第4夜 間違い探し
また木曜夜。
「どうぞ」
声と共に差し出されるのはサイダーだ。
「おお。ありがとね」
渡して来たのはあの子だ。
イメチェンすると息巻いていた、あの子。
「最近の流行りかな。僕にサイダー差し入れるのって」
僕は受け取ってから呟けば、彼女は首を傾げた。
「そうなんですか?」
「て言っても、二人だけだけどね。貰えるのはありがたいから拡散しても良いよ」
僕からしっかりと許可を出しても彼女は「口が軽い女じゃないので」と断る。
「へぇ〜」
「な、何ですか……?」
「いや、別に何でもないよ」
僕が木曜夜のアドバイザーと呼ばれ始めたのは、彼女が発端であると言うのに。意図的か恣意的かは分からないけど、知らない、覚えてないと発言するとは。
「そ、れより!」
話を切り替える為か、彼女は少し声を張り上げた。
「うん?」
「どうですか? ほら、分かりますか?」
ここ最近はそうだった。
彼女が来る時は何かしらの変化がある。先週はサイダー好きの同士が来て、目の前のこの子は来なかったがやることは変わらない。
この子は僕に、前回との間違い探しをさせるのだ。
「……あ、髪型変えた?」
「チッ。正解です」
「え? そう言う性格だっけ?」
舌打ちをする様な子だとは思ってなかった。別にそれでショックを受けたと宣うつもりもないのだけど。
「はぁ〜……」
しかも溜息まで吐かれてしまった。
「いや、流石に分かりやすいね。アイロン当てたんだ」
髪の変化なんて。
それに彼女は髪が長いし。
「そうです〜。それだけですけどね」
ブランコを漕ぎ出した彼女の声は何処か投げやり気味で、僅かながらにではあるけど僕を責めてる様に聞こえる。
「今の所、僕の全問正解だよね?」
「……悔しい事に」
彼女の乗るブランコは次第に速度が落ちていく。
「ほら、僕は人の変化に敏感だよ」
鈍感と馬鹿にされる事はないだろう。
彼女は僕の方を見た。ただ、何も言わない。
「…………」
何で黙ったんだろうか。
「兎も角! 次で最後ですからね!」
「ん? ああ、うん。勿論次も正解してみせるよ」
正直言って自信しかない。
僕はここ最近、ずっと彼女の変化を追って来たし。その変化にいつだって気がついてきた。
「ねえ。次で最後ってのは?」
「……服装のイメージも変えましたし。髪だってストレートにしましたし」
そうだ。
彼女は最初に来た時とは違って垢抜けていってる。根暗そうなイメージが少しずつ。
「もうこれ以上の変化も考えつきませんし。ここから些細な変化にするのもどうかと思いますし」
「あー、それもそうだね」
だから、次で最後。
まあ、それで僕が全部正解したからと言ってどんな見返りもある筈がない。別に求めてもないけど。
「次の変化で正解できたら百ポイントあげます」
「おお」
「気がつかなかったらマイナス五百ポイントです」
「……不正解で失うポイント大きすぎない?」
「最終問題ですから」
これに答えられれば一発逆転、逆に答えられなければ今までの積み重ねも無意味になる。完全にクイズ番組みたいな感覚だ。
「正解したら……」
「したら?」
「…………」
彼女は顔を背けて、少し早口に。
「さ、サイダー一ヶ月分です」
点数だけでなくサイダーもついてくるとは、随分太っ腹な最終問題だ。とは言っても、彼女のポケットマネーから捻出されるだろう、そのギフトは何というか。
「嬉しい様な、喜びづらいような」
「一ヶ月間、サイダー係としてパシられて差し上げましょう! 『買ってこい』と命じられれば、その通りに」
「うん。もっと喜べなくなったよ?」
彼女はブランコから立ち上がり「覚悟しててください」と捨て台詞を吐いて、公園を出ていってしまう。
「何の覚悟なのやら」
僕が不正解だったからと言って、ポイントがマイナスになるくらいしかない。僕にとっては、ゼロかプラスくらいの話。
「正解しても、サイダーの話は断ろう」
それで良いはず。
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