第15話 俺、訓練を始めることになる
家族とうちで働いてる人達に俺が異世界転生者だと報告してから数日が経った。
侍女やメイド達だって俺からしたら家族も同然、包み隠さず話したよ。
他所には他言無用だとお願いしたけど、まあバレてしまったとしても構わんさ。うちの父ちゃん母ちゃんの鼻息の荒さを見たら問題ないって思えるもの。
『我が息子であるタクミ君を害する奴はお父さんが息の根を止めるから安心しなさい』なんて怖い台詞を笑顔で語る父ちゃん。安心出来ねぇ逆に怖いわ!
まあ俺としても隠し事しながら生活するのは御免こうむる所だし、父ちゃん達に甘える事にしよう。
だが流石にあの駄女神が馬鹿をやってくれたお陰で手に入った複数の魂を融合した俺の魂の事は誰にも伝えてない。ジェイコブさんにも内緒にしてるからね。あーあの人は案外気付いてて黙ってくれてるだけかも分からんが。
そういう訳で異世界転生なんてちっさい事は気にしなくていいからみんなに伝えたんだ。
するとうちの家族と使用人の人達はなぜか俺を『タクミ君』と呼ぶ様になった。
多分、俺の魂の年齢の事を考えると『坊ちゃん』って呼びづらくなったんじゃないかと考察してる。でもそれなら『タクミ様』でもいいはずだよね。だいたい俺は貴族の生まれなんだし、使用人達から敬われてもおかしくない人材だ。
なのに『様』じゃなく『君』付けなんだよなぁ。
「ねぇミリー、うちの使用人達はなぜ俺を君付けで呼ぶんだと思う?」
「え?それはタクミ様の喋り方が余りにも庶民的でまるで近所の子供と話してる気持ちになるからじゃないでしょうか?」
俺の侍女であるミリーは以前と変わらず俺を『タクミ様』と呼ぶ唯一の人物だ。あとジェイコブさんも相変わらず『坊っちゃま』と呼んでる。
「でもミリーは俺を様付けで呼ぶよね。それは何故?」
「えええ、だって私にとってタクミ様は以前と変わらないタクミ様だからですけど?」
「はぁ、ミリーはええ子や……ミリーが大きくなったらオッチャンが嫁に貰ったるからな」
「うふふ、期待しないで待ってますね」
きっと俺のこういう発言が庶民的と言われてしまう所以なんだと思う。ま、俺としては願ったり叶ったりなんだけどな。
こんなチビの成りして様付けされてたら人間が腐っちまう。
みんな仲良く平等に生きていきたいもんだ。
「じゃ、そろそろトレーニングしてくるから。今日のメニューはロードワークと筋トレ、その後ジェイコブさんとの軽い戦闘訓練だぜ。お昼までには帰ってくるからな!」
「はい、行ってらっしゃいませタクミ様」
異世界転生者とカミングアウトした俺の安全率を上げるためグリフィス家が採った方針は、俺の英才教育。特に戦闘面のレベルアップを図ることにしたのだ。
生き残りたければ戦え!って事だな。
まあステータスアップに関しては俺自らのワークアウト知識に加え、『肉体改造LV5MAX』の恩恵もある。だから勇者である父ちゃん母ちゃん自らが戦闘訓練をしてくれるんであれば願ったり叶ったりではあるんだが……
「ルイス、『明け星』のみんなを呼びましょ?あの人達ならきっとタッくんを強くしてくれるわ」
「名案だぞオリビア!ミリアム、君もそう思わないかい?」
「あわわ、あの『明け星』の皆様がまたお揃いになる……素晴らしいですわ!カタリナさんやオスカーにも稽古を付けて頂けないかしら?」
まさか父ちゃんは自らのパーティメンバーを招集して俺の家庭教師に迎えるという暴挙に出たのだ。
俺まだ1歳なんですけど!?
