第3話 初個握で初塩対応

 本日参戦しようと思っているのは個別握手会なるものだ。


 個別握手会の握手会参加券はCDが発売される前に参加する日時を選び、希望のメンバーを選び、申し込みをして抽選に当選すると発売日にその希望した握手券付きのCDが送られてくるシステムだ。


 まあ抽選と言ってもまだ結成して間もないグループなので、抽選しなくてはいけないほどの申し込みはないので、申し込むと全て当選する感じだったし、予定販売数に達していない場合はCD発売後も販売してたりする。


 前回参戦した全国握手会と違いライブイベントなどはなく、完全に握手するだけのイベントだ。


 全国握手会は基本、レーンの先には2名のメンバーが待っている。つまり、1枚の握手券で2人と握手できるのだ。ちなみに人数調整で3人になる時もある。


 人気メンバーになるとソロでレーンを任せてもらえるようになるので、メンバーは取り敢えずソロでレーンを任せてもらえるように、人気を獲得するべく頑張っているとのことだった。


 そして今回の個別握手会もそうだった。


 個別握手会は5部制になっていて、人気があるメンバーは5部発売され、人気がないメンバーは1部しか発売されない。

 人気のあるなしがハッキリと分かってしまう、何とも分かりやすい残酷な指標となってしまうが、メンバーはそんな世界で日々切磋琢磨されているようだ。


 自分が応援している女性アイドルグループには30名ほど在籍している。見た目は当然、全員綺麗な方なので全員と握手してみたいと思っている。

 全員と握手してみて相性が合いそうな娘を、推しメンにしてこれから応援していこうと思っているのだが、1日でどれくらい回れるものなのだろうか。


 取り敢えず1部に1枚ずつ取ってみることにしたのだが失敗だった。


 どのレーンもほぼ待機列はない。受付を済ませるとすぐに握手が出来るような状態だった。


 受付を済ませ、いざ本日初握手へ。


 最初に向かったレーンの先に待っているメンバーは、前回ハイテンションで迎えてくれたあの娘だ。

 ルックスが一番綺麗な方だなと思った。あの、この世のものとは思えないほどの綺麗なルックスには驚愕したので、また行ってみたいと思い購入してみた。


 綺麗すぎるルックスにも驚いたのだが、更に驚いたのはまだ中学生だというのだ。

 あどけなさを残しつつも、整った綺麗な目鼻立ちには驚きを隠せない。20代になったらどれだけの美人になってしまうのだろうか。


 今回はあの時のテンションに合わせようと思い、テンションを高めにしていざその娘の前へ。


 あれ?今日はなんか変!


 前回のような感じは全くなく、話し掛けてもそっけない相槌を打つだけで終了。


 今の対応はなんだったのだろうか?


 聞くところによるとその娘はかなりの気分屋さんなのだそうだ。日によるどころか、1部は機嫌よく対応してくれたのに、2部は塩対応になるなんてことはザラにあるのだそうだ。


 ファンの方々はそれが逆に良いんだと言っていたのだが、うーん、そうなると初心者の僕には難しいのかも。ただ、とびっきりの美人さんなのでたまに顔を見に行くくらいならいいのかも。


 これで1部の握手券は終了。


 2部の開始時間まで、ほぼ2時間あるんですけど。どうしましょう。家に一回帰って戻って来れるくらいの時間がある。


 近くのショッピングモールにでも行って時間潰すしかないのかな。もしかしたら買い出しに来ていた時に、買い物もしないのに何フラフラしてんだよ。邪魔なんだよ。と思っていた人達は今の僕と同じ状態だったのかもしれない。


 なんかごめんなさい。



 時間を潰し戻ってくると、1部の時よりだいぶ人が増えているようだった。朝一開催の1部と、早く帰りたいと思う時間帯に開催している5部は、人が少ないんだそうだ。それに比べ2、3、4部は人が多いらしい。


