第9話 大ピンチ!信用を失った?

 今日は何とビックリ、推しがバラエティ番組に出演するのだ。しかも僕が好きでよく見ているバラエティ番組にだ。


 なんという大出世だ。凄い、凄すぎる。


 一瞬たりとも見逃さず、録画して繰り返し何度も見て次の握手会でネタにして、いじり倒してやろうと思っている。


 そのバラエティ番組は、謂れのないことでイチャモンを付けられて、無茶振りに挑戦させられてしまうという内容だ。

 しかも、無茶振りが出来ないと罰ゲームをさせられるという、深夜番組ではよくあるような過酷な内容の番組だった。


 人気のある芸人さんや知名度の高いアイドルグループなどが出演し、無茶振りに挑戦させられ罰ゲームの餌食になっている姿をよく見る。


 僕の大好きなタイプの番組で、毎回欠かさずに見ている。


 その番組に出演させてもらえるなんて大感動だ。しかも出演するメンバーは7人。その中に推しが選ばれているなんて更に大感動だ。


 番組が始まると推しが先頭で飛び出てきた。出演するメンバーが続けて飛び出てくる。自分たちの曲が流れだし、サビの部分のダンスをし始めた。


 紹介を兼ねてということなのだろうか、一部分を踊らせてもらえるなんて高待遇じゃん。


 ダンスを終えると整列し始める。


 えーーっ!!推しが前列に並ばせてもらってるじゃん!!


「マジか〜、メッチャ映るやん」


 人気上位のメンバーを差し置いての前列である。


 まあ序列が上がったからではなく、ただ単純に小柄だから先頭で登場させられ、前に並ばされているのだろう。カメラ映り的にこの位置になっただけだとは思うが、推しの姿に大感動だ。


「うっわぁー、何この番組!神番組じゃん!」


 今日の推しは前髪をサイドに流し、後ろ髪はよく見えないがハーフアップにしているのだろうか。まだロングヘアなので髪を切る前に収録したものなのだろう。


 目鼻立ちがはっきりしているので人気メンバーと並んでも遜色ないし、むしろ1番の美人さんだと思う。


 今日も超絶級の可愛さだ。


「可愛いなぁ〜、頑張れよ〜」


 まあ収録番組なので、今応援しても仕方がないのだが、ついつい気持ちが溢れてしまう。


 番組が始まると一際大きな声を出し、大きなリアクションをしている。元々物怖じしない性格なのでバラエティ番組には合っているのかもしれない。


 企画が始まるとメンバーが次々と無茶振りに挑戦させられていく。無茶振りの内容はとても女性がこなせるような内容ではないので、メンバー達は次々と罰ゲームの餌食になっていく。


 追い詰めて罰ゲームをさせるという、いつもと変わりない内容となっていた。可哀想に罰ゲームをするために番組に出演させられている感じじゃん。


 アイドルにやらせる内容じゃないだろとは思うが、もっと知名度の高いアイドルも頑張ってやっているのだから、やらない訳にはいかないのだろう。ファンとしては応援するのみだ。


 番組が進行していくと罰ゲームが出来ずに泣いてしまう娘がでてしまった。泣いていて罰ゲームが出来そうにないので、別のメンバーが代理で行うことが提案される。


「そこで、前に出ろよっ!」


 あー、もー、前に出る絶好のチャンスを逃したし。


 結局推しには無茶振りの順番は回って来ずに終了となるところだったのだが、推しが動いた。


「私だったら今までの全部できた」


 との一言が。


 おーっ!ブッ込んできたよ。頑張れ〜。


 終了してしまう流れだったので、自分には無茶振りは来ないだろうという算段で言ったのだろうが、じゃあやってもらおうかとの流れになった。


 大丈夫かー?と思っていると。今までの流れで1番過酷な無茶振りに挑戦するハメになる。


 当然できることなく、総ツッコミを受けるハメとなっていた。


「頑張った、頑張った。ナイスファイトだ」


 思わずテレビに向かって拍手してしまう。凄い、凄い。流石は僕の推しだ。あのまま終わっていても番組は成立していたのだろうが、ブッ込みを入れたところが僕の推しっぽい。


 ますます惚れ込んでしまう結果となった。


 企画自体はやはり人気メンバー優先って感じだったけど、最後本当に頑張ったと思う。十分爪痕は残せたと思う。


 いやー、よかった。神番組だったな。次の握手会はこの話で盛り上がろう。



 後日、握手会会場へ向かいながら頭の中で、どうやって良かったということを伝えたらいいのだろうかと思案していた。


 今日は緊張はなく、むしろ早く伝えたくて心が弾んでいた。


 レーンを進んでいき、推しの前へと進んでテンション高めに言った。


「番組見ましたー。滅茶苦茶、頑張ってましたねー」


 てっきり、大変だったよーとかそういう反応が返ってくるかと思っていたのだが違った。推しは僕の言葉を受け、目を細めこちらの顔を覗き込むようにしてくる。


 えっ!何??


