第2話 俺、駄女神に逢う
「な、なんだここ!?」
さっきまで鉄塔の上、それもタラップを昇った足場の悪い頂点部分だったよな!
でも今俺がいるのは床も周囲も白くてだだっ広い部屋だ。霞が掛かってるみたいで視認性は悪いが広い部屋なのは雰囲気で分かる。
カシャン!
足下に音を立てて落ちたのは俺が着装しているハーネスから伸びた2本の安全フック。
「なっ!!」
なぜ墜落防止用安全フックが外れているんだ!?
思わず床に這いつくばった。高所で安全フック掛けずポジショニング不明!ヤバい!!明らかに墜落のリスクが高い!!
「はっ!はっ!はっ!……と、とりあえず墜落はしてねぇな」
『何を言ってるのですか?』
不意に前方から声がした。この声は女か?クソっ、こっちにも白く霞が掛かってるみたいでよく見えん!
「だ、誰だ?」
『私は女神アストラギウス、貴方はタクミさん…でしたか?貴方は82歳でお亡くなりになりましたがその誠実な人柄に免じて私の世界で新たなる生を受けることができます。転生してもう一度人生を楽しみませんか?』
目を凝らすと不意にビガビガとケバく輝くひとりの女性が視界に飛び込んで来た!目が、目がー!
アスト……なんだったか?女神?転生?は?なんだそりゃ怪しさ満点だ。特にそのケバさはヤバい!
それにな、俺はまだ30代だよ82歳じゃねえし死んだ覚えもねぇ!
俺の脳裏にこんなヤツを形容する名前が浮かぶ。
「あーアンタきっとあれだな、駄女神ってヤツだな?」
『駄女神って言うなし!なんでこの世界の人はアタシのことを駄女神って言うのよ!?なんで分かるのさ!?』
やっぱり駄女神だった。
「自分で認めてちゃ世話がないぜ。あのな、俺の姿が82歳に見えるか?どー見ても若もんだろうが!後まだ死んでねえから!」
俺は立ち上がって駄女神に指を差してがなりたてた。俺は若もんだ!30代はまだ若もんなんだよ!
『貴方ね、神に指を差すなし!いやまあ死んだ魂は案外自分が死んだことに気付かないものなのよ。それに貴方がハーフエルフならその容姿でも80歳超えてると思うからセーフね』
「アウトだバカヤロウ」
アンタの世界にはそのハーフだっけ?そんなよく分からないのがいるんだろうけどさ、最低でも俺の住んでいた日本ではそんな変な名前の人なんか知らないぞ?
だいたい死んだことねえっていうか、今生きてんだろうがよ!
『あり?死んでないの?なんで?』
「俺が聞きたいわ!説明しろ!いや説明いいわ、はよ元の所に戻せよ!」
俺が突然いなくなったら梶山さんと谷川さんビックリするだろ?
『いやいや死んでるでしょ?死んでるって言ってよ!おねがーい!』
駄女神は急にしなを作って俺にくっついてきた。な、なんだよ俺はこんなケバい光を放つ女の子より優しく微笑む控え目でショートカットが似合う子が好きなんだよ。
……おおう、駄女神のクセにわりとぼいんちゃんだな……違う違う!!
つーか、物理的に眩しいわ!
俺は思わず3歩後ろに下がった。
危ねぇ、駄女神のボディに反応するところだったぜ!
イケてるはずの俺が独身の童貞なのは理想が高いくせに女性を見たらすぐ鼻の下が伸びるからだって梶山さんが言ってたのを思い出した。
そんな梶山さんは飲み屋のおねーちゃんにすぐタッチしてしまう系のおじさんだが4人の子供を持つ既婚者。ちなみに奥様は俺より歳下のカワイイ系だ。
梶山さん、どうやったらそんな真似が出来るんだ?アンタ神か!?
