第7話 変化、そして意外と身近に……
「ま、まあ今はいいや、周りの目もあるし、とりあえず服屋で着替えよう」
俺たちは町の古着屋を目指して歩き出した。
*
「じゃーん! 村娘スタイル、パン屋さん、吟遊詩人、赤M配管工!」
試着室のカーテンを閉めては閉じ、閉めては閉じ。
その度に違う格好をして出てくるレイン。
一応いい家の出身らしいし、こういう体験が新鮮なのかも……
「ほどほどにしろよ…… あと最後の奴はどこから持ってきた」
随分とファッションを楽しんでいらっしゃるが、今回着て貰うのは──
「ねぇ……なんかすっごい地味なんですけど?」
白いショート丈のワンピースの上に、胸当てなどの防具を取り付け、足元には革のブーツ。
皮のウエストポーチと短剣を腰に装備し、特徴的な赤い髪を隠すため、紺色のフード付きのマントを被らせた。
もちろん安物で、華やかさのかけらもない。
うん、どこにでもいる冒険者だな。
「仕方ないだろ? 目立たないようにするのが一番なんだし。 それに良かったじゃないか。女性用の胸当てはサイズの大きいものを選んだから、その板を少しは誤魔化せるぞ」
「あ゛……?」
途端に殺意に満ちた視線を感じる。
「ゴメンナサイ……」
「……まあいいわ。それよりもっ──」
レインはペルセウスを、ひょいと持ち上げ試着室へ向かう。
俺がその様子をじっと見ていると。
「ねえロリニート、あなたは少し離れて待っていなさい」
「誰がロリコンだ! 誰がニートだ! ロリコンとニートを掛け合わすんじゃない!」
「じゃあ…… 特級呪物とかはどう?」
「さっきから露骨に俺に対する表現が酷くなってない? さっきのことは謝るから! 確かにその二つ掛け合わせたらとんでもないのできそうだけどさ…… あと、俺学生だから! 少なくともまだニートでは……ない……多分……」
「最後の方に向かって段々と自信を無くしていかないでよ……」
そうだよ……別にまだニートではなかったんだよ……
学生だったし、家事の手伝いとかはしてたし、いつも自宅を警備してたし……
しばらくしてから。
「じゃーん!」
試着室にカーテンを勢いよく開けて現れたのは、薄緑色のワンピースを身に纏い、広がったままだった髪を一つに束ねた、なんとも可愛らしい姿のペルセウスだった。
「おお! いいじゃないか!」
「あたしのセンスがいいのよ!」
ドヤ顔の後ろに立つ奴のことはさておき、本当に見違えていた。
奴隷として売られていた頃の薄汚い格好のイメージとは大違いで、俺の元いた世界じゃあ女優やアイドルなんかでも通用しそうな感じだった。
まあ相変わらず、指示だけに従って無表情なのは変わりないが……
「そうだわ!」
それを見かねて何かを思いついた様子のレインは、服屋の向かいのアクセサリーを売っている店で、何かを買ってきたようだった。
「はい、これ」
そう言ってレインがペルセウスに差し出したのは、緑色に輝く透明な石が嵌め込まれた髪飾りだった。
「これは……?」
「あたしからのペルちゃんへのプレゼントよ」
そう言ってレインは、その髪飾りをペルセウスの頭に挿す。
「どう? とっても可愛いよ!」
ペルセウスは少し黙り込んでから。
「……わかりません」
「そ、そう?」
その言葉を聞いて、レインは微妙な反応を示していたが、俺は少しペルセウスの変化を感じ取った。
「へぇー、前に俺が同じようにアクセサリーをあげた時は、『ただ指示されたから』っていう感じなのに、わからないっていう感情が出てくるようになったな。うん、成長成長!」
「これって成長なんだ…… って、あなたも何かあげたことがあるの?」
「ああ、これだよ」
俺が取り出したのはドクロを模ったキーホルダー、と鞘に龍の装飾が施されたキーホルダー。
「中学生かっ! アンタ修学旅行で訳の分からない、地域のものと全く関係ないキーホルダーを買ってくる中学生かっ!」
「甘いな、ああいう奴らは後で後悔するタイプだが、俺はしていない」
「しなさい! アンタ多分高校生でしょ! 少しは羞恥心的なものをもちなさい」
全く……何を言っているのか。
この格好良さを理解できないとは、剣聖サマもまだまだだな。
「フッ……」
「勝ち誇ったような顔でこっちを向くのをやめて。悔しいどころか、微塵の羨ましさもないから。少なくともこれをあげて喜ぶ女子はいないわよ」
*
「お買い上げありがとうございまーす!」
すると、服屋さんの女性店員さんが俺の去り際に、他の二人には聞こえない声で。
「素敵なご家族ですね」
「えっ……」
振り返るとにっこり微笑む店員。
「何やっているの? 早く行くわよ」
「あ、ああ……」
俺は二人を追いかける。
そうか……周りからだと家族に見える……のか?
途中、後ろを振り返ると、店員さんが相変わらず微笑んでいるのが見えた。
*
しばらくたった頃、リュウセイたちのいた服屋の店員はすぐさま店を閉める。
奥の部屋のロッカーから着替えを取り出し、服屋の制服を脱ぎ捨て、新しい服に袖を通す。
そして最後に、ロッカーから剣を取り出し、それを装備して、誰もいないように見える閉店後の店内で、誰かに呼びかける。
「目標は服屋を出ました。フェーズ1を予定通り実行します…… 貴方達、作戦開始です」
その店員が新しく着た服の胸元には、レインと同じ、王国騎士団の象徴である紋様の刻まれたバッチが、黄金色に輝いていた。
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