第13話 私、家令です。坊っちゃまについて行きます
私はグリフィス家家令を勤めますジェイコブ=テーラーと申す者です。30半ばにして伴侶も見つけられない粗忽者にございます。
幼い頃鑑定の儀を行った際『鑑定』というスキルを手に入れた私は目に映る物全てを鑑定し知的欲求を満たす事を楽しみにしておりました。
その辺りの風変わりな性格が私の婚期をふいにしているのかも知れません。
今はまあ……結婚なんて考えられませんけどね。なぜなら生涯を掛けてお仕えしたい方が現れたからです!
私の父親は若い時兵士としてこの辺り一体を取り仕切る上級貴族のフォーサイス侯爵家に仕えておりました。数年前に起きた魔物暴走の際戦功を上げる事が出来た父は士爵号を受け貴族へと叙されたため、フォーサイス家の騎士団へ入団し現在も立派に勤めを果たしております。
テーラーという姓もその時戴いたものですな。
お陰で私は高等教育を受けさせて貰う事が出来ました。父が貧乏兵士のままであったなら私は学校へなど通う事は出来なかったでしょう。
私は父を尊敬しておりますよ。
私の兄は体格が良く父に憧れて騎士団に入るため幼い頃から常に修練を積んでおりました。現在見事に騎士団への入団が叶い忙しい日々を過ごしております。
学校へ行くよりも修練を優先した兄は学校へ行かず母から簡単な読み書きと計算、マナーを学びました。お陰で我が家の家計から兄の分の学費が浮いたため、私は学校へ通えたのです。
兄にも頭が上がりませんな。そんな兄に教育を施した母も素晴らしい。私は家族に恵まれました。
戦いより学問が好きだった私は学業と体術、少々の魔法の才によって好成績を修める事が出来ました。しかし幾ら優秀な成績を修めたとは言え我が家は世襲出来ない士爵の家、それも次男である私が貴族になれる可能性はほぼございません。
王城や侯爵家で文官として働くには立場が足らず、軍に入るのは私としては不本意。
しかし将来生計を立て口に糊するためには働く必要があります。
丁度その折魔物暴走を抑えた英雄様が貴族号を叙勲されたと言う話を聞きました。
私の出身地であるフォーサイス領の一部を分割地として拝領なさったルイス=フォン=グリフィス様。
子爵となられたルイス様は魔法剣士として名を馳せ、奥様であらせられるオリビア様は私と同じ体術使いだとか!
何とかこのお方達に仕える事が出来ないでしょうか?
ふむ、なにやらグリフィス家はお屋敷の勤め人を募集しているようです。これは重畳、自らを売り込むチャンスですな。
こうして私は熱心な就職活動の末、何とか家令の座を獲得する事が出来たのでした。
まだまだ発展すらおぼつかない村と平民上がりの領主様をお助けするため、私は誠心誠意力の限り勤めあげたいと思います。
グリフィス家にお仕えして5年が経ちました。ルイス様は領主としての才が光る事はございませんでしたが、我々領民の意見を聞き入れ自ら陣頭に立って労働をする事で確実に民心を掴んでおりました。素晴らしいお方です。
貴族の後ろ盾として古参の大貴族であらせられるフォーサイス侯爵の頼子となり、ミリアムお嬢様と婚姻を結ばれました。
領民からも外戚からも認められ正に順風満帆!……となる筈でしたがそう事は上手く運びません。
ルイス様オリビア様とミリアム様の不仲です。
ルイス様とオリビア様は自らの力をお示しになりつつ登りつめた英雄様、基本的には自由人です。ですがミリアム様は生まれながら大貴族の子女で貴族として家を大事にする英才教育をお受けになられた方。根底が違い過ぎます。
貴族として家柄や名を大切にするミリアム様のお考えは間違ってはいないのですが、それは今まで自らを盾にして民の為に体を張ってきたルイス様やオリビア様には理解出来ないのです。
名前や体面など人の生命に比べれば取るに足らない、ルイス様方のお考えは素晴らしいもので制限されるものではありません。それがあの方々の良さなのですから。
最初こそは仲良くされていらっしゃったお三方でしたが、事ある毎に家名をお出しになるミリアム様とルイス様オリビア様の間にはいつしか溝が生まれてしまいました。
やはり貴族は難しい……そう思っていた矢先にあの御方はこの世に生をお受けになられました。
タクミ=グリフィス様。ルイス様とオリビア様の間に生まれたご子息様でございます。
タクミ坊っちゃまの生誕によりグリフィス家の中のバランスがさらに大きく崩れるかと思われました。皆戦々恐々としております。
しかしそれは私が思っていたバランス崩壊とは全く違っていたのです。
タクミ坊っちゃまは生まれた瞬間から自らの名を叫び、乳飲み子なのに周囲を洞察し隙を見ては動き回って書物を盗み見ておられる。
怪しさ満点であります。私の知的好奇心を擽りまくってます!
