東海道新幹線
2月4日 09:10 東京駅 18番線
[18番線、停車中の電車はのぞみ19号、博多行です]
ここは日本国首都の駅、東京駅。
最新鋭の新幹線、N700Sが今博多へ向けて東京駅を経とうとしていた。
白色の車体に青色のライン、ロングノーズの鼻。
その姿は数々の鉄道ファンを生み出した。
「白山、これだな?」
今回、こののぞみ19号に警乗するのは東京中央公安室所属の鉄道公安官。
「表示板見たら分かるだろ、コレだ」
[のぞみ] [博多]
[19] [次は 品川]
警乗する列車を確認した2人は5号車の東京寄扉から乗り込んだ。
デッキに足を踏み入れたら、まずはゴミ箱の捜索。
爆発物やガス等が存在しないか確認を行う。
「無かったな」
「こっちも無かった」
「まぁ、無くて当たり前だな」
[のぞみ19号博多行です。 間もなく発車を致します、ドアを閉めます。 ドア付近のお客様、ドアにご注意下さい]
軽快なドアチャイムと共に扉が閉まる。
その後、列車がゆっくり動き出した。
「じゃ、客室巡回行くか」
「へーいへい」
在来線を右手に、列車は西へ進む。
2人が客室巡回をしようとした時、チャイムが鳴り車内放送が始まった。
[今日も、新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。 この電車は、のぞみ号、新大阪行です。 途中の停車駅は、品川、新横浜、名古屋、京都です]
5号車の着席具合は5割程度。
これから新大阪に至るまで、品川・新横浜・名古屋と座席は埋まって行く。
博多への乗客は果たして如何ほどだろうか。
新幹線の東京~福岡間のシェア率は飛行機によって徐々に奪われつつあった。
「次、4号車だな」
「いや、6号車行かないか?」
5号車の客席巡回が終わり、白山は4号車に行こうと言ったが、対して綾瀬は6号車に行こうと言う。
2人にとって、こうした意見の対立は珍しくなかった。
「何でよ? 先に先頭行った方が良いだろ」
「いやぁ、俺6号車の方から先に行った方が良い気がすんだよ」
「何でよ? 根拠は?」
「直感。 でもどーせ、最終的には見に来るんだろ? なら、2回見回る号車は多い方が良いだろ」
「……あぁ、そ、そうだな」
「じゃ、決まりだな」
綾瀬の謎理論に白山は納得した。
現在位置は5号車博多寄りのデッキであるので、もう1度5号車の客室を巡回し、6号車へ向かう。
6号車に着くと、列車は丁度品川駅を発車していた。
「6号車も特に異常無し」
「このまま、今日も何も無しであってくれよ~?」
そうボヤきながらゴミ箱を覗く綾瀬。
ここでも特に変な物は見つからなかった。
「よーし、7号車だっ!」
白山は意気揚々、7号車へと駆けてゆく。
この2人が警乗するのは新大阪まで。
新大阪からは大阪中央鉄道公安室の公安官が担当する。
「トイレ見とくか」
「おう」
一応、トイレにも怪しい物が無いか確認する。
男性・女性共に確認を行う。
「特に無いな」
綾瀬は特に怪しい物がない事を確認すると、白山に報告。
すると、白山はこう言った。
「当然だ、それが普通なんだ」
「それもそうだな」
綾瀬はそれに同意した。
何も無いのが普通、それが当たり前。
その考えは2人に染みついていた。
「さー、次はグリーン車だー」
綾瀬の気の抜けた掛け声と共に2人はグリーン車の8号車に突入。
客室に入る前に車掌室があった為、丁度そこに居た車掌に会釈してから喫煙室の確認へ。
「特に異常無し」
「吸い殻も0だな、最近は吸う人減って来てるからな」
灰皿の中も確認、その後恒例のゴミ箱確認。
どちらも異常は見られなかった。
喫煙室の確認が終了したら、客室へ。
8号車の着席率は4割程。
グリーン車であるから、当然指定席とは違う雰囲気が漂っていた。
「……客室には特に異常無さそうだな」
「あぁ、無さそうだ」
2人は目を皿にしてグリーン車を確認する。
高級官僚や政治家を狙ったテロも多発しており、そう言う人々はグリーン車やグランクラスに乗るので、上級階級の車両には不審物が多く見られた。
「でも分かんないぞ、もしかしたら網棚の荷物のどれかかも?」
白山は乗客の荷物を勝手に調べられないもどかしさと、その荷物の中に爆弾やガスが入っている可能性で気が気では無かった。
今ここで爆発したらどうしよう。
新幹線の安全神話に傷を付けたらどうしよう。
その心配から黙ってしまった。
「大丈夫大丈夫、爆弾なんてそうそう見つかりやしないよ。 それに、安全神話が何だ! 乗客の命さえ守れたら、そんな神話くれてやる!」
「あ、あぁ、そうだな」
綾瀬は白山が思っている事を言い当てた。
