第10話 侵攻開始

「我々オーダ公国は、両国間で交わされた契約、盟約ともに全て破棄し、王国に対して戦線を布告SURU!」

「なっ……!」 

 部下と思しき人物から紙を受け取り、それを読み上げる。

 俺たちは今、長年続いてきた平和の壁の崩壊を目の当たりにしていた。

「どういうことだ! 宣戦布告だと……? 貴様らは何を考えている! 我らは同盟国で、今まで平穏を保ってきたであろう! それがなぜ突然こんな……」 

「知るかよ、俺は上からの命令に従っただけだZE」

 買った奴隷が大罪人、国の宝物庫から何やらヤバいものを盗んできた剣聖との出会い、突然、壁を壊して不法入国してきたゴリマッチョからの宣戦布告──

 俺は少しは刺激的な異世界生活をしたいとは思っていたが、国同士の面倒ないざこざに巻き込まれたかったわけじゃない。

 キャパオーバーだよ、もうホント……

 するとレインが黒服に対して。

「ねぇあなた…… 今から街まで行って応援を呼んできてくれない? アタシは確かに盗みをしたけど、この国には滅んで欲しくはないの」

「正気ですか!? あなた方たちで……」

「ん? 〝あなた方たち〟……? えっ俺も?」

「そうよ、〝アタシたち〟でこのデカブツを相手するの!」

「えっ、ちょまっ──」

「では、あなたよりも、国の危機の方が重要ですので、今はとりあえずお願い致します」

「俺に拒否権はないのかああああ?」

 俺の話を誰も聞いてくれることなく、黒服は森の奥へ走り去って行ってしまった。

「さあ…… じゃあいくわよ!」

「いくわよ! じゃねぇよ! あれを見てみろ!」

 あのグラサンマッチョの奥からは、鎧を身に纏った多くの兵士たちが、壁に開けられた穴からゾロゾロと出てきている。

 その雰囲気的に、おそらくもっといるだろう。

 一国が相手なら、一万近くの軍勢がいてもおかしくはないのだ。

 対して俺たち三人のうち、戦えるのは二人。

 およそ剣聖⒈7人の戦力。

「別に勝たなくてもいいのよ。騎士団や兵士が派遣されれば、アタシたちはこの混乱に乗じてこっそり国外脱出── 完璧でしょ!」

 たまにコイツの、とんでもないほどの楽観的な判断にビックリさせられる。

 実は絶対ポンコツだろ……コイツ。


「んん? おやおやよく見れば王国お抱えの剣聖じゃねぇかやYO! だとしたら、少しは楽しめそうDANA! 俺はMUSCULAR! エム・ユー・エス・シー・ユー・エル・エー・アールでMUSCLARだZE!」

「ああそう…… あなたがあの剣王なのね」

「その通りだZE、俺は最きょ……」

 〝剣王〟といういかにもやばそうな通り名のマスキュラーを、喋っている途中にレインのライダーキックが剣王のみぞおちに炸裂する。

 吹っ飛ばされたマスキュラーは壁に激突し、土埃を上げて座るように倒れた。

 そしてその光景に、敵の兵士たちと俺は呆然としていた。

「まじですか…… お前って強かったんだな……」

「そうじゃないとでも?」

 にっこりとこちらに微笑んでくるが、前に胸の大きさに口出しした時の事がフラッシュバックして怖んだよ。

「HA HA HA HA HA HA HA HA HA HA!」

 突然、蹴り飛ばされ気絶していると思っていたマスキュラーは、高らかな笑い声を上げ、ゆっくりと立ち上がる。

「流石は王国の切り札だ! 俺様が反応できなかったZE!」

 あんな攻撃を急所に受けたのにも関わらず、奴にはまるでダメージが入っていない様だった。

「マジでか……ゾンビやん」

 マスキュラーは体に付いた土埃を払いながら言う。

「準備運動には丁度良かったZE! じゃあそろそろ……Shall we start?(始めるか?)」

「ええ、そうね」

 互いに睨み合う剣聖と剣王の戦いは、静かに始まった。

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