第5話 普段しっかりしている人の方が、プライベートがだらしない

「へぇ…… ソイツを倒しちまうとは思わなかった。やるじゃねぇか小僧」

「まあね。でも……」

「本題はここから…… てか?」

 さっきの大男は、正直言ってレインの70%で倒せるくらいだから、そこまで強くはなかったのかもしれない。

 いやまあレインが強すぎるだけかもしれないが……


 《猿真似イミテート》は対象の力や技能を70%の割合で再現できるスキル。

 つまりこの勝負はそれとレインの実力の総計で、エアザッツに勝てるかだが……

 さてどう来る?


「やめた」

「「えっ……?」」

 さてこれから開戦……という所から、突然の終了宣言に、俺とレインは困惑した声を上げる。

「だからやめだっちゅうとんねん」

「ど、どういうつもりだ……」

 レインは困惑しながらも、質問を投げかける。

「どうって……なーに。ちとソイツの面倒をお前らにしばらく見てもらうのも、悪くないんやないかっておもてな」

 気だるそうに頭を掻きながら、エアザッツは俺の方を見る。

「それに小僧の力……いや、まあええわ。さっき陰からお前らの話を聞いとった限りじゃ、その娘は意思が弱くて〝権能〟は使われへんかもな。まあまたいつかくるわ、ほな」

 何かを言いかけたエアザッツは、それだけ言い残すと倒れた大男を引きずり、森の奥へ消えていってしまった。

 

   *


「じゃあ少し状況を整理しましょう」

 短時間の間に色々なことが起こり、頭がこんがらがっている状況を、ひとまず整理しようという話になった。

「さっき俺たちは《傲慢の大罪人》エアザッツと遭遇して、ペルセウスが《強欲の大罪人》だということがわかったわけだけど……」

「ペルセウスちゃんよね? その手のものはいつからあったの?」

 レインから聞かれると、ペルセウスは相変わらずの無表情で、質問に答えた。

「これは私が奴隷に出されてからしばらくして、いつの間にかあったものです。これを奴隷商人に見つかった時は、特に何も言われず、傷ものの商品として値札の値段を下げられただけです」

「その手の刻印が《大罪人》の証だというのは、騎士団でも上層部しか知らない機密事項よ。奴隷商人ごときが知らなくても無理はないわ」

 しかし困ったことになった……

「この国は確か、《大罪人》を敵視しているよな? だったらやっぱり、俺たちってこのまま連行されちゃう感じですか?」

 まあこの国というより全世界が、という方が正しいが……

「まあ〝本当は〟そうね……」

 おっ?

 この感じはもしや。

「今回は特別に……〝条件付き〟で、国には連行しないであげる」

 〝条件付き〟の所を強く言われた。

「剣聖サマは貧しい国民からお金を巻きあげるんですか?」

「ちっがうわよ! ていうか、あんた達本当は国際指名手配されてもおかしくない犯罪者なんだからね!?」

 レインは手をジタバタさせながらそれを否定する。

「(結構この人ってイジられキャラな感じか…… うん、反応が面白い)」

「あなたたちはこれからどうするつもりなの?」

「どうって……まあ、とりあえずこの街を出てみようかと……」

 それを聞くとレインは口に笑みを浮かべ。

「なら、それにあたしも同行させなさい!」

「ああ、そんなことなら……ってええええええええ!!?」

 あー、えっと……うん。

 聞き間違いだな。

「それで……条件というのは、一体どういったものです?」

「聞かなかった事にしないの! あたしもあなたたちの旅に同行する。それが条件よ」

「いやなんでなんですか!? あなた国の切り札でしょ!? それがいくら大罪人を連れているからってただの旅人なんかに…… それに俺たちが目指すのは国外ですよ? 国の外に切り札が勝手に出ていっちゃダメでしょ」

「それが……今のあたしにとってはありがたいことなのよ。あなたたちにはやっぱり話しておくわ」

 そうするとレインは俺たちに、耳を近づけるようにジェスチャーして、「あんまり大きな声で言われないことなんだけど……」と言って続ける。

「実は……」


「はぁ!? 国家反逆罪を犯してきた!?」

「シィッーーー」

 なんという突然のカミングアウト。

「現在絶賛指名手配中で、街には多分戻れないのよ。今はまだどんなことをしたかは言えないけど、これは世界のためにやったことだから!」

「いやいやいや、犯罪者はみんなそういうんですぅ。世界のためとかみんなのためとか…… 第一、国家反逆罪とか捕まったら絶対死刑だろ! 一体どんなやばいことをしたんだよ! 俺は絶対嫌だからな! 行くぞペルセウス、二人で国を出る」

「了解しました主人様」

「待ってよぉ!」

 必死に俺の服の裾にしがみつき、威厳も何もない情け無い姿でひこずられながらついてくる剣聖サマ(?)。

 あれっ……結構この人って。

「お願いよぉ。一人だと心細いからぁ! あたし地理とか詳しくないし、道とかわかんないから!」

「地図なら持ってたでしょう。それも高性能の魔道具の。あれがあれば普通道には迷いません」

「いや、それは……」

 迷うんだろうな……

 さっき自ら方向音痴って言ってたもんな……

「あっ! そ、そうだわ! この頃この辺りは魔物とか増えているじゃない? あたしがいれば、大抵の魔物は怖くないと思うんだけどなぁ! ほら、あたしって結構人間の中じゃ強い方だし、剣聖って呼ばれてるくらいだし!」

「それなら大丈夫です。レインはドラゴンも結構余裕で倒せるって聞きましたけど俺、スキルで君の力の70%を出せるようになったので、相当な魔物に出会わない限り大丈夫です」

「余裕じゃないわよ! ドラゴンを倒すのがどれだけ大変なことかわかる? それにその相当な魔物に出会うかもしれないじゃない! さっきだって大罪人に出くわしたんだし!」

「大丈夫ですからちゃんと自分の罪をお国で償ってきて下さい!」

「嫌あああああ! ねえ知ってる? この国の地下牢がどれだけ汚いか知ってる? 荷物持ちでもなんでもするからぁ! お願いいい!」

 やっぱり……この人ダメなタイプの人だ!

「もうほんとに…… なんだってするからぁ! お願いよぉおお──!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る