ホームレスから始まる現代ダンジョン攻略

@kandoukei

プロローグ:限界集落の実力

 鬱蒼とした湿気と暗さが立ち込める雑木林。その陰湿な静寂に凶暴な鼻息と草木が倒れる音がこだまする。

 茂みの奥底に竹槍を抱えたある人影と共に赤目赤毛白角の双角猪ホーンボーアが猪突猛進で姿を現す。

 人影は裾が使い古しのようにだらんと広がった白いTシャツと土埃まみれの黒いジャージズボンを着た青年で、ボサボサな灰髪と黒い瞳、左頬の黒子が特徴の男子であった。

 そんな男子は自分よりも三周り大きい巨躯を持つ魔物クリーチャーに追いかけ回された。

 遂には、男子の前にある杉にぶつかりそうになり、魔物クリーチャーはチャンスと思わんばかりにその男子ごと杉に突進し、太いであろう幹を圧し折り斬る。

 余りの威力に宙に舞う杉の上半身を見て、確信を得た魔物クリーチャーの頭上のはるか上にその男子はいた。

 ちなみに、どうして、魔物クリーチャーの上にいるかというと、ぶつかる直前に杉の表面を垂直に走り登り、挟み合う衝突を回避したと、後に男子は語った。

 男子は傍らに持った竹槍を真下にある魔物クリーチャーに構え、宙に飛び散った杉の幹を足場にし、急降下し、その獣の頭を頭蓋ごと突き破り、倒れさせた。

 どんなに強い獣でも、生命活動の維持を担う心臓と思考行動の維持を司る脳を破壊すれば倒れはしなくても、動きを失わせるのは容易く、後者なら、余りにも大きい身体を支える筋肉を操作する意識を失えば倒せるのは簡単らしい。

 よほどの戦闘の達人でなければの話だが。

「ふぅーーー。やっぱ、こうガッと刺すのが一番いいな。」

 そう呟いた少年は死骸となった獣が新鮮な内に山刀マキリで解体し、肉と毛皮と角と魔石を取り出し、収納付与ストレージが施された黒い毛皮袋にしまい、雑木林から去る。


 その日の夜、限界集落に多くの灯火が上がり、焚き火を中心に村人たちが群がり、地べたに敷いたシートや毛皮の上に獣肉ジビエやら、山菜やら、川魚やらの料理が振る舞われ、宴が行われた。

 魔物クリーチャーを狩った男子、『中村光兵衛』の門出の祝いなのだから。

 そんな彼の元にこの限界集落の長である白髪白髭の老人『源老』が祝いに来る。

「良くやったべ、光兵衛よ。これでおめぇの都入が決まったべ。お前の死んだ親御らやご先祖様に申し訳が立つべ。」

「源老爺さん、大袈裟だ。おらはただいつも通り狩りをやっただけだべぇよ。」

「何を言う、おめぇ。山の主の頭蓋を貫けるのはおめぇしかいねぇよ。竹槍の扱いあつけぇはこの村一番だべ。」

 源老は密造酒をちびちび呑みながら、光兵衛の凄さを肴にする。

 その両兵衛は後ろから灰髪ツインテールと黒い瞳の少女、『中村桔梗』が抱きつく。

「光にぃ、いいなぁ。アタイも都入して、皇京ヘブンツリーに登りたいし、都で可愛いぬいぐるみを買いたいよ。」

「馬鹿言うでねぇ! ただでさえ戸籍が無いねぇおめぇら兄弟が生きていくには冥巣めいずで魔物を狩らんといかんべ! おめぇのような角兎を狩ったぐらいで調子に乗っているようなじゃじゃ馬が都の面倒臭い掟に勝てねぇべよ!」

「むぅ〜〜〜。いけず。」

「まぁ、十三の桔梗がおらと同じ十六の時で、山の主を倒せるようにならないといけねぇなと思う。もう少し、辛抱や。」

「その代わりに仕送りの時にはまた、遊んでや! 光にぃが来るまで湖におる主を捕まえるわ!」

「おぅ! 分かった! 楽しみにするべ!」

 この村では戦で力を失った武家公家の末裔である落人や、格差社会に敗れ、文明開花に取り残されたサンカなどの貧民、さらには戸籍のない孤児などが寄り集まった集落であり、都会の利便性を得る資格よりも、厳しい自然を生き抜く基礎生存能力サバイバルスキルを培うことを強いられてきた。

 彼らが言う都、都会で生きていくには迷宮メイズでの稼ぎに成功することだ。

 迷宮メイズとは、魔物クリーチャーや罠などの仕掛け、宝物、不思議な効果を持つ素材がある迷路のような空間である。

 それらは都会や自然を問わず、世界各地に存在し、迷宮メイズ内の資源を得て、商売をする冒険者ワーカーという職業や彼らを支援する企業や行政組織が若者の間に人気を博している。

 特にこの国、日本では迷宮メイズ事業で発展した有名都市である皇京都があり、光兵衛はそこに上京、もとい都入という習わしで出稼ぎすることになった。

 その為の成人の儀を終えた彼は何食わぬ顔の裏では都にある迷宮メイズが村にあるものとどう違うかを期待していた。

「さぁて、どうなんだろうな? 都の冥巣は?」

 

 

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