第8話 順調?

「なあ? お前って本当に異世界にほん人なのか?」

 町を出てしばらくした頃、俺はレインに気になっていた話の詳細を尋ねた。

 なんでもこのレインという名前の少女、前世は日本人だったそうなのだ。

「本当よ、日本で病気かなんかで死んで、前世の記憶を残したまま転生したのよ」

「なんとなく、その見た目からは想像できないんだけど……」

 彼女の紙は赤く、顔立ちもどちらかというとヨーロッパ系のような、北欧の人たちに近いような感じで、その姿から日本人を連想することはできない。

「多分、アンタとアタシじゃあこちらの世界に来た方法が違うのよ。アタシの場合、死んでからこっちの世界に赤ちゃんとして、記憶だけを残して〝転生〟。アンタの場合は、死んだ、もしくは死ぬ直前に、〝肉体はそのまま〟に、こちらの世界に〝転移〟したっていう方が正しいのかもね」

 なるほど……そうなると 、俺たち以外にも転生、もしくは転移者がいるのか気になる所ではある。

「まあいいや、にしても…… それが気になるのか?」

 俺はペルセウスに尋ねる。

 彼女はさっきからずっと、レインからのプレゼントである緑色の石がはめ込まれた髪飾りを、しきりに触っていた。

「い、いえ…… なんというかその、無意識のうちに触ってしまって……」

 それに対して、レインはふふっと微笑む。

 相変わらずペルセウスは無表情のままだったが、気に入ってくれたらしい。

 おそらく本人は無自覚だろうが。


    *


 それからしばらくして、とうとう国境沿いの町ボーダーに到着する直前、俺たちの前に壁が立ち塞がった。

「只今指名手配中の王国騎士団所属、レイン・アルデバランは、おそらく国境を越えようとしていると考えられるため、この町の近くに潜んでいる可能性あり!」

「彼のものには金貨10000枚の懸賞金がかけられている! 目撃情報だけでも報酬を受け取れるため、是非積極的に騎士団へ報告を!」

 町では多くの騎士が民に協力を呼びかけ、みたところ国境を渡るための検査所でも、普段より厳しい警備をしいている。

 その様子を俺たちは、町の近くの森の茂みから伺っていた。

「金貨一枚枚か…… 悪くない」

「アンタまさかここまでの旅の中で、苦楽をともにしてきた仲間を売るつもり……?」

「そのまさかだと言ったら?」

「薄情者!!」

 そう言ってレインは俺の頭をポカスカ殴る。


「なあ、気になったんだが、王国がここまでして取り返そうとしている物ってなんなんだ? 大体なんでそんな物を盗んだりなんかしたんだよ?」

 それを聞くと彼女は俯き、神妙な面持ちで俺の質問に答えてくれた。

「残念だけど、依頼主との約束で、何を盗んだのかは他人に明かしてはいけない決まりなの。依頼主の名前ももちろんそう…… だけどこれだけは信じて欲しい。これは確実に、未来のこの世界が、存在していくのに必要なものなの…… だから、信じろなんて言わない、アタシに協力して」

 彼女の目はどこまでも真っ直ぐで、遠い先の未来を見つめているようで……

 俺には彼女が嘘をついているようには見えなかった。

「本当はそんなことに加担したくはないんだが…… わぁった、信じる。世界を救うためだがなんだがは知らないけど、俺は君に協力するよ」

「本当に! でもなんで…… アタシはてっきり断られると……」

「本当は俺だって訳の分からない仕事はやりたかねぇよ。でも元より俺は一度、いや、二度目に死にかけたところを、お前に助けられたし、その恩返しをしなきゃ。何より俺は今までの生活が順調過ぎたと思っている。折角異世界に来ちゃったんだ。世界の一つでも救わなきゃ、物語は面白くないだろ?」

 それを聞いて嬉しかったのか、レインの顔には、いつもの天真爛漫な笑顔が戻る。

「全く、アンタねぇ…… でも、そういうことなら…… アタシだってペルちゃんのことも気になるし、とことんこき使ってやるから、覚悟しなさい!」

「なんか上から目線なのが気になるが…… まあいいか。じゃあ改めて……これからよろしく、な」

 こうして俺は…… 俺たちは、命を救って貰った恩と、ペルセウスのこともあって、協力関係として正式に仲間となった── のだが。

 そう上手くはいかないものらしい。


「そうですか…… つまりあなたも拘束対象ということですね」

 背後から突如聞こえた女性の声、振り返るとそこには見覚えのある人物がいた。

「あなたは確か……隣町の服屋の店員さん……?」

「なるほど、そういうことね……」

 俺は状況を全く理解できていない中、レインは何かに納得したようだ。

「彼女の胸元を見てみなさい」

 レインがそういうので、その通りにはしてみたが……

「──うーむ…… 残念ながらレイン、お前の負けだ。あれは少なく見積もってもGカップはある。今回は相手が悪かった」

「どこ見てんのよ! サイズを計れっていうんじゃないわよ! 彼女の胸元のバッジ! 彼女は王国騎士団の騎士よ!」

 言われて気づいたが、確かに彼女には金色で太陽の紋様が描かれた、レインがつけていたものと同じ、王国騎士団の証がつけられていた。

「マジかよ!? ってか…… 同じ騎士なら店にいた時に気づけよ! 少なくとも顔見知りだろ?」

「それが…… 騎士団には表立って活動するアタシたちと、裏からの工作を得意とする、つまりは暗部が存在するの。そのメンバーは、あたしでも知ることはできなかった……」

 つまりは国の秘密の戦力……

 やばい予感しかしないんだが!?

 


 

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