第11話 過酷な舞台、開催決定!
最近、テレビやラジオ、雑誌などによく登場するようになり、話すネタが増えたことは増えたが、1部につき20ループもするとなると流石に話すネタがなくなってしまう。
いつも用意していた話ができないまま終わってしまうので、そんなに気負わなくても大丈夫だとは思うが、やはりなにも考えないで参加するのは不安なので何か良いネタはないかと思い、推しのブログを読み返してみることにしてみた。
ブログにはコメントを入れることもできるので、ブログがアップされるとすぐに目を通し、コメントを入れるようにしている。
けっこうコメントを見てくれていて、握手会の時にコメント入れてくれたよね?と言われる事がある。
基本、良いことを書いた時はスルーで、変なことを書いた時は見つかってしまい、握手会の時にキツめのツッコミを受けることになるのだが。
ブログの更新頻度が少ないとイジられるメンバーが多いなか、推しはブログをこまめに更新してくれている。
こまめに更新してくれてはいるが、内容はそれほど濃いものではないので、ネタになるようなものが今更見つけられるとは思えなかった。
どのブログを読んでみても文章からは最近の若い女性感はなく、お堅いだの、ポエムっぽいだのとよく言われているのも納得できる。
もうちょっと若い女性っぽい、話し言葉で書けばいいのに。お堅い字面が続いているのでなんだか笑えてきた。
だからツンツンしているだの、きっちりしている感じがして、とっつきにくそうとか言われるんだよ。
僕からしてみると、お堅いのはただのクソ真面目だから、ポエムっぽいのは夢見る乙女だからなのだと分かるんだけどね。
ブログがアップされると必ず目を通しているので、何か新しい発見があるとは思えないが、過去に遡って見返していると一つの記事に目が止まった。
「うーん、これでも読んでみるかなー」
そこには最近読んでみて面白いと思った漫画が書いてあった。本当に面白いのかなー?と気には止めていたが忘れてしまっていた。
書籍の購入サイトを開いてみると、電子書籍があるようだ。電子書籍なら電車の中でも、ちょっとした待ち時間にも読めるではないかと思い、早速購入してみることに。
購入を済ませると、お湯を沸かしコーヒーを淹れ、手元に置き早速読み始めることに。
内容はけっこうハードな作品だった。ストーリーは面白いのでサクサク読み進めていく事ができるのだが、描写がけっこうキツかった。
血が吹き上がるシーンや惨殺されるところ、人が食べられてしまうようなところまで描かれている。
あまり女性が好むような描写ではないと思うが、推しはストーリーが良ければキツい描写があっても気にしないタイプなのかもしれない。
こういう系統も大丈夫なのか。なら心霊系とか怖い話とかも大丈夫なのだろうか?女性はそういう話とかは苦手だと思っていたので、しないようにしていたのだが、今度してやろうかな。
そして迎えた握手会、今日の推しはゆるふわミディアムで、カラーも入れたようで明るめのブラウンになっていた。
おしゃれなレースで装飾されている白のブラウスと薄い緑のシースルーのロングスカート姿だった。
もう妖精じゃん。今日も表現できる言葉が見つからないくらいの可愛さだった。
「おはよう。ヘアカラー変えたのー?可愛いね」
「そうでしょう」
僕の言葉を受け笑みを浮かべると、左手で自分の毛先を触りだす。なんだ?今日はずいぶん機嫌がいいな。僕の言葉に素直に喜んできたぞ。
「ゆるふわ感が素敵です」
「そうでしょ、似合うで、しょー」
あらら、何だ、何だ、今日はメッチャ機嫌がいいな。ヘアカラーとヘアスタイルが思い通りになったので機嫌がいいのかな?
