暁久居刃VS催眠殺人術師

 目を開ける。薄ぼんやりとした白い空間の中、ちょうど目の前にあの仮面の奴が立っていた。たとえ顔を隠していても、冷や汗を流しやたら焦ったそぶりが分かる。

「まさか……ここまで来るとはな……」

不審者は懐からぬるりと2つの長剣を取り出す。二刀流か。

「せっかくだ、直々に成敗してやろう!」

向かってくる相手の攻撃に合わせて竹ものさしを振り、斬り弾いていく。俺の力なら刃物でなくとも斬ることはできるが、受けきれるかは素材次第だ。つまり少々分が悪い。

「ワハハ!苦戦しているようだな!!どんどんいくぞ!」

不審者の両脇からにょきにょきと腕が生え6本になる。生えたての手はそれぞれに剣を握りしめている。嘘だろ。

 ひとつひとつの攻撃は大したことないが6発となればタイミングも位置もシビアすぎる。耐えきれずに弾かれた竹ものさしはそのまま空へと舞い、落ちることなくどこかへ消えた。すかさず距離を取り、懐に手を入れ竹ものさしを取り出……す?今、俺はどうして竹ものさしを握っている?今日は1本しか持ち歩いていないはずだというのに。空いている方の手で懐を探ると、いつもの隠しポッケにはまだ竹ものさしが収まっていた。もしや、夢に入った時の状態が維持されている?

「……勝てるかもしれない」

理屈は知らないが、無限に取り出せるのならば手持ちにこだわる必要はない。竹ものさしを左手の三本指で軽く掴み、腕の勢いで飛ばす。棒手裏剣と同じ要領だ。向かってくる相手を躱して背後を取り、竹ものさしを懐から取り出し投げる。これならだいぶ安定してダメージを与えられる。敵は疲弊するにつれてスピードが見るからに落ちており、あっという間に腕を切り落とされていく。元の本数に戻ったあたりで足払いをかけ、仮面の不審者の胴の上に乗る。足で両腕を踏みつけると観念したのか静かになった。思ったよりも小柄なんだな。

「お前に見せた幻は完璧な幸せのはず!なぜ分かった!!」

不審者が叫ぶ。まだ喚く余裕はあるみたいだ。もう少し体力削ったほうが良かったか?

「そもそも俺に以前の人生は存在しない。そして、あいつは俺のことを呼び捨てにするんだよ。なぁ、お前一体なんなんだ?どうしてこんな回りくどいことをする?」

「我こそは催眠殺人術師!依頼は完遂せねばならんからだ!そして、これを見ても殺せるかしら!」

俺の下敷きになったなんちゃら術師の仮面が外れる。そこにあったのは生死問砥石の顔だった。

「そうか」

竹ものさしを振りかぶり、繰り返し胸の辺りに突き立てる。

「ちょっ、ちょっと待って!痛い、痛い!やめて!なんで躊躇なく斬れるの!?私の顔が見えないの!?」

「刃物に善悪は無い。もし本人だったら?そのときは起きた後の俺がなにかしら考えてくれる」

「そんな…………!」

ぐは、とあからさまな声を最後に催眠殺人術師は沈黙する。とたんに視界がぐらりと傾く……一か八か本体に攻撃してみたが正解だったみたいだ。これで会長とだかも解放されるといいが、全ては起きてからまた考えるとしよう。俺は揺れる視界に合わせて倒れ込んだ。

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