私は無礼を承知でタクミ坊っちゃまを『鑑定』してみました。
名前:タクミ
位階:1
生命力:549/549
精神力:24,386/24,386
体力:71
知力:640
敏捷:143
器用:72
称号:異世界転生者、融合魂保持者
な、何と言う事でしょう!?この乳飲み子は化け物でした。
まず、私の鑑定スキルレベルは2だったのですが坊っちゃまを鑑定しただけでひとつレベルアップして3になりました。
今まで20年以上掛けてようやくスキルレベルをひとつ上げたというのに、坊っちゃまを鑑定しただけでレベルアップとは……
それまで見えていた鑑定情報は、その方の『位階』と『体力』『知力』『敏捷』『器用さ』というステータス部分、そして『技能』と『称号』でした。それに加え新たに『生命力』『精神力』『受動技能』という物が見える様になったのです。
凄い事です。凄い事だったんです……が、坊っちゃまの鑑定結果の前に私の鑑定スキルレベルの上昇など大した情報ではありませんでした。
まず坊っちゃまの『生命力』と『精神力』です。
鑑定で調べた結果どうやらこの数値はその人の肉体エネルギーと精神エネルギーに該当しており、生命力はその名の通り生命の量の可視化、精神力は魔法やスキルを使用したりして枯渇すると気絶してしまうものの様です。
生命力に至っては枯渇すると死んでしまう様で、これは人が生きるに当たりかなり重要な数値である事が分かります。
私にとっても新しい情報なので比較として自分とオリビア奥様を鑑定して比べてみる事にしました。
オリビア奥様の生命力値は486、精神力値は244。私に至っては280の187でした。
坊っちゃまの数値は異常です!!
位階……レベルが54あるオリビア奥様に比べレベル21の私の数値が劣っているのは頷けます。ですが坊っちゃまのレベルは1。それなのに生命力値は奥様の数値を凌ぎ、精神力に至っては100倍に至ってます!
次にステータス。私の4つのステータスは体力27、知力34、敏捷31、器用23と同じレベル帯の人と比べて高めである事を自負しております。
例えば体力値が15を超えればその辺りの他者との喧嘩には少々負けない数値である事からして27にもなれば青銅級から緑銀級冒険者に匹敵すると思われます。
そしてオリビア奥様のステータスは上から56、28、71、49と正に勇者の名に恥じぬ高スペックを保持しておられます。流石は白金等級の冒険者様です。
しかし、その能力を軽く凌駕するのが坊っちゃまでした。
全てのステータス値が奥様の数値を大きく上回っています。特に凄いのが知力。640などと奥様の4ステータスの合計値の3倍あります!
他にも、スキルも生まれながらにしてレベルMAXの物がありますし、『粒子』と言う見たことも聞いたことも無いスキルを所持されています。
特に『不屈』というパッシブスキルに至っては鑑定に制限が掛かる程のレアスキルです!これはもっと鑑定スキルを磨かなくてはなりませんね。
そして、坊っちゃまの鑑定結果で究極の情報が……『異世界』と言う言葉です。
遠く物語や吟遊詩人によって謳われる『稀人』の存在。
どうやらタクミ坊っちゃまは異世界から来られた『稀人』であるご様子。それも以前の記憶を維持しておられるようです。
乳飲み子にして私達一般人を軽く引き裂く程の力を有し、その智慧は時空を越え、きっとこの世界に大きな影響を与える事でしょう。
このお方は……正に化け物です!
私は何と言う恐ろしいお方の元に来てしまったのでしょうか!?
正直グリフィス家の夫婦喧嘩など些事でございます。今坊っちゃまの能力が周囲に知れると皆から恐れ畏まられるかも知れません。権力者から目を付けられるとつまらない揉め事を引き込む恐れもあります。
だいたい坊っちゃまのことが周囲にバレれば私が自らの好奇心を満たすため鑑定しまくっていることもバレてしまいます。他者のプライベートを覗くことは禁忌ですから私も忌避されてしまいます。
当然失職してしまうでしょう。失職は不味いです。
私はこっそり坊っちゃまに事情をお話しました。自分が鑑定スキルを所持しており坊っちゃまを見てその類稀な能力を見知ってしまったこと。これが一般に知れてしまうと騒動が起きるかも知れないこと。そして私自らも失職してしまう可能性がありそれはたいへん困るということ。
坊っちゃまは私の懺悔を聞き入れて下さいました。それどころか前世と通算すれば私と同世代であることをたいへんお喜びになったのです。
私は生涯を掛けてお仕えする方を見つけました!タクミ様こそが私を知的好奇心の彼方へ連れて行って下さる方だと確信しております!
未だ乳飲み子のお姿のためいろいろ融通が聞かないこともございましょう。私にお任せ下さい、なんでも準備してご覧にいれます!
グリフィス家の家令職?ああそうですねそれもやらないといけないですがまあぼちぼちやるとします。
さあタクミ坊っちゃま、何なりと御用をお申し付け下さい!
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