第14話 俺、真に家族の一員となる

「ミリアム、すまなかった……これまで私が貴女にたいして取ってきた態度は貴族がどうとかいう以前に大人として人として間違っていた。許してくれ……」


 父ちゃんがミリアム母ちゃんに向かって頭を下げてる。


「父ちゃん、格好を付けるなよ!自分で抱いた女を泣かせたんだから死ぬ気で詫びろよ!」


「ミリアムさんすいませんでした!!ゆるしてください!!」


 俺の檄に背筋を伸ばした父ちゃんはその場でジャンプした後床に這いつくばり見事な土下座をした。


 ジャンピング土下座だ!!


「あ、あの……あなたは一応私の夫でありこの領地の主なのですから、女の身の私に対し地に額を付けてまで頭を下げるのはいかがなものと……タクミさん止めさせていただけませんか?」


「ダーメ!ミリアム母ちゃんも父ちゃんの謝罪をきちんと目に焼き付けないと。あなたの感性で言えば大の男が土下座など非常識かもしれないけど、本来他人様を傷付けた落とし前はこんなもんじゃねえから。俺に言わせれば快楽のままに女を抱いて孕ませて、気に食わないからと突き放すなんて正気の沙汰じゃねえからな!切腹だよ切腹!!」


 土下座をして詫びを入れた父ちゃんに対し、ミリアム母ちゃんは即座に詫びを受け入れた。


 全く!女を泣かせるハーレムリア充には宦官刑を喰らわせてやればいいんだ!


 子供3人いりゃいいだろ?爆発して欲しい。


 とはいえミリアム母ちゃんが父ちゃんの謝罪を受け入れたって事でこっちはこれにて手打ち。


「ごめんなさいミリアム様、私もルイスと同じです。あなたが私達との考え方の違いに苦しんでいるなんてこれっぽっちも気付かなかったの。我儘言って私を困らせてルイスを独り占めしようとしてるって思ってたわ。でもそれは周囲から私達を貴族として立派に見えるように助けてくれていたなんて……タッくんに言われるまで考えてもいませんでした」


 続いてオリビア母ちゃんの謝罪だ。オリビア母ちゃんは元々優しくて誰かを憎み続けるなんて出来なさそうなタイプだからあんまり心配してないが。


「私も……オリビア様は分かってくださっているとしか考えておりませんでした。貴族ならまずは家、そして領地。立場や振る舞いを立派に見せるのは当然としか考えていなかったのです。でもルイス様やオリビア様は貴族である前にまずは家族だったのですね。私はそこに配慮出来ませんでした。私は本当の意味での家族ではなかったのです」


「そ、そんな事ないわ!あなたは私の可愛い……妹、なのですよ!」


「ああ、オリビア姉さま……」


「あら!うふふ、久し振りに私のことを姉さま呼びしてくれたのね。よーしこうなったら、私もこれからはあなたのことを『みぃちゃん』って呼ぶわ!」


「は、はわわ……公の場以外でなら是非そうお呼びくださいませ……」


 ふたりは愛おしそうに手を取り合ってる。溢れんばかりの笑みを浮かべたオリビア母ちゃんと頬を赤く染めて目を潤ませてるミリアム母ちゃん。


 ま、こちらも問題はなさそうだ。ていうか父ちゃんの土下座と比べると雲泥の差だ。収まり感から見た目の神聖さに至るまで差があり過ぎる。


 ふたりとも既婚経産婦とは思えん可憐さだ。両手両膝を汚しおでこに擦り傷こさえた父ちゃんに比べるとまさに神と虫ケラ程の差だな。尊いぜ!!


 おっと、我が姉と兄の笑顔も取り戻さなければ。


「ジェイコブさん、カタリナ姉ちゃんとオスカーを呼んで下さい。今この瞬間にあのふたりがそこに入ればみんなハッピーだよね!」


「ははは、もうすでにお呼びしておりますよ。ほらそこに」


 俺なんかが気遣うまでもなくジェイコブさんや侍女さん達がカタリナとオスカーをリビングへ招き入れていた。


 慌てて立ち上がり体裁を整えている父ちゃんと手を取り合って笑っているオリビア母ちゃんミリアム母ちゃんに向かって走り寄るふたり。



「ああ……いいな、家族か」




 前世の俺は早くに両親親戚を亡くしたから家族なんかいなかった。


 でも、彼らを見ているとなんだか元の世界の梶山さん家族を思い出してしまったよ。


 天涯孤独になった俺を家族同然のように迎えてくれた人達。


 アンタは俺の兄貴かよ?とばかりに相手をしてくれた梶山さん。奥さんの飯はメッチャ美味かったな。娘さんはまるで妹のようになついてくれちゃってて……


 谷川さんも忘れてないから。あの人は静かに見守る親父さんポジションだったよなあ……


 いいだけ弄られては飯奢ってもらって誤魔化される、ほーんと、いいんだか悪いんだか分かりゃしねえ……


 ほーんと、家族って……




「……坊っちゃま、如何なさいましたか!?」


 ジェイコブさんの言葉にハッと我に返った。


 俺の目から涙が溢れてた。


「あ、あれ、変だな?」


「坊っちゃま……」


「やだなぁジェイコブさん、俺、なんか目が乾燥しちゃっててさ、いやゴミでも入ったかな?いやいやここまでけっこう頑張ったからいい汗かいたんだなきっと。ははは『焦って汗が!』ってダジャレとかどうですか?」


「坊っちゃま、あれはあなたのご家族です」


「何言ってんの?当たり前でしょ」


「あれは他人ではございません、あなたのご家族なのです。お行きなさい!あなたはもう独りじゃないのですから!」


「!!!」


 ……俺さ、前世で天涯孤独だったとかこの人に話した覚えないんですけど!?


 有能な奴って凄いよね。いやもしかしたら俺って分かりやすいタイプだったのかも!ちょっと恥ずいぜ。


「タクミ!」


「タッくん!」


「タクミさん!」


 俺を呼ぶ家族の声が聞こえた。


 そして、俺は両の眼から溢れ出る涙を止める事ができなくなってしまった。



 ああ、こんな俺に家族がいる!



 もしかしたら、俺は今この瞬間やっとこっちの世界に溶け込めたのかもしれない。いい歳して恥ずかしながらそう感じてしまったぜ。まあまだ1歳なんだけどな。


 おい駄女神よ、今回の人生は今までの失敗転生をチャラにしてやっても良いってくらいの金星だぜ!


 俺は涙を服の袖で拭った。


「ああそうそう、俺にとってはあなたも家族ですからね、ジェイコブさん」


「ははは、それは光栄にございますな」


 照れ隠しになるかならないか分からない台詞を吐きつつ、俺は黄金に輝く幸せな空間へと足を踏み出したのだった。

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