『なに?ちょっと!思ったより反応がウブなんですけど〜かーわーいーいー』
「な、なんだこの場末のホステスがたまに来た若い客をイジる感じは!?」
『失礼ね!?アタシゃ神様だよ!!』
ちょっとでもドキッとしてしまった自分を恥じよう。
「まあどっちでもいいさ、俺を元いた所に戻してくれ。カミサマなんだろ?やれよ」
『貴方の態度は神様にしていい態度じゃあないわね!?』
「対応間違えた時点でアンタ神とはいえないんじゃないか?俺の知る神とは絶対に間違いを犯さない完璧な存在だったはずだからな。神じゃないアンタはただの駄女だ」
『ムキー!言い返せない!悔しー!!』
駄女神がすっごい地団駄を踏んでいる。両足を交互に踏み付けながら怒る人初めて見たよ。ていうか地団駄ってほんとに踏むやついたんだな。
「アンタが俺を元いた場所に送り返しさえすれば今起こったことはなかったことになるじゃねえか。まあ俺が82歳で死ぬことは自主的に忘れてやるからさ」
『あ、貴方……天才ね!』
「お前が馬鹿なんだよ!!」
『あーバカって言った人がバカなんですーー!』
「アンタもバカって言ってるし」
『あーまた言った!バカって言った人をバカって言った人にバカって言った人がバカなんですー!』
「あーあー俺が悪かった!すまんすまん!」
め、めんどくさ過ぎる!!
『ま、まあいいわ、私も神として間違いを犯す訳にはいきません。それでは貴方を元いた場所に戻します。死んだらまた来てね』
「な、なんと言う失礼な台詞だよ!?ある意味神だな!」
腹は立つけど元の場所に戻してもらえるらしいからまあガマンガマン。
俺の周囲から光の粒が現れ辺りを包んでいく。なるほど、最初ここへ来た時の周囲に立ち込めていた霞はこれだったんだな。
『あ、貴方ここへ来て取った行動はそっちの世界にも共通してるから気を付けてね。それじゃまた逢いましょ』
駄女神がニッコリと微笑むのが見えた気がした。ケバいな。
……こ、これは!!?
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『俺は鉄塔のタラップにしっかり掴まりハーネスのフックも二丁掛けで安全に対して充分な対策を取りながら鉄塔を降りていたら、いつのまにかタラップから2メートル程度離れた空中にいた』
な…何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのか分からなかった……いや、何をされたのかは何となく分かったが。
頭がどうにかなりそうだった…夢想だとか白昼夢だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。まるで時が止まったようだった。
「た、タク……?」
「え!?な、なんで!?」
梶山さんと谷川さんがもの凄い驚愕の表情でこっちを見てる。
多分、俺も同じ顔をしているんだろうな。
なぜ俺がタラップから離れているのか、なぜハーネスのフックが外れているのか。
あの駄女神の台詞が頭の中にリフレインしている。
『貴方ここへ来て取った行動はそっちの世界にも共通してるから気を付けてね』
俺があの馬鹿に引き込まれた場所に鉄塔はなかった。だから俺と共にあの白いフロアに引き込まれたハーネスのフックは掛かっていた対象物がなくなったため床に落ちたんだ。
そう、フックは床に落ちるという行動を取ってしまった。
そして、俺はあの馬鹿が身体をくっ付けてきたことに反応して後ろへ3歩下がってしまった。元いた場所から離れるという行動を取ってしまったんだ。
そしてそのまま俺は元の場所へ戻された。当然移動先はフックが落ちた分掛けていたハンガーから下がってしまってるし、俺がいる場所は掴んでいたタラップより3歩後ろってことになる。あの白いフロアで取った行動分移動してしまっていたから。
アイツは間違いなく駄女神だな。もっとも恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…馬鹿の恐ろしさをな!
俺はそのまま上空100メートルから自由落下を始めるのだった。
『あれ?タクミさんいらっしゃい。早かったわねぇ』
「オメーのせいだこのクソ駄女神!」
『く、く……駄女神は許せてもその排泄物扱いは許せないわ!なんてこと言うのさ!キー!』
「『キー』じゃねえよ!どうしてくれるんだよ!お前のせいで俺死んじまったじゃねえか!」
『あれ?貴方ホントに死んじゃったんだ。それならこれで目的が完遂出来るわね。貴方は82歳よりかなり早くお亡くなりになりましたがその誠実な人柄に免じて私の世界で新たなる生を受けることができます。転生してもう一度人生を楽しみませんか?』
「こんの……人殺しのクソ馬鹿駄女神が!!」
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