第6話 握手会の為だけに京都へ
その日僕はスマホ画面と睨めっこをしていた。せっかく認知してもらったんだ、忘れられないためにも次の握手会、京都会場にも行くべきだと思い思案していた。
調べてみると土曜の朝、7時ごろ出発すれば間に合いそうだし、日曜の夜も24時前には帰宅できそうだった。
土曜の全国握手会は16、17時ごろには終われると思われるので、1箇所くらいはどこかに観光に行けそうだ。次の日曜も推しの握手会開始時間は14時半からなので1、2箇所どこかに観光に行ってから参加できそうだった。
だが、なにぶんオジさんなので月曜日の朝に疲れが残らないか心配になる。ただそれほど常識から逸脱したレベルの時間設定でもないので、若ければ全然問題なくできることだろう。
これも経験だ。やってみないことには何とも言えないので、新幹線の予約を済ませてしまう。
次はホテルだ。
仕事の出張の際に、いつも利用している全国チェーンのビジネスホテルがある。そこは1泊すると1ポイント貰え、10ポイント貯まると1泊の無料券がもらえる。
仕事で行く用事以外でビジネスホテルは利用しないと思うので、無料券がもらえても使いようがないじゃんと思っていたのだが、これを利用すれば宿泊代を浮かせられるではないか。
ポイントは100ポイント以上貯まっている。10泊以上タダで泊まれる計算だ。出張を頑張っていた甲斐があった。
僕ばかり出張多くないですか?と会社に文句を言っていたが、思わぬ収穫だと思った。次からは文句を言わず出張も頑張ろう。
全国チェーンのビジネスホテルなので当然京都にもあるだろうと思い、予約サイトに飛んでみると、何箇所かあるにはあったがシングルは全て満室となっていた。
ただどこも駅から遠く便利とは思えない立地だったので、キャンセル待ちをしていてもしかたないかなと思い、普通のホテルを予約をした方がいいかと思っていたら、滋賀のホテルは空いているようだった。
しかも電車で京都駅まで10分、琵琶湖にも歩いていけそうな距離にある。ここめっちゃいいじゃん。と思い早速ポチり予約を済ませ、あとは観光できそうな場所検索へ。
会場から近そうな場所を何個か見繕い、いざ京都へ。
会場に到着するとそれほど疲れは溜まっている感じはしなかった。むしろ足取りは軽かった。
特に体のだるさは感じることはなくミニライブを観戦し終え、何だ俺もまだまだ若いじゃんと思っていると、メンバーから驚きの発表があった。
今日の全国握手会のペアはくじ引きで決めるのだとか。
会場から『おーっ』と歓声が上がり、皆さん自分の推しが誰とペアになるのだろうとざわつき出す。
たまにはこういうサプライズも面白みがあって良いなと思うが、大丈夫なのだろ
うか。
人気のあるメンバーと下位のメンバーをペアにさせるのが通例だ。その方がファンの方が分散され、均等に分かれやすくなるので色々と利点が出てくる。
それをクジで決めるなんて、人気上位のメンバー同士がペアになってしまったら、ファンの方が殺到してしまうだろうに大丈夫なのだろうか。
そんな僕の心配を他所に次々と組み合わせが決まっていき、皆さん歓声を上げていく、すると一際大きな歓声が上がった。
なんと人気上位3番手と言われているメンバーと、4番手と言われているメンバーがペアになったのだ。
会場は拍手喝采に包まれた。ビックレーンの誕生である。喜んでいるファンの方々を他所に、スタッフの方はのけぞって困った顔をしていた。
きっと、『これは大変なことになったぞ』と思っていたのだろう。収集がつかなくなったらどうするのだろうか。
自分の推しも注目を集めるレーンとなった。推しは今、グループ内で中の上くらいの人気だろう。同じく中の上ほどの人気メンバーとペアになったのだ。
その娘はグループ内で一番穏やかな性格をしていて、一番性格が良いのではないかとの声が多く上がっている。
