第17話 俺達、義理の祖父の面会を待たされる

 ブリストルの宿に宿泊すること4日目にしてやっとこさフォーサイス侯爵からの使者が来て、会見の機会について具申があった。


 うーん、この時間の掛けっぷり、かなり怒ってそうだな。


 自分の娘とその家族がやって来たのに4日放置してやって面会の日取りを決める話をするなんてどう見ても普通じゃないぜ。


 その扱いに父ちゃんとオリビア母ちゃんは使者の人と冷静に話しているけど、ミリアム母ちゃんはかなりご立腹だ。


「実の娘が帰って来たというのに、なぜお父様は私達を屋敷の中に受け入れないのですか!?酷過ぎます!」


「ミリアムお嬢様、確かに貴女様は我が御館様のご息女ではあらせられますが、現在貴女様の肩書きは一寄子であるグリフィス家に依存しておいでです。よって只の寄子でしかない貴女様方を簡単に館内へ通すわけにはまいりませんゆえ」


「くっ……わ、わかりました」


 やっぱりフォーサイス本家は俺達グリフィス家のことにかなり業を煮やしてるらしいな。


 まあ当然だ。目を掛けていた連中が実の娘に対しDV紛いの行いをしてて、心配して気を揉んでいればその娘から仲直りしたので帰郷がてら説明するとのお気軽な報が入る。


 いろいろ舐められちゃってるもんな。そりゃ簡単には許さんて。


 まあそのための謝罪行脚なわけだし、父ちゃんには精々おでこの皮を擦りむいてもらうとしよう。


 この使者からの塩対応に流石の父ちゃんも事の重大さが理解できたようで、使者の話にしょんぼりしながら頷いてる。オリビア母ちゃんも同様だな。


 でもミリアム母ちゃんはフォーサイス側の出方が相当気に入らない様子で、無言ながら使者に圧を飛ばしてる。


 その後使者が帰ってもミリアム母ちゃんの怒りは収まらない。


 ブツブツ言いながらストレスが溜まりまくってる動物園のゴリラみたいに宿の部屋中を歩き回ってる。


「ミリアム母ちゃん、じいちゃんにも体面があるからそう簡単にはいかないんだよ。母ちゃんからの報告は逐次部下にも伝わってるだろうからさ、部下からの父ちゃんとオリビア母ちゃんに対する反発も抑えなきゃならねえし。」


「でも……私は娘なのですよ?実家に入れないなんて酷すぎます。せめて屋敷内に逗留させてから話し合いの場を持てばよろしいのでは?」


「そうして俺達とミリアム母ちゃんを引き離してから向こうさんの有利に話し合いを行うんだよ。そういう意味じゃじいちゃんはかなりフェアな態度で俺達に接してる。流石フォーサイス侯爵様だぜ。父ちゃん、じいちゃんちの絨毯を汚さないように床に頭をめり込ませてくれな」


 ミリアム母ちゃんを宥めつつ父ちゃんにもおでこの傷のケアを準備するよう促しておいた。




 翌日の朝、フォーサイスの使者がやって来て、今日の夕方館に参上し謁見することが伝えられた。


 昨日の使者さんはフォーサイス侯爵にうちの父ちゃんとオリビア母ちゃんの態度を好意的に伝えてくれたようだな。


 きっとミリアム母ちゃんのストレス行動も伝わっていることだろう。


 父ちゃんは部屋の隅で四つん這いになり、頭を床にゴンゴンぶつけながらブツブツ言ってる。多分お詫びの言葉の練習だな。


 その心掛けは大事だがよ、せめて息子や娘が見てない所でやってほしいぜ。


 オスカー兄が泣きそうだ。


 まあ謝り倒して許しを乞うしかない。ウチから払える金や物なんかないし、離婚でミリアム母ちゃんとオスカーを引き離されたらグリフィス家を俺が継がなきゃならなくなる。


 それはあまり良い未来じゃない。グリフィス領はフォーサイスに縁があるから成り立ってるんだから。次のトップはオスカーで決まりだ。


 俺もオスカーを差し置いて領主なんてやりたくねえし。


 とりあえず父ちゃんの土下座に期待して、どうでもやばい時には俺も行動を起こすとしよう。


 こっちも1歳ながら口八丁では負ける気がしねえしな!まあ手はひとつしかないんだけどね。




 夕方宿にフォーサイス家の馬車が到着した。父ちゃんとオリビア母ちゃんは乗馬でここまで来たからフォーサイスの屋敷に行くまでの足がないので手配してもらえたようだな。


 ちなみに徒歩や軍人じゃない人の騎乗による館訪問は失礼に当たるんだよ。訪れる側も格式を持たないと呼んだ側の立場を低くしてしまう。


 黒塗りの高級車で送迎されるようなパーティ会場に軽トラで乗り付けたら場違い感ハンパねぇだろ?パーティも一気に興醒めになる。


 そういうことだよ。


 フォーサイス侯爵の紋章が入った馬車に父ちゃんと母ちゃん達が、グリフィス村から乗ってきた馬車に俺達子供衆が乗り、いよいよ領館へ。


 綺麗に舗装された石畳によってほぼ揺れない馬車。ブリストル半端ねえな!


 馬車は大通りを通ってブリストルの都中央に向かう。そこには『青い要塞』と呼ぶに相応しい荘厳な館があった。


 でっか!あっお!!


 その姿はまるで強固な防壁に囲まれたビル群のようだ。


 そうだな、あの肉球マークでお馴染みのテレビ局社屋みたい。ターコイズブルーの建材をモザイクのように散りばめられている壁が、まるでガラス窓みたいに見えるってのがまたそれっぽい。


 丸い部分もあるぜ。ほんとまんまだな。


 正面玄関前のエントランス部分に馬車を停め降ろされる。俺はカタリナにだっこされながらの移動だ。


 身体能力的には全然歩き回れるけど、ここは対外的に幼子へと擬態しといたほうが吉だと判断した。


 玄関をくぐると執事か家令かわからないが初老の男性が現れた。どうやら彼が俺達を謁見場所であろう部屋へと案内してくれるようだ。


 玄関ホールには鎧や武器、絵画、美しい彫像なんかがいい感じに展示されてる。


 その壁に掛けられている4人の家族らしい絵画が目に入った。


「ん?あれは?」


 そこに描かれていたのは40代位の銀髪の男性と金髪の女性、10代位の銀髪の少女、そしてカタリナ姉位の年頃の金髪の少女。


 その絵に描かれた銀髪の少女……


 俺はその少女のことを見たことがある……なぜかそう思ってしまったんだ。

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