父ちゃんとオリビア母ちゃんは『明け星』っていう超有名な冒険者パーティに所属していた。
俺は詳しく知らなかったが、ジェイコブさんが知識として知っていたので教えて貰ったんだ。この人も父ちゃん達のファンだったみたいだからな。
ジェイコブさんの話によると、父ちゃん達『明け星』はなんでも冒険者互助会組織である冒険者ギルドには未登録だったらしく、実力派集団の振興団体『冒険者ユニオン』という組織でミスリル級というランクのパーティだったそうな。
ミスリル級とは冒険者ユニオンの中では中級上位に位置する等級で、下から『ルーキー』『アイアン』『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『ミスリル』『オリハルコン』『アダマンタイト』と分けられている。
冒険者ギルドで等級を格付けする際はギルドカードに魔素を纏わせることにより変化するカードの色を基準に決定される。白から白磁級、黒鉄級、青銅級、緑銀級、赤金級てな具合にだな。
がんばってレベル上げして強くなればギルドカードが反応して色が変わるんだ。それを確認してギルドに登録すれば自動的に冒険者ランクが上がるというシステム。
俺が思うにカードの変化のカラクリはステータス依存なんじゃないかと感じる。調べた訳じゃないから何とも言えないが。
それに比べ冒険者ユニオンはその人の強さよりユニオンに対する貢献度とユニオン独自基準の昇級試験によって等級を変化させるそうなのだ。
その等級に対する基準は数百年生き続けていると言われている冒険者ユニオンの管理者が決めた基準に沿って判断されているそうで、ユニオン支部によるバラツキや贔屓などはないらしい。
きっとその管理者って奴人間じゃねえだろ。エルフなんかの長命種か何かか?やっぱ勢いある団体は一味違うんだな。
世間一般的には冒険者ギルドの方がメジャーな団体だと言う事で信頼度は高めなものの、結果というものに関してはユニオンも高く評価されてる様だ。
王侯貴族の中には冒険者ユニオンのランクしか認めないって人もいるくらいらしい。
『明け星』は紛れも無い強いパーティだって事だな。
まぁ聞くだけだとミスリル級って大した事ないように聞こえてしまうが、オリハルコン級冒険者は現在存在しておらず、アダマンタイト級に至っては過去10名程度しか存在していないらしい。
有名なアダマンタイト級冒険者の代表は、過去の伝説に謳われたアダマンタイト級冒険者5名で構成されたパーティ『虎の爪』だ。後はその師匠とその家族が有名なんだそうだ。
と言うかアダマンタイト級冒険者はこれまで彼等しか存在していないらしい。加えてオリハルコン級ですら現在は存在していないという事で、なんとミスリル級が事実上トップ冒険者だって事となる。
俺の父ちゃん母ちゃんはそんな人達だったって事が分かって貰えたかな?『明け星』のヤバさは伝わったかな?
そのトップパーティである『明け星』による英才教育という名の戦闘訓練をやるってんだぜ?1歳にさせる事じゃないって思わないか!?
「坊っちゃま、正直申し上げまして『明け星』の方々との戦闘訓練程度であなたがどうにかなる事はございませんよ」
「はぁ?何言ってんのジェイコブさん!英雄パーティが揃うんだよ?俺死にたくないし!」
「うーむ、単純なステータス勝負であるなら坊っちゃまは『明け星』全員と戦っても勝てる程なのですが……まあ良い機会ですので坊っちゃまには最強無敵でも目指していただくとしましょうか」
「最強無敵って……俺に格闘の型を教えてくれてるジェイコブさんの方が強いでしょ?」
「先程から私のスキルレベルとステータスからの数値上昇メッセージが鳴り続けてます。私の方が成長させて貰っているようですな」
素手による組手の手解きをしてくれているジェイコブさんが何やら訳分かんない事を言ってる。どちらにせよ俺は自分の身を守るためにも父ちゃん達『明け星』に付いていける程度の力を付けなきゃならない。
俺は自らの短い手足を動かし、必死になって型を習うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます