第10話 俺、義理の母に会う
ジェイコブさんを伴ってミリアム母ちゃんの部屋に向かう。
「お母さんのことが心配で伺いました。お母さんに会わせて下さい」
「お嬢様は誰ともお会いになられません、お引き取り下さい」
部屋の前ではふたりの侍女が護衛とばかりな勢いでドアに張り付き徹底抗戦の構えを取ってる。
「いやいやいやあなた達さぁ、色々アウトだよ?義理とは言え息子が母に会いに来たんだから取り次ぎ位はしなさいよ。それにここは俺ん家だぜ?何でお引き取りしなきゃならないんだ?更に言えばミリアム母ちゃんはお嬢様じゃなく奥様だ!お前ら貴族舐めてんじゃね?」
軽〜く恫喝すると侍女達は青い顔をしてドアの前から身を離す。
「お見事です、坊っちゃま」
「ジェイコブさん家令でしょ?彼女達の上司はあなたなんだからね!?」
「私の不徳でございます、平にご容赦を」
「もー!狡い言い回しだな全く!俺まだ1歳なんですけど!?俺こそ平にご容赦させて欲しいよ!!」
ジェイコブさんがなんだか残念そうな顔で俺の方を見ながらコンコンコンとドアをノックした。な、なんだよ!そんな目で俺を見るなよ!!
ノックの返事はない。
俺はジェイコブさんに目配せする。
「ミリアム奥様、ジェイコブにございます。タクミ様が奥様にお目通りを求めておられます」
返事はない。まあ想定通りではある。
「奥様が室内にいらっしゃるのは確認が取れております。お取り次ぎを」
やはり返事なし。
俺はわざとらしく大きな声で呼び掛けた。
「ジェイコブさん、もしかするとミリアムお母さんは体調不良でお倒れになっているかもしれない。緊急事態だ、ドアを破壊し強行突入しろ」
「御意にございます」
俺の指示にジェイコブさんが構えを取る。あり?まさかこの人拳でドアを突き破るつもりなのかな?
すると慌てた様子でドアの鍵が外されドアが開けられる。中から青い顔をしながらも俺達を睨み付けた侍女が出てきた。
「お、お嬢様はお身体の具合がお悪うございます、誰ともお会いになられません!」
「それなら何故すぐそう返事をしなかったんだ?あなたの言葉に信憑性がない。ミリアムお母さんを監禁して危害を加えようとしている可能性があると判断されてもおかしくないよね?」
俺の叱責に俯く侍女さん。ちょっと可哀想になってきた。
「ミリアム奥様へお取り次ぎをしなさい。私達も奥様の元へ押し入る気はないのです。タクミ様はミリアム奥様の御心を満足させる提案をお持ちになってここへ来られました。これは奥様の為になる提案なのです、死ぬ気で取り次ぎなさい!」
「は、はい!!」
震える侍女さんを追い込むジェイコブさん。ははっ、酷い人だなぁ。
「坊っちゃま、私は私に出来る仕事をしただけですよ?」
「俺まだ何も言ってないぜ?」
「左様ですか、失礼致しました」
口の端を軽く持ち上げたジェイコブさん。悪い人だなぁ。
侍女さんは数分で戻って来た。
「タクミ様、お嬢様がお会いになられます。家令様は控えにてお待ちいただくよう申し付けられております。ご容赦下さい」
「了解した、あとミリアムお母さんのことは奥様と呼べよな。あなた達がそんなだからミリアムお母さんがいつまでもお子様思考になるんだぞ?主に最善を尽くせ」
「うっ……も、申し訳ございません……」
「うん、俺もちょっと言い過ぎたな。ミリアム母ちゃんのために頑張ってくれてるのは分かってるからよ、安心してくれ」
俺がちょっと砕けた態度を取ると侍女さんは驚いて目を見開いた。
うん、震えは止まったな。結構結構。
「流石坊っちゃま、女性の扱いが分かってらっしゃる」
「まだ1歳だけどな」
「それはそれは先が思いやられそうですな。では私はここで待機致しますので」
「ちぇっ、上手く逃げたよな。まあいいか」