しかし、これもまた日常であり、逆のパターンも存在する。
以心伝心の四字熟語を表すのにピッタリなコンビだ。
さて、2人が車内巡回を一通り終わらせたのは新横浜を発車して3分が経った9時34分頃であった。
特に不審な物も見つからなかったので、再度1号車から巡回する。
1号車の客室に白山を先頭にして入ると、いきなり男が白山に殴りかかって来た。
白山は訓練通り、男の拳を受け止めて拘束する。
「ちょっと、何ですかお客さんいきなり!」
白山は拘束してから言い放った。
男は不服そうにため息を吐いた。
「んだよ、車掌かと思ったのによぉ……」
「はいはい、車掌室行きましょーねー」
綾瀬が足を持ち上げ、白山が頭を持ち上げる。
男は仰向けの状態で1号車から8号車の車掌室まで運ばれて行った。
その間、多数の乗客の目に男の恥ずかしい姿を晒す事となったのだ。
「僕に殴りかかって来たんですよ」
「は、はぁ、でも何で仰向けで……」
「まぁまぁ、いいじゃないっすか、ねぇ、大樹?」
「どうでもいいでしょ、僕に殴りかかって来たのが重要なんです」
「ま、まぁそうですね……」
さて、男が白山に殴りかかった理由はいたって単純。
ストレス解消の為である。
乗客では無く、職員に殴りかかったのは気分であり、あの時1号車に入って来た人を問答無用で殴る気であったそう。
さて、男は名古屋で降ろされ、名古屋中央鉄道公安室所属の公安官に連行されて行った……。
2人は巡回を継続し、15号車の東京寄りのデッキに辿り着いた。
「やっと名古屋だな」
「あぁ、マジでのぞみの警乗は息が詰まるぜ」
「そうか? 進は狭い所嫌いじゃなかっただろ?」
「いや、分かるだろ? 外の空気に触れず、ずっと同じ空気を吸い続けるんだぜ?」
「空気清浄機で常に循環してるが……」
「そーいう事じゃないの、感覚的な問題なの」
「あー、そう」
「興味無さそうだな」
「だって無いもん」
因みに、白山が素を出せるのは現時点で進のみ。
それ以外は素を出さず、顔を創り出している。
「お前なー、感覚がどれだけだいz――」
その時、車両が少しだけ揺れた。
突然の揺れであったので、綾瀬は白山に向かって倒れる。
「うおっと」
倒れる綾瀬を白山はしっかりキャッチ。
丁度胸に飛び込む形となった。
「……大丈夫か?」
「…………あぁ」
白山は暫く綾瀬を離そうとはしなかった。
エアコンによる人工的ではない、人肌による温かみ(特に綾瀬)を感じていたかった様だ。
「……そろそろ離して?」
「嫌だ」
「何でよ」
「嫌な物は嫌だ」
「人来たらどうすんだよ」
「……離す」
そうして、10分が経過した。
人は来ず、結局白山は満足して綾瀬を開放。
白山は満足げに笑顔を浮かべていた。
「何笑ってんだよテメー」
「ごめんよごめんよ、許して」
「全く、誰かに見られたらどうしようかと……」
「……家じゃ進の方から来るってのに?」
「馬鹿野郎! それを言うなァァァ!」
綾瀬は白山の肩を持ち、激しく揺さぶる。
白山はそれに対し笑って返した。
「はぁ~、ごめんよ、許して」
「許す」
2人は家賃節約の為、同じ部屋に住んでいる。
しかし、お互い不快感は全く感じておらず、むしろ幸福感まで感じていた。
ベッドは2段ベッド、下段が白山、上段が綾瀬。
設備も何もかも共有していた。
「ほら、16号車行くぞ」
「ほーい」
時は流れ11時39分。
のぞみ19号は1秒の遅れも無く新大阪駅に到着した。
ここからは山陽新幹線となる為、大阪中央鉄道公安室の公安官にバトンタッチ。
2人は折り返してひかり号の警乗任務に就く。
「ここまで特に異常はありませんでした、では、宜しくお願いします」
「はい、お任せ下さい、お疲れ様でした」
「「「「お疲れ様でした」」」」
「ほら、行くよ」
「はーい」
引き継いだのは女性公安官のペア。
しかし、2人はそんな事気にも留めず折り返しのひかり号が停車している25番線に向かうのであった……。
東海道新幹線、それは世界初の高速鉄道。
かつての主要街道であった東海道に沿って285km/hで東京大阪間を日々往復する。
ビジネスマンから家族連れの旅行客まで、様々な人々がこの鉄道を利用。
東京・名古屋・大阪の3つの巨大都市を繋ぐ東海道新幹線は今や日本の大動脈。
明日も、未来も、この地位が揺らぐ事は無いだろう。
今日も、新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございました。
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