「そのグリーンは僕のことイメージしてくれたの?」
「ち、が、い、ま、すぅー」
いつものような棘のある言い方ではなく、優しくそう言ってきた。いつもならメンチを切りながら睨みつけてくるようにしてきてるのに、今日は優しく微笑みながら言ってきた。
本当に今日は可笑しいくらいに機嫌がいい。
機嫌の良い可愛い推しが見れるのはいいのだが、少し物足りない感じもする。一旦レーンを出て今日のプランを練り直そうとしたら、他のファンの方の会話が聞こえてきた。
今度の舞台公演、応援に行くので頑張ってくださいって言ったらさー、手を強く握ってくれて、テンション高めに満面の笑みを浮かべて、絶対応援してねーって言われたんだよー。との声が聞こえてきた。
あー、なるほど!それで機嫌が良さそうに見えたのか。次の舞台公演、応援に来て欲しくて、今日は釣りに勤しんでるのか。
つい先日、去年メンバーから大不評だった舞台公演が、今年も開催すると発表があった。大不評だったのでもう二度とやることはないのだろうと思っていたなかの、想定外の発表だった。
あまり触れないほうがいいのかなと思っていたのだが、推しが多くの人に応援してもらいたいとファンを増やそうと頑張っているのなら、触れないわけにはいかないのかもしれない。
もしかしたら舞台に上がる前から戦いは始まっているのかもしれない。
「今度の舞台公演、一番に応援してるから頑張ってね」
そう言うと驚いた表情を見せた後に、唇を噛み締め、はにかんだ笑顔となった。
国宝級の可愛さだ。
ところでと言って話を急転換させあの漫画の話を振ってみると、予想以上の高めのテンションで捲し立てられた。
あのキャラクターのデザインが好きだの、あのシーンで心が打たれてしまったのだの、止まらない止まらない。
「けっこうグロい話だよね。ああいう系統が好きなの?実話系の怖い話とかも好きなの?」
「いやー、実話系は、無理かなぁー」
「これは、僕がまだ小学生だった時のお話です」
「ちょ、何、何、何しようとしてんの!」
ちょっと暗めのトーンで怪談話でよく聞くような話をし始めると、推しは慌てて話を遮るようにして止めてきた。
「えっ!実話怪談好きだって言ったからしてみようかと」
「はぁーっ!そんな、こと、言ってま、せんーっ!」
あっ!なんかいつもの推しに戻った。
「取り敢えずー、最初の応募で7公演のチケットゲットしたから、取れるだけ取って応援に行くから頑張ってね」
「7公演も取ったのー?凄い凄い、やるじゃん」
「これは、7日法要が終わり、急に雨が降り出した日に起こった出来事です」
「???だっかっらぁー、何言ってんのっ!」
「えっ!怪談話してたんじゃなかったっけ?」
再び怪談話でよく聞くような話し方で話し始めると、推しは僕の口を塞ぐように手を突き出してきた。
「されたくないなら、何か面白い話してください」
何だその無茶振りはと思ったのだろう。呆れたような表情を浮かべると視線を上に向け、何かないかと考え出す。
「急に上の方から強い視線を感じたので、絶対に見ちゃいけない、絶対に、、」
「コラーっ!寝れなくなったらどうするんだーっ!」
言い終わる前に遮られ、叩いてくるようなポーズをされてしまったので、僕は逃げるようにパーテーションの外へ走った。
すぐにループし推しの前に向かう。
「僕の話よりあの漫画の方が怖くて寝れなくなるじゃん」
「そうかもだけどー」
困っている推しの姿は本当に可愛かった。もっと怖がらせてやりたかったが、あまり虐めても可哀想なのでもう止めておくことにした。実話系は苦手ということで。
「それで?舞台は来てくれるの?」
「行きますよ。ちゃんと7公演」
「そこはホントだったんだ!」
「舞台、大変だと思いますけど、応援に行きますので気負わずに頑張ってください」
本日の握手会はこれで終了、次は舞台が終わった後だな。過酷な舞台だから病まないといいんだけど。
とりあえず今日の推しは、妖精のように可愛かった。
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