第3話 言える人

「流星…。流星いる?」


ドンッ!!


僕の名前を呼ぶドア越しに中から何かがぶつかる音が聞こえた。


「流星、入るよ?」

「入んなよ!!…入っていいって言ってねーだろ!!」


僕はまたドアに物を投げつけた。


当時、小学校高学年。


母親には捨てられたくなくて『いい子』を演じていたが、おばの麗子には本気でぶつかっていた。


けど、麗子も負けてなくて本気でぶつかってきた。それに、鍵を閉めないことを麗子は気づいていた。


ドアを開けて僕の元に来て、無言で抱きしめた。



「あ゛ーーー!!あ゛ーーー!!あ゛ーーーー!!」



どれだけ叫んでも麗子は僕を離さなかった。


麗美はドアの外からそれを見ていた。

僕は麗子の肩越しに母が見えていた。



「麗美、行って。今はいい。下で待ってて。」

「……」


「殺す……あいつ殺す…」

「わかったから。落ち着きな。大丈夫だから。」

「俺なんか産まなきゃ良かったんだよ!!俺なんか殺せばよかったんだよ!!」

「黙りな。『いい子』でいたいんでしょ?なら黙りな。聞こえたらどうすんの。麗美悲しませないで。」

「……。じゃあ俺殺せよ。もうそれでいいよ。」


「流星。あたしにだけ教えて。麗美に言わなくていいから。どうせ言いたくないでしょ。…流星、麗美にどうしてほしいの。」

「……言いたくない。」

「言いな。あんたが壊れる前に言いな。」


「……麗美に…麗美に…」


僕は言えなくて麗子に抱き着いた。


「死にたいよ。ねぇ、殺してよ…。もうやだよ。。」

「ちゃんと言いな。ちゃんと吐き出しな。」


麗子は僕を離して目を見た。


「言ってごらん。聞くから。溜めたって毒になるだけ。」

「母さんに殴られたい…母さんにいっぱいして欲しい…母さんに僕だけ見て欲しい…母さんにぎゅってしてほしい…… 。」

「そっか…。そうして欲しいか…。寂しいよね。あんたはいい子だからね。悪い子にもなりたくないのも分かってるから。」


「母さん!!……母さん!!……あ゛ーーー!!……母さん!!……」

「苦しいね。大丈夫だよ。大丈夫。」




―――――――――――――――そのうちに麗子に対しても塞ぎ込むようになり、夜中に家を出ることが増えた。

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