第12話 俺、実の父を糾弾して問い詰める
「おお我が息子タクミ!どこへ行っていたのかな?急にいなくなったから父さん心配しちゃったぞ!」
「そうよそうよ!タッくんはすっごく賢くてあんよもお喋りも上手ですけど、まだ1歳の赤ちゃんなんですからね!ママは心配だわ。プンプン」
ミリアム母ちゃんとのお話が終わりリビングに行くと父ちゃん母ちゃんがソファで寛いでた。
すっごく楽しそうで全然心配なんかしてねえし。1歳の赤子にどんだけ安心を覚えてるのやら。
ていうか領民の前で家庭内の問題を晒してしまったんだからもうちょい残念な顔をしろよ!子供かよ!
「た、タクミ。ホントにどこ行ってたの?私心配で……」
リビングの隅にオスカーの手を引いたカタリナ姉ちゃんが立っていた。顔色が悪い。
手を繋いでるオスカーの頬にも涙の跡がある。
リビングにいるならソファに腰掛ければいいと思うけど、きっとオスカーを連れてるから父ちゃん達と距離を取ってるんだな。
ほんと、出来た姉だわ。マジで親より彼女の方が大人だなぁ。
「ごめん姉ちゃん、ちょっと用事があってさ。そう言えばミリアム母さんがオスカー兄を探してたぜ。連れてってくれよ」
「で、でも……」
「いいっていいって、父さん達には俺が言っとくから。あの人達俺には甘いからな。それにオスカー兄もミリアム母さんとこに行った方が気分が優れると思う。姉ちゃんもミリアム母さん達とお茶でもしてこいよ」
「カタリナ!」
俺達の話を聞いた父ちゃんが姉ちゃんを呼んで制する。
大人気ないなあ、オスカーは関係ないだろうが。子供に圧を掛けんじゃねえよかっこわりい!
「父さんは俺と大事な話があるから。気にすんな、行ってきていいよ。オスカー兄、母ちゃんによろしくな」
「タクミ!君は父さんを無視するのかい!」
「姉ちゃん!行くんだ!」
「う、うん……オスカー、行こ」
「は、はい姉さん」
カタリナは俺と父ちゃんをチラチラと一瞥してかれオスカーの手を引いて部屋から出ていく。オスカーもそれに素直に従った。
「タクミ……君は一体どこへ行っていたのかい?それになんだ今の態度は。幾ら君が超天才だったとしても、親にしていい態度じゃないと思うんだけどな」
明らかに機嫌を損ねた風の父ちゃん。俺が1歳の赤子だから我慢してるんだろうけど、ちょいちょい怒気や覇気をぶつけてきてる。
こえーこえー、でも、引けねぇな!
「さっきまでミリアム母さんの所に行ってたよ。機嫌を損ねたままの女性を放置出来るほど俺は非常識じゃないんでね」
「なんだそりゃ?それは私達が非常識だって意味なのかい?」
「タッくん、いくら何でもパパに対して酷いわ!謝って!」
「いやいやいや、あんたらの非常識が改善されたら考えてもいいけどとりあえず俺は間違っちゃいねえから謝らんよ」
俺はやれやれと両手を拡げてみせながら父ちゃんの座ってるソファの対面にぴょっこりと腰を降ろした。
「とりあえずふたりに俺の考えを伝えとくわ。まず最初に家庭内戦争についてだ。父ちゃん、アンタが悪い。アンタは急いでミリアム母ちゃんと実家のフォーサイス家に詫びなけりゃならない」
「なんだと!?」
思わず立ち上がった父ちゃん。ちょっと震えながら俺を睨んでる。
「そりゃそうだろう、書類上も事実上も妻であるはずのミリアム母ちゃんを蔑ろにする発言や態度、オスカーに対しても明らかに家族とは思えない態度を示してる。そして今日のミリアム母ちゃんの公の場での発言に対してきちんとした回答をしてない。領民の前では軽々に次期後継者を決める話が出来ないことは理解するけど、領民にペコペコしながら有耶無耶にする対応はマジで貴族を舐めてるとしか思えん。正直勉強してない父ちゃんは貴族としてやべえぞ?」
「むっ!!」
顔を赤らめて怒りを顕にしている父ちゃん。そんな父ちゃんを俺は睨み付けながら話を続ける。