ここ最近人気が急上昇していて、しかも推しと同郷ということもあり、同郷ペアだなと声が多く上がっていた。
あらー、これは推しのレーン、混んでしまうかもしれない。握手会後の京都観光は諦めた方がいいかもしれないな。
握手会が始まると想像通り推しのレーンに大勢の人が集まってきていた。
ただそれ以上に人が集まっていたのは、先ほどのビックレーンである。列の長さは会場内では収まり切ることはなく会場外へも伸びていっていた。
まあ確かに握手券1枚で人気上位3、4位のメンバーと握手できるわけなのだから当然だろう。これほどお得感のあるレーンは後にも先にもないだろう。
そんなサプライズがあったお陰か、今日は会場内が活気で溢れていて、見ているだけでも楽しい気分になってきた。
気付くと推しのレーンはだいぶ人が減りはじめてきていた。
推しのレーンも人気上位のメンバー同士のペアなので開始直後は混み合っていたのだが、おそらく3、4のペアレーンの行列を見て、早く並ばないと更に増えてしまいそうと思った人たちが、そちらを優先して並ぼうと思ってそちらに移動したのだろう。
ということで並びやすくなったので、推しのレーンを先へと進んで行く。仕切りのパーテーションの中に入った瞬間、テンション高めに『あっ!こいつミドリムシだから、まともに相手しなくていいよ』とペアの娘に告げ口をしだした。
何それ!どーいうことー?
ペアの娘に〇〇推しなのでお邪魔しにきましたと挨拶してから推しの前へ。先ほどの件について一言言いたい気持ちはあったが、取り敢えずその日の最初の握手は推しを褒めることにした。
今日の髪型はサイドに編み込みを入れているようだった。メチャクチャに可愛い。なので『その髪型可愛いね』と伝えると満更でもないような顔をしていた。
すぐにループし推しの下へ。
「全くさー、単推し絶滅危惧種になってんだから、もっと優しくしてよ」
「誰のっ!単推しが絶滅危惧種だっ!絶賛、単推し激増中だわっ!」
そうかー?あまり見ないけど。
またループしレーンの先へ進むとペアの娘に『貴重な単推しなのに当たりきついんですよ。酷くないですか?』と言うとファンの人にあんなこと言っている姿、初めて見たとの言葉が。
えっ!他の人にはこんな感じじゃないの?
「他の人には釣り顔してんだって?僕にもしてよ」
「しー、ま、せ、んー」
何その顔ー!?憎たらしい顔をしながらそう言ってきたが、僕にとっては釣り顔になってるんですけど。
またループしレーンの先へ。
「釣り顔してって言ったら断られたんですけど、酷くないですか?」
「あはは、でも普通は断らないんだよ。断られるってことは仲の良い証拠なんだよ」
そうか?でもそんなこと言われるとなんか嬉しい気分になる。やはりグループ内で一番の性格の良さが滲み出ている。
そして推しの下へ。
「今日ってさー、性格の良い人と性悪の真逆ペアだよね」
「私が良い方ってことね。うん、知ってる。ありがと」
はぁー?そんなわけあるかーっ!
今日も頭の回転の早さは流石である。てっきり性悪で悪かったねと言ってくるかと思ったのだがそうきたか。
そんなこんなで今日も楽しい時間はあっという間に終了。
楽しかったけど、でもやっぱり疲れた。これからどこかに観光に行くような元気はなかった。
せっかく京都まで来たのだが、結局どこにも行かずにホテルに直行する。ホテルで食べようと思っていたお菓子も食べずに就寝。
次の日もチェックアウトの時間ギリギリまで寝ていて、琵琶湖の湖畔でひと時過ごし、京都駅でお土産を買って、握手会に参加して家路につく。
ほんと京都まで何をしに行ったのだろうか、、。
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