 目的のレーンに向かうと待機列が2列になっていた。流石はグループ内で一番人気があるのではないかと言われている娘である。


 1部の時はそんなに並んでいるようには見えなかったが、前回の握手会の時は常に列ができていたような記憶がある。

 常に列ができていたので、個別握手会券が取れていたので前回は並ぶのを避け、今日が初対面となる。


 初対面だし、1部で塩対応を受けたので緊張した面持ちでその娘の前へと進んで行った。


「わーっ、こんにちわぁー」


 震えた声でこんにちはー、と言って入っていくと満面の笑みを浮かべ両手を振りながら出迎えてくれた。

 これまたあり得ないレベルの美人さんである。グループ内で一番の美白の持ち主というだけあって、あり得ないレベルの高さの美白美人さんだ。


 次に開催されるイベントにも行くので応援してます。頑張って下さい。と伝えると、顔をやや傾け僕の目を覗き込むようにしてきて、『ホントにぃ〜、絶対だからねー』と言ってきた。


 本日最初のキュン死である。


 いやー、マジ無理、なに今の対応!!完全に骨抜きにされてしまった。


 3部まではメンバーの休憩時間も設けられているのでさらに時間が空く。取り敢えず僕は1部で何枚握手券を取ったらいいのかを把握するために、会場内を往復してみることにした。


 そして握手券付きCDを購入できるサイトを開いてみる。一部メンバーに売り切れが出ているみたいだが、まだまだ全然買い増し出来るような状態だったので買い足すことにした。


 次回の握手会は来月だ。買えるだけ買ってやろうと思った。



 3部に券を取っていたメンバーは、グループ内で一番声質が可愛いと言われているメンバーだ。ただこの娘はクセが強いことで有名な娘だった。


 一度経験してみないとなんとも言えないと思い券を取ったのだが、握手を終えた人から『マジありえない対応だったんだけど、もう絶対行かないし』などの声がチラホラ聞こえてくる。


 今日は一度、塩対応を受けているだけに不安感が込み上げてくる。そんなことを考えているうちに自分の順番が回ってきてしまった。


「次のイベント、色々思うことあると思いますけど、応援してますのでプレッシャー感じずに頑張って下さい」


 と伝えてみる。


「えーっ、ありがとう」


 握手している僕の手を一度自分側に引き寄せた後、満面の笑みを浮かべながら、引き剥がされていく僕に手を振りながらそう言ってきた。


 こっちがずっと喋って塩対応される前に終わってしまおうとした作戦だったのだが、思いがけない神対応を受けた。

 小柄で本当に可愛いいルックスをしているし、本当に可愛いらしい声だったので、本日二度目のキュン死となった。


 この娘もまだ中学生ということなので、気分に波があるだけなのだろう。



 4部は前回勘違い発言をしてきたあの娘との握手だ。その娘のレーンに行くとスッカスカだった。


 会場内には多くの人が訪れているみたいだが、その娘のレーンはガラガラである。

 ルックスはグループ内トップクラスだと思うので人気が出ないわけはないのだが、加入前の恋愛事情がリークされてしまい、人気獲得に苦労しているとのことだった。


 やはり男の影がチラついてしまうアイドルは嫌厭されてしまいがちのようだ。


 ただ僕は人の恋愛事情をどうこう言える立場の人間ではないので、対応が良ければ何も問題ない。


 パーテーションの中を覗くと暗い顔をしていた。やはり隣のレーンが混んでいるのに自分のレーンには人がいないというのは精神をやられるのだろう。


「こんにちはー、初めましてー、ジョニー・デップです」


 そう言うと、吹き出して下を向いたかと思うと。


「初めまして、アンジェリーナ・ジョリーです」


 と切り返してきた。この娘、頭良っ!!


 咄嗟にそんな切り返しをしてくるなんて!


 困らせてやろうと思って言ったのに、こっちが回答に困る結果になってしまった。この娘、頭の回転早いなー。感心してしまった。


 それにメチャクチャ可愛い笑顔だった。



 5部は髪型がショートで顎がシュッとしていて、クールビューティな印象を受ける娘だった。


 この娘もグループ内で一番人気があるのではないかと言われている娘である。でもやはり聞いていた通り、5部はかなり人が少なくなっていた。なのですぐに順番が回ってきてしまった。


 何を話すか考えつく前に順番が回ってきたので『次のイベントも行きます。頑張って下さい』と他の娘に言ったことと同じことを言ってみたら、目を見開き、大きく頷きながらガッツポーズをしてきた。


 正直そんな大きなリアクションをしてくれるような方ではないと思っていたのでビックリした。そしてやはりメチャクチャ可愛い笑顔だった。


 今日も本当に幸せな一日だった。 


 サービス精神がいいと言うのかなんなのか、本当に皆さん対応がいい。


 これはもう次の握手会が楽しみで仕方ないんですけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る