「アンタらは貴族だ、忘れてんじゃねえぞ?領民から上前はねてそれで生活してるんだから領民を不安にさせるんじゃねえよ、もうちょい見栄張れ。後継者の話は領民だって知りたい話だろ?話題に上ってしまったならきちんと説明責任を果たせ。それにミリアム母ちゃんは上級貴族の娘でこの家の長男の母だぞ?何ハブにしてるんだよ」
「それは……ミリアムとは望んだ結婚ではないからだ!フォーサイス家から無理に押し付けられたんだぞ?私はすでにオリビアと結婚してたしカタリナだっていたんだ!」
「望まない婚姻は貴族なら当たり前だろ?フォーサイス侯爵家なんていうデカい貴族家が寄親になったからこのグリフィス村は他所からのちょっかいを掛けられず平和にやっていけてるんだ。ということは他所様から見るとミリアム母ちゃんがここの正妻になるってことだろうがよ。そこを理解しろって。アンタらが守らなきゃならないのはアンタらふたりの愛の深さじゃねえ、領民の生命と生活だ」
「そ、それはそうだが、私とオリビアは愛しあって一緒になったけどミリアムはそうじゃないんだから仕方がないだろ?迷惑でしかないのに貴族になったから断れないんだ、仕方がなかったんだよ」
「……父ちゃん、アンタダセェな」
「なんだと!?お前に何がわかるんだ!!」
「見たらわかるだろうが!子供がいるっつーことはお前彼女とヤッたんだろうが!なーにが『愛』だよ!孕ませたんだから責任取れ馬鹿たれが!」
「はっ……」
父ちゃんの言ってる事には一貫性がないから口から出任せだとは思ってる。でもあまり悲しくなることを言わんでくれよ英雄さん。
「アンタがミリアム母ちゃんを抱いたってことは初めから嫌がってた訳じゃないんだろ?最初は受け入れてたけどミリアム母ちゃんが大貴族の娘なことをチラつかせるのが横柄に見えたとかそんなところだろ?」
「……」
「ミリアム母ちゃん言ってたぜ、アンタらは憧れのヒーローだったんだって。父ちゃんが貴族になってここの領主になった時、血縁を結ぶのは自分だって立候補してフォーサイス家の当主に談判したそうだよ。ここに来たら母ちゃんのことをお姉様って呼ぶって決めてたんだって」
でもいつまで経っても貴族らしく振る舞わないふたりを見て、自分だけはちゃんと貴族の妻であろうと頑張った結果理解を示さないふたりから嫌われてしまった。
お互いもっとコミュニケーションが取れていれば良かったんだけど、片方は元平民の脳筋でもう片方は12歳の小娘だったことが不幸だったんだろうな。
「どっちにしても歳上でありレベルも高くて力を持ってる現貴族であるはずの元平民が勉強不足だってことが1番の罪。それもヤることはヤッて孕ませたにもかかわらず女の子に辛い思いをさせたなんて腹を切って自決しても構わんレベルだぞ?」
「ルイス……たしかにタッくんの言う通りだわ。彼女最初は凄く可愛らしくて私も妹が出来たと思ってたもの。段々発言が息苦しくなってきて突き放してしまったけど」
「うーん、私はもう今の話に全く反論出来ないから……たしかに迷惑だと感じたからとはいえいくらなんでも私の行動は少女に取る態度じゃなかった」
「当然この家庭内戦争はミリアム母ちゃんの侍女さん達を通じてフォーサイス家に知られてると思われるし、今回のお祭りで起こった騒動が裏取りの証拠になってるよ。つーわけで父ちゃん母ちゃんはミリアム母ちゃんを含むフォーサイス家に詫びを入れることが決定しました」
デカい貴族家は力を持ってるが、それは純粋な武力だけじゃなく情報処理や収集してそれを利用する力も持ってるってこと。
流石に父ちゃん達を軍事力で制圧はしないだろうけど貴族として社会的精神的に殺すことは出来ると思う。
