2018/12/26 02:00:55

 クリスマスなのに夫と喧嘩した。頑張って作ろうとしたチキンをまるこげにしてしまって、夕飯は冷凍の鶏からあげになった。デザートには一応ケーキを買った。昼に行ってさんざん悩んで、わたしは桃のタルトにした。それで、上にいくつか載っている桃のひとつを、一個ちょうだい、と突然夫にフォークでつつかれたので、泣いて暴れてコーヒーをひっくり返してお気にいりのカップを割ってしまった。夫は最初謝っていたが、わたしがあまりにも暴れるので最終的には怒った。


「待ってよ、俺のも一口あげるしさ、そんな怒ることかよ」

「チョコレートケーキはカロリー高いもん」

「いやタルトも変わんねえよ、っていうかカロリー気にするなら桃の一切れで怒んなよ」

「ぎゃああああああ!」


 自分が食べようとしていたものを取られたり触られたりすると前後不覚になるまで怒ってしまうのは昔からで、子どものころそれで弟を何度も泣かせた。ねえちゃん意地きたねえんだよな、と、友達との電話で言っていた弟の声。今は疎遠だ。泣いて泣いてこたつに潜り込んでいると、なあ、わるかったよ、と夫が穏やかに言った。


「今度また買おうよ、俺絶対取らないから一人で食いなよ、な?」


 夫は過食嘔吐のことは知らないはずだ。食べ物に対してどこかおかしいということには、気づいているかもしれない。夫はデリカシーのないところもあるが、優しい。チキンをだめにしても怒らなかったし、桃のタルトだって買ってくれるのだろう。わたしだけが、本当に悪いもののように思えた。


 夫はもうとうに寝ている。まるこげのチキンを捨てたふりして、周りの絶対に無理ぐらい苦いところだけを削って中身はぜんぶ食べた。まだ食べたくて仕方ない。何もかも食べたくて仕方がない。でも、今からまた食べ始めたら、吐くころには四時になってしまう。四時ばばあのことを考えると、それは避けたかった。

 ……居るかどうかもわからない妖怪が、わたしを押しとどめている。見たこともない四時ばばあが、わたしの過食をを止めている。


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