第6話 意外な出会い
あれから2日後、なるべく人目を避けて次の町に辿り着いていた……のだが。
「なっ……」
見かけた掲示板に書かれていたのは。
[お尋ね者]
元王国騎士団副騎士団長、剣聖レイン・レインアルデバラン。
王城の宝物庫より最重要国宝を盗難した疑いがかけられている。
目撃情報の提供者には、金貨100枚。
上記の人物を捕えることに成功した場合は、金貨10000枚、なお生死は問わず──
「いやー、王国も手配が早いねー。さあ、じゃあ先を急ごっか!」
「何しれっといるんだよ。ついてこないでって言いましたよね?」
白々しい口調でついていこうとするお尋ね者。
やばい、なんかもうこの人を尊敬できなくなって、だんだん敬語が崩れてきている。
「そ、そんなこと言わないでよ! 私だって悪気があったわけじゃないの! ねぇお願い!」
「嫌だよ。 なんでアンタの面倒を俺が見なくちゃいけないんだよ! っていうかこんなとこでアンタと一緒に居たら、俺まで被害被るわ!」
「っ…… あっ!(そうだわ……!)」
聞こえてくるな…… この人すぐに顔に出るから、何か思い付いたっていうのが聞こえてくるなぁ……
「ねーえ、もしこのままアタシを国外に逃してくれたらその代わり、ナ・ン・デ・モ、お願いを聞いてア・ゲ・ル」
ほう、これが色仕掛けっていうやつですか。
腰をくねらせたり顔を近づけたりと、精一杯色っぽく振る舞っている。
ポージングは下手くそだし、セリフは棒読みだけど……
「うーむ……」
「ちょ、ちょっと……そんなに見たら恥ずかしいじゃない……」
俺は彼女の胸元をじっと見つめる。
そしてその感想は──
「頑張ってB……まあまな板だな」
「っ……!!」
その言葉を言った瞬間、レインの腰の入った右ストレートが俺の鳩尾にクリーンヒットし、ギャグ漫画のように10m程飛ばされる。
「ぐふおっ……!!」
「そう……そうなのね。そんなに死にたいのなら、早く言えば良かったのに……」
「れっ、レイン様……? お、落ち着いて…… 笑顔が! 笑顔が怖い……!!」
レインは俺に近寄り、胸ぐらを掴んで顔を近づける。
たださっきとは違って、色っぽいだとかそんなのはなく、ただただ笑顔が怖い。
「アンタのスキルは確か〈対象の力と技能を70%コピーする〉だったかしら? 確かに強いスキルだけど、裏を返せば〈オリジナルには絶対に及ばない〉っていうことよね?」
「えっと……いや、何をオッシャリタイノカ…… ヒィッ!」
レインは地面に倒れた俺の上にのしかかる。
掴んだ胸ぐらで俺の顔を引き寄せ、睨むような笑顔で言い放つ。
「決めたわ。アンタがアタシに協力しない限り、このまま全力でボッコボコにしてあげる。それが嫌なら……分かるわよね?」
「きょ、脅迫だ……」
この人、マジでやりかねないよな……
「で? どうするの?──返事は!?」
「わ、わかった! やるよ! やりますよ! やればいいんでしょ!?」
「それでいいのよ」
この時、俺は学んだ──
イジられキャラにも、言ってはならないことがある。
この人は、マジで怒らせちゃダメな人だ。
*
俺の協力を得られたこと、機嫌のなおったレインは剣を腰に差し、準備を整える。
「じゃあ早速次の街を目指しましょう!」
「……いや駄目ですよ」
張り切っている所悪いが、少し止めさせて頂く。
「何よ…… まさかさっきのことをもう忘れた訳じゃないわよね?」
「ち、違うって!」
物凄い圧で、睨まれるような視線を送られ、焦りながらその理由をまとめる。
「まず〝その格好〟はまずいだろ」
「えっ?」
レインの着ている騎士団の真っ白な制服は、正直かなり目立ったいる。
「騎士団所属の指名手配犯がここにいますって言っているような格好だぞ」
「確かに…… それもそうね」
「それに……」
ぼうっと空を見上げ、相変わらずこちらから話しかけなければ、反応のないペルセウス。
彼女の服も、奴隷商人の所にいた頃に着ていたボロ布のようなもの。
この娘のも見繕ってやろう。
大罪人であるという事実を知った時は正直動揺したが、面倒をみると決めた以上、このまま突き放そうとは思わない。
幸いにも別の世界から来た俺は、そういう人達に対する偏見とかはない。
ん……? それで言ったら……
「なあレイン? お前はこの娘に対する偏見とかあったりするか?」
「いいえ? どうして?」
「いや、世界から《大罪人》は人類の敵として認識されているだろう? だとしたら、騎士である君がなぜそんな……」
するとレインは──
「ああ、言ってなかったっけ? 私は別の世界から来たんだよ」
「へ……?」
何を突然……
「お前には……そういう妄想癖があるのか?」
「アンタ、アタシのことをどんな奴だと思っているのよ…… アタシは前世の記憶があって、別の世界で死んで、こっちの世界の騎士の家系に生まれたの。アンタは知らないと思うけど、ニホンっていう国から来たのよ?」
「あ……」
コイツ、今日本って言ったか?
それを確かめるためには……
「ちな、好きな球団は?」
「えーっと……やっぱりカープかな、ホークスも捨てがいけど…… えっ」
「やっぱりそうか……」
まさかとは思ったが──
「アンタも日本から来たの!? 言われて見れば確かにどことなく日本人の顔つきをしているわね……」
「どことなくって何だよ、俺は純日本人だ。因みに俺は読売一筋」
「今はもうそれはいいでしょ……」
しかしまさか、同郷がいたなんて……
流石は異世界。
本当に何が起きるのか、わかったもんじゃねぇな……
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