ジェイコブさんと軽いやり取りをしてから奥にいるであろうミリアム母ちゃんの所に向かった。
ミリアム母ちゃんは窓際にあるテーブルに着いて大人しくしてた。
長い金髪は綺麗に梳られていてその白い肌には気品があり、緑色の瞳には強い意志が感じられる。流石上級貴族令嬢だな。
だがその目は充血していて、少しだけ腫れぼったくなっている。全く俺の方を見ようともしないがね。よっぽど嫌われてるんだな。
仕方ないか、彼女をここまで追い込んだ父ちゃん母ちゃんの息子だからな、俺。
「ミリアムお母さん、こちらに座ってもよろしいですか?」
「……私はあなたと話すことなどありません。それに私はあなたの母でもありません……」
そっぽを向いたままだが返答はしてくれた。
「私はあなたのことも母だと思ってますよ。それに、私にはお母さんに聞いていただきたい話があるのです、大切な話がね……あー話しにくいから口調は戻すよ、余り畏まって話しても伝わらねぇだろうし」
ミリアム母ちゃんは驚いたように俺の方を向く。よし、掴みは上手くいったな。
「……あなた本当に1歳になのですか?」
「一応そうだと確認は取れてるよ、自信はないけどな」
そう答えながら俺は彼女の対面になるよう席に着いた。
「とりあえずぶっちゃけて俺の考えを述べさせて貰うぜ。まず第一に今絶賛発動中の家庭内戦争についてだ。俺の結論は父ちゃんが悪いと思ってる。ミリアム母ちゃんもよくはないけどあなたの気持ちは分かるからな。ちゃんと勉強してない父ちゃんが悪い。第二に俺はうちを継ぐのはオスカーで良いと思ってる。ていうかオスカーじゃないとダメだ。ミリアム母ちゃんの実家にも迷惑掛けちまうしな」
「……あなたは私を謀っているの!?」
「そういう所が母ちゃんのダメな所だぞ?全ての思考を貴族に合わせてるから俺達から何を言われても自分が舐められてる気がしちまうんだ。確かにフォーサイスの爺ちゃんは凄い人なんだろうよ。権力を持ってるし父ちゃんによくしてくれてるしな。でもそれは爺ちゃんがであって母ちゃんがやってる訳じゃない。」
俺はそう言って母ちゃんを一瞥した。
「わ、私はフォーサイス家の人間なのです!」
「いいや、母ちゃんはグリフィス家の嫁だよ。それも後から入って来た新参者だ。そしてクソ弱いザコでしかない。うちの父ちゃんとオリビア母ちゃんの強さ知ってるだろ?」
「そ、それは……」
「あの人らヤバいもん。鬼強だもん。そりゃ国も野放しにはしないって。」
国が勇者に認定しそこそこの爵位を渡して領地に封じ、有力貴族が自分の娘を宛てがう程に強い平民。それが父ちゃんと母ちゃんなんだ。
ミリアム母ちゃんはそこをよく理解出来ていないんだと思う。大貴族の娘としてここへ嫁ぎ大貴族の家のため我慢してるだけ。
父ちゃん母ちゃんを低い立場だと決め付けて高貴に振舞っても最強種の平民上がりな父ちゃん達にはミリアム母ちゃんがただの我儘娘にしか見えないんだ。
「あの人達の心は平民のそれだ。あの人達に貴族の都合は関係ないんだ。」
「わ、私は貴族として生まれ育ったのですからそれが当たり前なのです!」
「だから理解されないんだよ。あの甘々な父ちゃん母ちゃんがここまで頑なになってるって大概だぞ?ミリアム母ちゃんは貴族である前に只の人間だ。父ちゃん達と別の種族じゃないんだぜ?どちらかと言えばあっちの方が生物的には上位なんだけどよ」
レベル50越えの人外だもん。
「まあ身体は人外かもしれないけど心は人間、それも平民寄りなんだからさ、そこを理解してやって欲しいよ」
「そ、そんなこと分かっています!あの方達が英雄であることは私が1番分かっているのです!」
ミリアム母ちゃんはキッと俺を睨み付けた。
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