「がんばれて、ないわーっ!」


 握手していた手を払い除けられ、そう言われてしまった。えーっ!?なんでー???


 何?今の対応?何かした?何か変なこと言った???何もしてないよね?


 本日最初の握手はいつも通り外見を褒めるべきだったのだろうか?


 想定外の塩対応を受け、僕の頭は大混乱。


 今日の推しは前髪をアップにし、エレガントなイメージを受けるブラックコーデをしているようだった。

 外見を褒めずにスルーして番組がどうのこうのと言ってしまったので、ご機嫌斜めになってしまったのだろうか?


 気を取り直し再び推しのレーンへ進む。


「前髪アップ似合ってますね。爽やかな印象でいいです」


 再び目を細められ覗き込むようにされる。


「どーせ、私は、清楚系では、ないですからーっ」


 ヤバっ!覚えてたの?それで怒っているのか?


 そっちがそう来るならこっちだって負けませんよ。不機嫌な態度をとってくるならこっちにだって考えがある。


 褒めようと思ったらいくらでも褒め言葉なんて見つけられるんですから。笑顔を見せてくれるまで褒めちぎりますからね。


 単推し舐めるなよ。


「ブラックコーデ素敵ですね。ドット柄のスカートがサイっコーに似合ってます」


「ちょ、何、何、怖い、怖い、何企んでんの?」


 企むってなに!?素直な気持ちをぶつけてるだけなんですけど。まぁー、いつも怒らせにいっている僕が悪いんだろうけど。


「今日のアイメイク素敵ですねー。目がより一層輝いてます」


「だ、からー、怖いんですけど、何?」


「だからー、考えすぎだって、褒めてるだけじゃん」


「ぜーったい、違うーっ」


 前回の件もあるので、すっかり信用を失っているようだ。視線を仕切りに動かし僕の一挙手一投足を見極めようとしてくる。


「笑顔も素敵だしー」


 言い終わる前に遮られてしまった。


「何?何?何かした?ゴメン、謝るから何?」


 完全勝利です。


 ただ本当に素直な気持ちで褒めているだけだというのに、僕の態度がいつもと真逆なので不気味に思ったのだろう。音を上げそう聞いてきた。


 詳しく話を聞くと、どうやら僕の勘違いだったようだ。前回の件を根に持っていた訳でも、番組出演の事を言われたのが嫌だった訳でもないとのことだった。


 僕が来る前にバラエティ番組に出演した際の事を色々と言われていたらしく、僕は素直に褒めただけだったのだが、嫌味でそう言ってきたと思ってしまったらしい。


 何で罰ゲーム代わりにやらないんだよとか、あれくらいの無茶振りやれるだろとか色々言われていたらしい。


 まあ皆さん、応援する意味合いを込めての言葉なのだろうが、数秒間で思いの全てを伝えるのはやはり難しいのだろう。


「それってダメ出しじゃなくて、皆さん大好きだから、もう少し前に出て目立って欲しい、という意味で言ってるんだと思いますけど?」


 何で僕が他の方のフォローしなきゃいけないんだよ。と思ったが、でもまあいいか、僕の言葉を受け推しは笑顔になってくれたようなので。


 お互いに注意しなきゃいけないことだなと思った。はっきりと誤解を招かないような言葉で話さないといけないなと再認識させられた。


 うーん、やはり握手会は難しい。


「じゃあ、ついでなので、褒め褒め選手権をしたいと思います」


 推しを褒めたいという気持ちに火がついてしまったので、話そうと思っていた内容を変更することにする。


 一番最後に僕の褒め方はどれくらい良かったか評価してください。と伝え選手権を始めた。


 細くてしなやかなスタイルをしている。

 ファンの人に気遣いができる優しい方。


 伝えるたびに笑顔になってくれる。その笑顔がありえないくらいの可愛さだ。なのでますます笑顔にさせたくなり、褒め言葉が次々浮かび上がってくる。


 言葉遣いがきちんとしていて上品さが漂っている。

 アイドルとしての取り組み方が尊敬できる。などなど思いつく限りの褒め言葉を伝える。


 そして本日最後の握手へ。


「今日の出来はどうでしたかー?」


「3点くらいかな」


 3点!?


「何点満点中の3点?」


「100点満点中の3点」


 えーっ!酷い!あれだけ褒めたのにー!冷たすぎませんか?ていうか今日これで終わり?


 誤解を招かないような話し方をしないと、ダメだったんじゃないのかーーい!


 相変わらず僕の推しは手厳しい。


 まあ冷たい対応されてもまた来るんだけどね。今日も推しとの時間は本当に幸せでした。


「今日も可愛かったな〜」


 バラエティ番組の件は次の機会にしよう。

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