒険者をしていた人物で、現在はこの町の冒険者ギルドの支部長をしている。まだまだカクシャクとした人物だが、あくまでそこまで。それ以上には成れなかったそうだ。本人が言うには上には上がいて自分は世界の広さを知らない小物だった……とのこと。


 もう一人の老人は昔は有名な冒険者だったらしい。ダンジョンを二つ攻略したとして王に表彰までされたことがあるとのこと。で、領地を賜り一時は飛ぶ鳥を落とす勢いの人物だったそうだ。でも領地経営に失敗して、そこで終了。二度と返り咲くことなく今はよぼよぼの普通のお爺さんとして酒場の隅で安酒を傾けながら昔の思い出話を繰り返している。


 一つ所で冒険者をするにしても、ダンジョンを攻略して英雄になるにしても、その後なのだ。そこまでが過程でしかない。通過点。そこから更に上を目指さないといけないのだ。武力はあくまで取っ掛かり。


 ならばそう。旅に出ようとなった。


 まずは戦場に出るかダンジョンで一山当てるかしないといけない。そこがスタート地点なのだ。王に成るという道の。


 冒険者になりたての私は未だスタート地点にすら立てていないということだ。


 私が目覚めてから半年が経っている。十六歳の秋。急がないといけない。時間は有限だ。人ところにとどまって満足して腐るわけにはいかない。


 というわけで私はまず武力を得るために近隣にあるというダンジョンへ向かうことにした。力がいるのだ。まずは武力。


 私が今いる町は山と海に囲まれており、非常に小さくて不便だ。港もあるにはあるが、そっちを使うにはお金と権力が必要だ。今の私には使えない手段となる。となれば当然もう一つの道を行くことになる。私が発見されたという山道だ。


 まずは冒険者ギルドで情報を集めてみる。


「よくあるところとしてはハーピーや狼の目撃例ですね。他にはグリフォンによる襲撃が三件ほど報告されています」

「グリフォン?」


 受付嬢が答える。


「はい。おそらく若い、はぐれのグリフォンだと思われます」


 グリフォンに関して更に尋ねてみる。


「グリフォンは鷹の頭と翼に獅子の体躯を持った獰猛な肉食の魔物です。翼は風の魔法を制御する機関で、そこで複雑な高速起動を実現します。羽毛一つでも魔道具の素材として高値で取引されています。ちなみに南にあるレーフリア地方ではグリフォンに乗って戦う騎士団がいます。お強いそうですよ?」


 襲われた人の特徴を尋ねてみた。


「馬が狙われていますね。グリフォンにしてみれば人間より食べごたえのある馬の方がいいでしょうから」


 どうやら人間そのものには被害がないらしい。受付嬢がさらに情報を公開してくれる。


「この依頼は当ギルドからの特別依頼となっています。討伐した暁には多額の報酬が支払われます」


 私は気になったことを尋ねた。


「グリフォン自体は強いんですか?」

「はい。魔物の強さとしては上から二つ目のランクでBランクとなっています」


 新人の私には無理だ。最下級のFランクに属するゴブリンですらやっとこさなのに。私が言いたいことに気がついのだろう。受付嬢が少々困り顔で言った。


「人間が襲われたという情報は今のところありませんし、いちおう山道を通る方には注意喚起も出していますし、山に向かわれるにしても大丈夫じゃないですか?」


 ……飢えていたらその限りじゃねぇだろ。他人事だと思いやがって適当いいやがってという言葉を私は飲み込み、次にハーピーについて尋ねた。


「ハーピーは人間の女性のような上半身をしていて翼のある魔物です。上空から襲いかかってきて、その鉤爪で人間や動物を掴み上空へ持ち上げてから地面に叩きつける狩りを得意としています。強さ的にはFランクです。油断していない限り、どうということはない魔物だそうですよ?」


 ふむ。そうなると狼の方が怖い?


 そう尋ねてみると、受付嬢がしっかりと頷いた。


「そうですね。ハーピーより群れた狼の方が怖いそうですよ」


 なるほどね。


「ありがとう。有益な情報だった」


 私は旅立つ準備を行うために道具屋を目指すのだった。

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