第5話 準備と女体

すぅーーーー、ふぅーーーーー

ドアの前で、大きく深呼吸をする俺の鼓動は、とんでもない速さで動いていた。

あ、挨拶する前に死ぬ...





ふぁ~...

家に着いた俺は買った下着をリビングに置いた後、自分の部屋のベッドで寝ころんでいた。突然の変化に体が疲れたのか、凄い眠気に襲われている。

俺が部屋に入ると、机の上には希星学院一年の教科書と女子生徒用の制服が置いてあり、俺が元々持っていた教科書と制服は無くなっていた...

まぁ特に思い出とか無いからどうでもいいんだけどね?


「...楽だったなー」


帰り道、心の中で思っていたことを、思わず口に出す。

人に注目されることには、慣れていないけど...

葵の兄として人に見られるより何倍もましだった。

今日は葵がとても頼りがいのある人に見えたなぁ、今の俺は背も葵より少し低いからかな?

そんなことを思いながら、苦笑する。


人前でも堂々とできる自信と、その自信を裏付ける圧倒的な才能と成果。

しかも葵は才能にあぐらをかかず、努力をし続けてきた。

そんな努力家で人間性もできている妹...


その兄という立場は、自分が思っていたよりも負担になっていたらしい。

今日一日、葵の兄としての立場が無い生活をして気づいてしまったんだ。

ああ、落ち着くな...と。


人が身の丈に合わないものを持つと壊れてしまうように、兄という立場はどうやら俺にとってただの毒でしかなかったらしい。

収まる所に収まったような感覚を覚えながら、瞼が重くなっていくのを感じた。





そうだよな...

このイベントは回避不可なんだ、仕方ないんだ...


俺は自分に言い聞かせるようにして鏡に映る琥珀色の美少女を見る。

寝起きで食欲がわかなかった俺は、風呂に入ろうと脱衣所に来ていた。

正直、いつの間にか着せられていた下着が少し痛いので早く脱ぎたい。

が...彼女いない歴=年齢、どちらかと言うと二次元に恋してきたので、女性に対しての耐性が無い。


素数だ...素数を数えて落ち着くんだ...


目をつぶりりながら服を脱ぎ、ブラのフック(?)を外して付けている下着をすべて脱ぐ。

俺はどうやらやり切ったらしい、勝った!第三部、完!


謎に達成感を感じるが、後は風呂に入るだけ...と目を開ける。

そこには、絹のような白い肌と琥珀色の髪に豊満な胸...そして赤い液体を鼻から出している美少女の姿。


「...」


ああ、こうゆうのって自分の体(?)を見ても鼻血出るんですね...

やっぱ俺には無理でした!





デカいと浮くのは本当だったんだなぁ...


あのままでは俺の心臓と理性(?)が保てないため、風呂はうっすらと目を開けて入ったのだが、まだ心臓がドキドキとうるさい。

どうにかこれを慣れないと心労が凄すぎて前よりもキツイ気がする。

あれ、思ったより楽じゃないな???


風呂から出た俺は体が少し赤くなっており、ドライヤーを求めてリビングへ行く。


「あ、お兄...ってどうしたのこれ!?」


リビングでご飯を食べていた葵は、俺の体を見てとてもびっくりしたような声を出す。俺がいつも通り力いっぱい肌を擦ったせいで、白い体は赤くなりヒリヒリしていた。

仕方なくね!?こんなに肌が繊細だって思わないじゃん!


「お兄ちゃんには今度じっ~くりお風呂の入り方を教えてあげよう」


葵が、獲物を見つけたような目で言ってくる...

怖い、が...肌が痛いのは困るので今度教えてもらうことにしよう。


「とりあえず、髪の乾かし方から...」

「流石にできるわ!?」

「ちぇ...」


そう言ってご飯を食べ始める葵。

そういや、この体になってからやけに葵が絡んでくる気がする。

中身は古河優のままなんだが、距離感バグってきてないか...?


そう思っていると葵が『あっ』と声を上げる。


「そういえば伝え忘れてたけど、明後日の月曜日、転入だよ~」

「はい...?」





と、言うわけで転入生イベントに必須の自己紹介がやってきたわけだ...

ドアの前で、誰に説明するわけでもない回想を語り、目の前の現実から目をそむけようとするのだが。


「では、入ってきてください」


担任の先生が声をかけてくる。


ああ、行かなきゃ...逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ...

そうだ...最近俺は思っていたじゃないか、一年生に戻れたら友達を作ることに全力になると!


男は度胸だ!!!


そう自分を鼓舞し教室のドアを開けた...










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