第1話:落人の都入
その翌日、光兵衛は桔梗や源老などの村人たちに見送られながら、半日に一回しか来ない皇京都行きの田舎バスに乗った。
「都で一発、旗を上げねぇといかんべよ!」
「光にぃ、頑張ってね! 仕送りも忘れないでね!」
「頑張れよ、光兵衛! 辛くなったら、戻ってこいよ!」
黄色い声援を受けた彼は古いバスに揺られながら、心を弾ませ、口元だけをにやつかせる。
子供の頃から感情の起伏が穏やかなぶっきらぼうとして揶揄されたが、狩りの腕が今年の村一番であった。16歳に山の主たる
彼が持っているのは最低限の保存食と湧水で取れた飲料水、寝巻き、寝袋、バスのお駄賃に、武器である竹槍と草刈り鎌を古いナップサックに詰めたのである。
そうこうしているうちに夕方手前でバスは終点である皇京都の特区の一つである【蝙蝠町】に着いた。
寂れた舗道に、店さえも閑古鳥の建物物件、再開発失敗の名残である増築が夕焼けの光を遮り、所々に段ボールや捨てられた角材で簡易建築を建てたホームレスが寝転がる。
「ここが都か?」
「何言ってんだ、てめぇ? 都の掃き溜めだよここは。何しに来たんだぁ?」
光兵衛は気配に気が付かず、後ろから現れたホームレスの一人に高枝切り鋏を喉元に突きつけられる。
光兵衛は冷や汗を流しながらも、ぶっきらぼうなので、表情を変えずに、毅然として答える。
「骸村から来た平の爺さんの孫、中村光兵衛と申します…」
「そうか、そうか。」
そうすると、ホームレスは光兵衛を振り向かせ、優しく抱擁した。息と汗が鼻を摘むぐらい臭かったが、温もりは心地良く感じた。
「平兵衛のおやっさんの孫とはのぅ。両親に先立たれ、不安がっていたが、脅しにビビらん限り、逞しいのぉ。」
「いえ、ぶっきらぼうなので、内心は落ち着かせるのに必死でした。」
「それはすまねぇことをした。なら、早速、おやっさんの顔を拝まねぇと。」
ホームレスに連れられた光兵衛はドヤ街の中心にある廃公園に着いた。
そこには様々なホームレスが集まっていた。意外にも老人だけでなく、リストラされたサラリーマンや、男に捨てられた売女、捨て子などの老若男女がいる。
その中央には滑り台やネット登りなどの多目的アスレチック遊具を増築し、改造されたハリボテの城があり、その滑り台から青いジャージの上に泥と埃まみれの赤いジャケットを着ている灰髪黒瞳のホームレスの老人『中村平兵衛』がやって来る。
「平の爺さん!」
「よく来たのぉ、光。お前さんが立派になって、わしは嬉しいぞ! 我が子であるお前さんの両親にも見せたかったわい!」
「涙脆いな、爺さん。桔梗も息災だ。何年後かはこっちに来る。」
「そうかそうか、それはよかった。」
光兵衛と桔梗の両親は
光兵衛は恥ずかしさと嬉しさで胸がいっぱいだった。
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