第16話 俺達、義理の祖父に会いに行く

 さて、英雄パーティ『明け星』が到着する前にやらなきゃならない事があるよな。


 そう、父ちゃんとオリビア母ちゃんの禊の旅、ミリアム母ちゃんのご実家フォーサイス侯爵家への謝罪旅行だ。


 忘れてないよ。


「フォーサイス侯爵家からは何も返答が来ていないのだけど、それでも行かなきゃいけないのかな?逆にご迷惑になるんじゃないのか?」


「私からも顛末を親書をもって伝えてますから大丈夫かとは思うのですが……」


「あ、甘い、甘過ぎるぞ父ちゃん母ちゃん……」


 この世界の貴族の礼儀はどうか知らないけど、普通に考えれば理解しつつ何も言ってこないのは明らかに含んでると思わざるを得ない。


 目を掛けた若い衆に自分の娘を妻に娶らせたらそいつは娘にDVを働いていました、となれば怒らない親はいないと思うし。


 そこを静観するなんて敢えての行動だよな。泳がせてる間に時限爆弾がセットされているに違いない。


「父ちゃん、今すぐ苦ーいコーヒーでも飲んでそんな甘々な考えを中和させた方がいいぞ。ミリアム母ちゃんから手紙が行ったんならなおのこと急いだ方がいい。『そんな面倒事は自分達よりも実の娘に説明させるのが無難』っていう舐めた態度に見えちまうからな」


「それは穿ち過ぎじゃない?」


「オリビア母ちゃん、貴族を舐めたらだめだ。彼等はそう思わなくてもとりあえず手を打っておこうとする種族だから。こっちが先に手を打てば逆に評価も得られるし」


「貴族の心情よりも1歳の我が子が世知辛い世情を語ってる姿を見せられる親の気持ちを察して欲しい」


「多分そんな子供を持つ親は他所にいないから察するにゃ及ばねぇな」


 留守番はジェイコブさんに任せ、父ちゃんとオリビア母ちゃんミリアム母ちゃん、カタリナ、オスカー、俺プラスミリアム母ちゃん付きの侍女1名で出掛ける事となった。


 父ちゃんとオリビア母ちゃんが馬に乗り、侍女が馬車を操作してミリアム母ちゃんと子供達を運ぶ。


 謝るだけなら大人達だけで早駆けすればいいと思ったんだが、孫の顔を見せて少しでも和ませた方がいいんじゃないかという案がミリアム母ちゃんから出たため家族揃って出発だ。


 ん?貴族が護衛無しで旅行なんて不用心だって?はっ!父ちゃん母ちゃんがいりゃ既に過剰戦力だよ!




 フォーサイス侯爵家は『アバディーン王国』屈指の名家だ。この国の名前にもなっている『アバディーン大陸』中央部にある『王都アバン』から南側一帯に領地を持つ。


 その領地の広さたるやアバディーン大陸の1/4にも及び、縦幅約2,000km横幅約3,500kmとめちゃくちゃ広い。代官としてその領地を治めている頼子の貴族家も30家を超える巨大な貴族家だ。


 その広大な『フォーサイス領』のほぼ中央にあるのがフォーサイス侯爵が住む『領都ブリストル』で、そこから西に600km離れた所にある開拓村が我が『グリフィス村』。


 ご存知の通りうちの父ちゃんは代官じゃなくて領地持ちの独立貴族扱いだ。成り上がり子爵様ってな。


 その昔スタンピードを防いだ功績でアバディーン王国の王様から直々に拝領したグリフィス村は元々フォーサイス侯爵領だったんだよ。


 王様に認められたばかりの成り上がり新米貴族に自らの娘を与えてまで面倒を見てくれた国内最大級の権力を持つ地方貴族、それが大貴族フォーサイス侯爵様なのだ。



「よくもまあそんなお人の娘さんに冷たく当たったりできるよなまったく!恥を知れ恥を!ブツブツ……」


「タクミ君、あまり自分の親のことを悪く言うものではないわ。私の肩を持ってくださるのはありがたいけど」


「ミリアム母ちゃんがいいっていうならまあこれ以上は言わないけどさ……」


 ミリアム母ちゃんが困ったような笑顔で俺の方を見るからこの話はもうやめるか。


 それに馬車を走らせて8日間のちょっとした旅行となってるこの帰省も明日には終わる。


 いよいよ明日領都ブリストルに到着するのだ。


 出来れば穏便に済んで欲しいとは思うけど、そう甘くはないだろうなぁ。


 大貴族ってのをちょっと甘く見てる父ちゃんとオリビア母ちゃん、実の娘が頼めば寛大な処置で済むと考えてるミリアム母ちゃん。


 やれやれ、俺がしっかりするしかないな。まだ1歳ですけどね!




 領都ブリストル。


 半径5キロメートルほどの円形で高さ5メートル程のクリーム色をした防壁に囲まれた要塞都市だ。背の高い建物の屋根が全てターコイズブルーに統一されていて、その統一感に荘厳さと雄大さに加え美しさを醸している。


 流石はアバディーン王国屈指の大貴族が住む本拠地だな。グリフィス村とは比べられない。


 てか、グリフィス村の建物なんかここの建造物に比べれば建ってないにも等しいくらいだぜ。


 それくらい見事な都市だ。


 無事ブリストルに到着した俺たち家族を代表して父ちゃんが街のメインの出入口らしきデカい門の所にいた兵隊さんに声を掛けてる。


「あーそこの兵士さん。私はグリフィス領領主、ルイス=フォン=グリフィス子爵だ。フォーサイス侯爵にお目通り願いたいのだが……手配していただけるかな?」


 おおう、子爵様が衛兵に下手!?なんだかお互いがめっちゃ困ってるな。


「グリフィス子爵と言えばあの勇者ルイス様ですか!?え、ええと……お会い出来たことは光栄だが……衛兵としてその言葉を鵜呑みにはできない。上司に相談させてくれないだろうか?」


「あ、ああ……了解した」


 当然だな、もし父ちゃんが勇者ルイスの偽物だったらとしたらマジで洒落にならないからね。この人は業務に忠実なひとだ。


 ていうか父ちゃんよ、折角侍女を連れて来てるんだから先触れを入れとけよ。迷惑掛けてんじゃねえ!


 1歳でもわかるぞ?


 父ちゃんと話をした衛兵はダッシュでどこかへ行ってしまった。代わりにやってきた兵士が俺たちをメインの門から少し離れた所にある通用門のような所へ案内してくれた。


 はーやれやれ先が思いやられるぜ。


 その後やってきたフォーサイス侯爵の部下らしき人がミリアム母ちゃんを見て俺たちの身元を確認、やっとのことでブリストルの都に入ることができた。


 とはいえ急にやって来てお宅に上がり込むわけにも行かず、とりあえず宿を取って面会できるまで待たせてもらうことになったよ。


 いつお目通りが叶うかわからないし、領都見学はお預けです。


 俺はいつも通り部屋で寝転びながら身体に魔素を巡らせたり宿の窓から見える庭を粒子のスキルで攫って小石を分けたり草を抜いたりしながら時間を潰したぜ。


 いちおうまだ1歳だからな。寝る子は育つんだよ!!

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