第7話 俺、どうやら転生先はお貴族さま

 何とか俺の名前を『タクミ』にすることが出来た。大変でした。


 とは言えこれからは生後間もない赤子として違和感なく生活していかなくてはならないわけだよ。中身が30歳過ぎのオッサンなんてバレたらどうなっちまうか分からないからな。


 まああの父ちゃん母ちゃんならバレたところで邪険にはしないと思うがね。でも無為に心配かけたり不安にさせる必要もないから内緒の方針だ。




 俺が生まれてから数ヶ月が経ち、俺を取り巻く環境が少しずつ理解出来てきた。みんな俺が赤子だと思って色んなことを吹き込んでいくからな!


 まず俺のこと。名前は『タクミ=グリフィス』。今度の俺ん家はグリフィス家ってことになるな。


 ちなみにうちに出入りしている人達にはほぼ苗字がない。どうやら平民と呼ばれる人達はほぼ苗字がないようだ。


 ということは、うちは平民じゃないってことになる。


 そう、我がグリフィス家はお貴族様だったのだ!


 俺に過保護な父ちゃんのルイス=グリフィスは元冒険者と呼ばれる人だったらしく、以前村を襲った魔物の大群を追い払って救った経緯で国から【勇者】の称号を与えられ貴族に叙されたらしい。


 まあ勇者と言ってもステータスの称号が勇者になったわけではなく、国が認めたご当地勇者ってことらしいがね。


 父ちゃん以上に過保護な母ちゃんはオリビア=グリフィス。どうやらこの人も元冒険者のようだ。父ちゃんと共に魔物から襲われた村を救い英雄と呼ばれているようだな。


 父ちゃんは魔法を使える剣士、母ちゃんはなんと武闘家だそうな。あのゆるーい外見から全く想像が付かないけど。


 で、父ちゃんが戴いた貴族の称号が【子爵】だそうな。貴族としては下級上位って所だけど、ぽっと出の冒険者が与えられる爵位としては破格なものらしい。飛び級で子爵に叙爵されると同時に自らが救ったこの『グリフィス村』の領主として封じられたそうだ。


 ちなみにパーティメンバーだった他の冒険者仲間達も爵位を与えられたり要職に着いたりと随分出世しているみたいだ。


 グリフィス村は人口100名いるかいないか程度の村だ。村としてはまあまあ大きい。元々は人口30名程度の寒村だったが、父ちゃん母ちゃん達の戦いに魅せられた村人達ががんばって村に尽力してくれているお陰かここ数年で急成長している。


 ただ、村の急成長による弊害として食糧に不安があったり、以前から住む住民と新たに移り住んできた者達との間の軋轢があったりと色んな問題が発生しているそうだ。


「タクミ~!ごきげんよう、タクミ!!」


 俺がいつも寝かされている子供部屋のドアが勢いよく開き、青い髪の女の子が走り込んで来て俺を抱き上げた。


 彼女はカタリナ=グリフィス、5歳年上の俺の姉だ。


 彼女は父ちゃんと母ちゃんがまだ冒険者だった時に授かった子で、村を救った後に懐妊が発覚したため当時貴族になる気がなかった父ちゃんは母ちゃんとお腹の子のためを思って叙爵して領地を受け取ったようだ。


「タクミ~、はぁ、今日も可愛いなぁ。お姉ちゃんがお散歩に連れてってあげますからねぇ」


 この姉、両親にも増して俺に対し過保護な気がする。俺が生まれた翌日からちょろちょろと部屋に出入りしては寝ている俺を撫でてみたりはだけたシーツを直してみたり、しまいにはおしめの具合を確認したりとまあ世話を焼く。