「それとな、俺はうちを継ぐのはオスカーで良いと思ってることを伝えておくぞ。ていうかオスカーじゃないとダメだ、それを条件にフォーサイス家への詫びにすればいいよ」
「それは!!私達の贔屓目を鑑みてもお前の知恵が凄いのは理解出来る!お前は天才じゃないか!なぜお前が後継者じゃ駄目なんだ?」
「まず俺自身が跡を継ぐつもりがない。それと貴族家としてオスカーを選ぶ方が世間的にも将来的にもグリフィス領にとって有効なのも分かってる、フォーサイス家って凄えんだよやっぱり。後は、今回の騒動の詫びとしての落とし所にピッタリなシチュエーションだから利用するべきだ」
「そんなにスッパリ割り切れる訳ないだろ!」
「貴族ならそこは割り切らなきゃ。別に何かを支払ったり生命を差し出したりするわけじゃないんだから痛みなんかないのに効果的、だったら使わにゃ損だ」
「す、凄いな……お前は本当に1歳なのか?」
次代のグリフィス家当主はフォーサイス縁の者っていうお墨付きなんだから文句はないだろう。勇者が自ら条件を付けて詫びを入れることで忠誠を示すんだからな。フォーサイス家はウハウハだ。
ついでに俺のしがらみもなくなるし一石二鳥。俺に領主とか無理無理。
だって俺はフツーの一般人なんだから。元は、だけどね。
でもオスカーが困った時には出来る限り助けてあげよう。それ位はしよう。
「ジェイコブさん、ミリアム母ちゃんを呼んでください。ルイス父ちゃんとオリビア母ちゃんから正式に謝罪があるからね」
「畏まりました坊っちゃま、既に侍女に取り次ぎをさせております。フォーサイス家の方に繋ぎも取りました。それにしてもお見事ですな、流石坊っちゃまです」
「いやいやあなたに言われてもピンと来ませんから!有能過ぎだよ!」
リビングの隅に控えていたはずのジェイコブさんは既にひと仕事終わらせてたよ。すげーな!
「なあタクミ、お前は一体何者なんだい?オリビアが生んだのは確認したから俺達の子なのは間違いないと思うけど……なんか絶対1歳じゃないだろって思ってしまうんだ。ただ上手く丸め込まれただけってのも釈然としないんだよ!
「私達の可愛いタッくんが天才を超えたなにかなんだったら 私達はそれがなにかを知りたいわ!こんな気持ちのままじゃミリアムちゃんと仲良く出来ないかもしれないもの!」
父ちゃん母ちゃんがワクワク顔で俺を見てる。ほんとに楽しそうだ。
でもなぁ、そんな簡単に語ることじゃないんだよ?異世界転生した1歳です、なんて言ってほんとに信じられる?
ジェイコブさんとミリアム母ちゃんは聞いてくれたけどね。
「ジェイコブさんまだいる?」
「はい坊っちゃま、ここにおります」
「えーっと、ジェイコブさんから父ちゃん達に俺のこと伝えといてもらえる?上手く誤魔化してもいいからさ」
ジェイコブさんに小声でお願いしてみる。アンタなら出来るよきっと。
「畏まりました。それとなく話してみます」
「頼むよ、1日に2回同じ説明するの、シンドいわ。ははは……」
俺は前世の日本での生活で家族には恵まれなかった。親も親族も早くに死んじゃっていなくなったから。
だからこの新しい生活で得た家族は大切にしたい。
ルイス父ちゃんやオリビア母ちゃん、ミリアム母ちゃんにカタリナ、オスカーだけじゃない、ジェイコブさん達館の人達やグリフィス村のみんなにも楽しく生きていって欲しいと思ってる。
家族には恵まれなかったけど、梶山さんや谷川さんのようないい人達に出会えて育てて貰った。短い人生だったけど、いい人生だったと思ってる。
その恩を返すためにも俺は俺の出来ることならなんでもやってみようと思うよ。
今回の人生も豊かなものにするためにも異世界転生者としての自重なんかしないで思いっきりやってやるんだ。
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