第5話:仕事と訓練
何の技能もない。何も取り柄のない女性が冒険者ギルドで仲間を募っても人は集まらない。では人を雇う?
当然、そんな金はない。
戦闘奴隷を購入する?
自分一人が食べていくのがやっとだ。
人一人を養うに等しい事はできない。
それにそもそも奴隷を購入する資金すらない。
とりあえず仕事の依頼票が貼られている掲示板へ向かう。そこには実に様々な依頼があった。そのなかに写本という仕事があるのを見つけた。
「これは!」
文字の読み書きも技能のうちらしい。
「しかも結構な報酬がある!」
その代わりに拘束時間と期間が結構長いが……
日が昇ってから日が沈むまでの時間。そしておよそ半月という期間の募集だ。これは受けなきゃ。文字の読み書きが出来る実に私向きの仕事だ。
というわけで私の最初の仕事は冒険とは正反対の内向きの仕事だった。
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半月と言う依頼だったが、私の仕事ぶりが良かったから季節一つ分も雇ってもらった。つまりおよそ三ヶ月と言う期間だ。そしてなんとなんと。給料も割増してくれた。やったー。
他にも昼食代も出してくれたりと至れり尽くせり。
というわけで徐々にだが酒場の仕事中心の生活から冒険者ギルドの仕事中心の生活に移行していったのだった。
日が昇ってから沈むまでは写本の仕事。そして日が沈んだ後は訓練時間に当てた。最初は走り込みをしていたがそれだけでは駄目だ。
それに自分一人だとサボってしまう。
そこで冒険者ギルドで私が仕事の依頼を出した。依頼内容は日が沈んでから数時間ほど武器の扱いの指導をしてくれというもの。
その依頼には元傭兵のお爺ちゃんが応募してくれた。
見た目も言動もカクシャクとしており指導は大変に厳しかった。
でもそれこそ私が求めているものだったので都合が良かった。
習う武器は剣と槍と盾の扱いだ。
武器はどれも木製の訓練用のもの。場所は冒険者ギルドの中にある訓練場だ。そこで木剣を三時間。木槍を三時間。そして盾はその間ずっと構える感じで、深夜までひたすら素振りをする感じだ。基本から教えてもらった。
最初の数日は筋肉痛で体が悲鳴を上げた。しかしそれも十日を過ぎる頃にはなくなり、ひと月後にはお爺ちゃんを相手に対人戦の訓練を行うようになった。
訓練が終わった後。金銭と時間に余裕のある時は彼を連れて酒場へ向かう。費用は私持ち。そこで魔物に関して教わった。
そんな訓練を三ヶ月近く行った。素振りだけはいっちょ前だ。そして依頼していた期間の終了日が近づいた頃。お爺ちゃんが私を街の外へと連れ出してくれた。
そこで山道で魔物と戦わされた。戦う相手はゴブリンと角付きウサギだ。ちなみに剣や槍や盾はお爺ちゃんのお下がりだ。
「持っていけ。手入れはしてある。大した品ではないが儂が持っていてもしょうがない物だ」
私は貰うのは申し訳ないからと断って、代わりに金銭を支払った。つまり買い取るという形にしたのだ。
お爺さんは苦笑いを浮かべたが、素直に受け取ってくれた。
さて魔物との戦闘に関してだ。
ゴブリンは見た目が醜悪な子鬼という感じだった。身長は私のお腹ぐらいまでの身長しかない。それでも敵意を剥き出しに襲いかかられるというのは実に怖い体験だった。体が恐怖ですくみあがり動けなくなった。結局お爺ちゃんが処理してくれた。
「恐怖を克服しろ。でなくば死ぬぞ」
その後も何度かゴブリンや角付きうさぎと対峙させられ、次第に戦いの場という空気に慣れていった。命のやり取り。それはとても恐ろしく怖い場だった。だがそれでも人は慣れるのだ。ゴブリンや角付きうさぎと向かい合い剣を槍を振るって戦っていく。
「敵が攻撃する瞬間を察知できるようになれ。意識が攻撃に向いた瞬間から行動を起こすまでの『間』、それが『機』じゃ。そしてその『間』を先に制することを機先を制すというのじゃ。そこを感知できるようになれ。ちなみに相手の『機』に合わせて攻撃を繰り出し、先に攻撃を当てることを切り返しという。つまりカウンターじゃな。リスクは大きいが大ダメージを与えられる。ちなみに出遅れたのなら、その時は防御に専念し、敵の攻撃終わりを待て。そこにも『機』がある」
実践で戦い方を教わっていく。経験が私の血となり肉となっていく。
私は少しだけ強くなった。
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