第2話 ド緊張の初握手会
遂にこの日が来てしまった。初の握手会参戦。今まで遠目に見ていたアイドルとの初の接触イベントである。ド緊張のためか足取りが重い。
僕が応援していこうと思っているグループには、握手会といっても2種類のシステムがあるらしい。
全国握手会なるものと、個別握手会というものがあるとのことだった。両方ともCDが発売されるたびに行われているようで、今回参加するのは全国握手会の方だった。
全国握手会というのは関東会場、名古屋会場、関西会場で一回ずつ行われるようなので、全国とついているらしいがその規模で全国って名乗っていいの?という意見はあるようだ。
ただ多くのファンの方々は個別握手会とはイベントの内容が異なるので、単純に見分けが分かり易くなっている『呼称』というくらいにしか思っていないようだった。
個別握手会と違って、全国握手会には握手会の前にミニライブなるものが行われているそうだ。
ライブにミニが付いているのもなんなんだよ?と突っ込みたくなるが、今回発売されるCDに収録されている曲のみ、6曲くらいを披露する規模のライブなのでミニが付いているらしい。
今は制度が変わってしまっているらしいが、僕が参加した時はCDを買うと応募券が一枚入っていて、その応募券を持っていくとミニライブに参加することができる券と引き換えることができるとのことだ。
そしてその券は握手券としても使えるとのことだった。ちなみに応募券はそのままでも全国握手会参加券としても使えるらしい。
僕は今回CDを7枚購入し、その全国握手会というものに参戦する予定だ。
会場に到着すると入り口で応募券をスタッフの方に渡す。渡すとミニライブ参加券と引き換えてくれる感じのシステムのようだ。引き換えた券にはCエリアと記入されていた。
会場内は前方からAエリア、Bエリアと順々にエリア分けされているようだった。自分は前から3番目のエリアのようだ。
よく見るとAエリアはほぼ満杯の状態で、Bエリアは3分の2ほど人で埋まっている。これから向かおうとしているCエリアは、3分の1ほどしか埋まっていないようだった。
案内には早く来場されたからといって、前方のエリアが確約されるわけではありません。と記載されていたが、どうやら早めに来た方が前方エリアになる確率が高くなるようだ。
うーん、やはりこういうイベントは早めに来た方がいいらしい。
後方に目を向けるとDエリアと表示が掲げられている場所にも、パラパラと人がいるのが見受けられた。
早めに来られても後方エリアになってしまったのだろうか?それなのであれば目も当てられない。
Cエリアに向かおうとしていると、入り口付近で何やらスタッフの方と揉めている方がいた。聞き耳を立てていると、どうやら再入場しようとした方らしい。
Bエリアにはまだ余裕があるようなので、ミニライブ引換券を貰い直せばBエリアに行ける券が割り当てられる可能性はある。
自分の割り当てられたエリアが後方なので、一旦会場を出て再入場しようとして止められたのだろう。
僕も応募券を7枚持っているのでやろうと思えばやれる行為だ。
賢いっちゃ賢い行為だが完全なマナー違反である。
こういうマナー違反をする奴が増えたからなのだろう。後にミニライブ参加券では握手会には参加できなくなってしまった。
ルールが厳しくなってしまうのでルールの穴を突いた、マナー違反行為はやめていただきたいものである。
少しモヤモヤした気持ちを抱えながらCエリアに向かうと、前方に詰めることなくエリアの後方に陣取っている人がチラホラ。
前方に詰めていた方が見やすいと思うのだが、この人達は何か意図があっての行動なのだろうか。
そんな人を横目にペンライトを取り出し点灯するか確認する。大丈夫だ、キチンと点灯する。ふっふっふ、今回は抜かりなくちゃんと用意してきたもんね。今回は振りまくって盛り上がってやる。
今回は乗り遅れることはないだろうと思っていたのだが、会場にはそれ以上の猛者達がいた。
曲が始まるとなぜ前方に詰めず後方に陣取っていたのか理由が分かった。メンバーのダンスに合わせ踊り出したのである。
まあこれも正確に言うとマナー違反なのだろうが、自分の周りに十分なスペースがあると確認した上での行為なので大丈夫なのだろう。近くにいるスタッフの方も注意しないようなので容認しているみたいだ。
しかしまあよくやる。僕から見ると若いなーっという感じの見た目だが、一般的に見るといい歳こいた大人が何やってんだよって感じだろう。
恥ずかしげもなく自分よりかなり年下の、女性アイドルのダンスを一緒になって踊れるものだ。
1曲全ての振り付けを覚えてきたのだろうか。まるまる踊りきり、周りにいた人からも喝采をもらって上機嫌になっているようだった。
入場する際少し嫌な気分になってしまったのだが、変な奴も見れたし、会場内もライブで大盛り上がりだったので、上機嫌のまま初のミニライブ参戦を終えることができた。