 いいお姉さんだな、俺が元30代じゃなければだが。


 すまない姉よ、俺からしたら貴女はただの幼女でしかないんよ。


 まあ世話を焼いてくれているお陰で実は時間帯を選んではこっそりと隣の部屋にある使用人用の化粧室に行っては用足しをしていることが誰にもバレてない。


 母ちゃんや使用人の皆さんは俺の排泄物処理をカタリナがやってしまっていると思ってるようだ。


 普通考えて5歳に赤子の下の処理は無理だと思うんだが。


 でも30越えの良い大人が寝たまま垂れ流すのは精神衛生的に良くないんだよなぁ。どんなプレイだよ辛すぎるぜ!俺にはそんな趣味ないんでカタリナの存在はありがたい。


 移動を繰り返してたらばっちり首は坐ったよ。て言うかもう普通に歩けるし。


「お嬢様、タクミ様は今からお食事の時間です。終わりましたらお呼び致しますのでお部屋でお待ち下さいませ。」


「えー?嫌ですぅ……あっそうだわ!私がタクミにおっぱいをあげたらいいのよ!それならタクミと一緒にいられるでしょう?」


 すげぇなカタリナ。親よりぶっ飛んでるのは間違いない。


「お嬢様、それでは乳母である私達の仕事が無くなってお暇を出されてしまいます。どうかご勘弁を。」


「えっそうなんですか?知らなかったわごめんなさい……」


 いやいや乳母さんよ、5歳は乳が出ねえからってちゃんと教えてあげてね!!


 でも詳しい情報は教えなくてよろしいです。




 以上が俺の血の繋がった家族だ。


 おかしな言い方になってるだろ?まるで他にも家族がいるような口ぶりだからな。


 そう、実はグリフィス家には他にも家族がいるんだよこれが。


 ここからは薄らと聞こえてくる情報に俺が持つ異世界の知識を加えた考察になることを断っとくぜ。


 とりあえず貴族ってのが特権階級なのはご存知だろう。


 貴族は王に仕え忠誠を示している訳ではなく、祖国に対して忠誠を誓うものなんだ。民を養い領地を栄えさせ自らの血脈を後世に残そうとする。


 ちなみに王に忠誠を誓うのは騎士と呼ばれる王家の兵士達だ。肩に剣を置かれてポンポンやるあれだな。


 貴族から見た王は、自分達がこの国の貴族であることを保証してくれる主権者なので敬愛し擁護し奉る。だが家の存亡を簡単には賭けられない。


 そんな王からもし理不尽な命令があれば貴族はそれを跳ね除け家や領地を守る為王に刃を向けることも辞さない。


 そのため貴族は手っ取り早く力を付ける方法として貴族同士協力し派閥を組むんだが、グリフィス家のような新興貴族は近くにいる力の強い貴族の派閥へ加わることが多い。


 グリフィス家は古くからこの地方にある大きな門閥貴族『フォーサイス侯爵家』の寄子となったんだ。


 平民から勇者となり子爵に叙された父ちゃんは周囲の貴族達から見れば好奇の的だからね。フォーサイス家の方から打診されて受け入れたようだ。これによってグリフィス村は余所の勢力からちょっかいを掛けられにくくなったってわけ。


 フォーサイス家も今をときめく勇者グリフィスの寄親となることで中央勢力に対し大きな顔が出来てホクホクなんだ。


 ただグリフィス家が大きくなり強くなった際、もしかするとフォーサイスから離れて行くかも知れない可能性はあるんだよな。それを気にしたフォーサイス家はグリフィス家に対しひとつ手を打ったんだ。


 自分の血縁の娘を父ちゃんの嫁にする、それによって血縁で強い関係を築こうとしたんだよ。


 父ちゃんに断る選択肢はなかった。貴族なら奥さんを数名娶るなんて当たり前だろうし、母ちゃんは元平民の冒険者だから高名な貴族の子女が妻に収まればグリフィス家としても箔が付く。何よりフォーサイスの当主が出した指示には逆らえない。


 そして、フォーサイス当主の娘であるミリアムさんが父ちゃんに嫁ぎ、『ミリアム=フォーサイス=グリフィス』となった。


 そして、ミリアム母ちゃんが生んだ4歳になる息子の『オスカー』。俺の異母兄貴になるな。




 以上が俺の家族のようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る