ミニライブが終わると一旦会場を退場させられ、会場内を握手会を行えるように整備してから再入場となるようだった。
握手会開催の予定の時間まではまだ時間はあるようだが、皆さん早々に再入場待機列へと並んで行く。
自分も早めに入場した方がいいのかなと思い、最後尾に並んで準備が整うのを待つことにしたのだが、後から考えるとその必要は全然なかったように思われる。
握手会開始となったのだが希望のレーンに行く勇気が湧かない。
「ここは待機場所ではありませーん。止まらずにレーンにお進みくださーい」
入場したもののスタッフさんのそんな声が聞こえてくる。
いや、いや、いや、ゴメン進めません。ド緊張なんですけど。
何で皆んなそんなサクサク進めるんだよ。このレーンの先にはテレビで見たことがある女性アイドルが待っているんだろ。ムリ、ムリ、ムリ。
僕はビビってしまい一旦仕切られている柵の外で様子を伺うことにした。
様子を伺っていると以前見ていて、楽しそうだなと思った光景と同じ光景が広がっていた。緊張した面持ちで進んで行った人達が笑顔になって戻って来ている。
自分も早くその気持ちを味わってみたいとは思うものの、緊張の方が勝ってしまいどうしても二の足を踏んでしまう。
どれだけの時間を柵の外で過ごしていただろうか、
「◯◯時から1〜10レーンまで一旦休憩に入らせてもらいまーす。レーンに並ばれる方はお急ぎくださーい」とのアナウンスが。
そのアナウンスを聞いた僕は流石に覚悟を決め、目的の娘のいるレーンに進むことにした。ガチガチのド緊張。同じ側の手と足が同時に出ているんじゃないかと思われるほどのド緊張状態である。
何も考えることができない状態のまま、頭が真っ白の状態のまま、レーンの先にあるパーテーションの中に入ると僕は終了してしまった。
何これ?同じ人なの?ほっそっ!?肌しろっ!?目でかっ!?
何か話しかけてきてくれたようだが、頭が終わってしまっていた僕は何を言っているのか聞き取れず、『応援してます。頑張ってください』との言葉を絞り出し一人目の握手を終え次の娘の元へ。
そこで僕は更に終了してしまうことになってしまった。
メチャクチャ可愛い!!
その娘はテンション高めに何か言ってきたのだが、またしても反応することが出来ずに『頑張ってください』とだけ言って終了。
終始キョドったままだったなと反省しながらも、幸福感が込み上げてきた。
映像や画像を見てどのメンバーと握手をするか選別していたので、どのようなルックスをしているかは分かっていたはずなのに、実際対面してみると想像を遥かに超えるレベルだった。
肌はきめ細かく透き通るような白い肌で、真っ白なのに目鼻立ちがはっきりしていて整った綺麗な顔をしていた。
顔も信じられないくらいに小さく、小枝のように細くしなやかな抜群のスタイルをしていた。
あんな綺麗な女性見たことないんですけど。
どうりで握手会を終えた人達は幸せそうな顔をして戻って来ていたわけだ。あれほどの綺麗な人と握手できたのかと思うと幸福感でいっぱいになってしまった。
最初の握手を終え少し緊張感が抜け次のレーンへと向かう。
CDを買うと握手券の他に生写真が入っている。次のレーンの先にいるアイドルの生写真が、買ったCDに入っていたのでそれを伝えようと思っていた。
『生写真当たったんですよーっ』と言ったら、言っている途中で握手している手をぎゅっと強く握ってきた。そのため『んですよーっ』の辺りは驚いて言葉になっていなかったと思う。
「ホンマにぃ〜、大切にしてなぁ〜」
それだけではなく、甘い表情を向け、上目使いでそんな言葉を言ってきたのでまた僕は終了してしまった。
その後の言葉を続けることができず、口をパクパクしながらキョドりながら剥がされて終了した。剥がされている間もこちらに笑顔を向け手を振っている。
これがキュン死ってヤツか。神対応に完全に死んでしまいました。
その日僕は、知っている人に会ってしまったら気まずいなと思っていたので、帽子を深めに被っていた。
そのせいなのか何なのか、次のアイドルの元へ行くといきなり『お久しぶりですーっ』とテンション高めに言われた。
いや、いや、いや、今日初握手会だし。テキトーな奴だなーと思い、思わず笑ってしまった。
絶対どこかで見たことある帽子だと思ってそう言ってきただろ。と思ったがその適当さ加減が好感を得た。
緊張していて終始ふわふわしていたのだが、その的外れな言葉に緊張は吹き飛んでしまった。
何よりこちらに向けてきている笑顔がメチャクチャ可愛い。
本当に何て幸せなひと時なのだろうか。
次はキャプテンを任されている方のレーンに向かって行き、『キャプテン頑張って下さい』と伝える。
てっきり『はい、頑張ります』との返事が返ってくるかと想像していたのだが、体をクネクネさせ苦笑いを浮かべながら『まあ、頑張ってみます』との返事が返ってきた。
何その反応!?可愛いすぎるんですけど!?
対応マニュアルでもあるのだろうか。これまで1人としてありきたりな反応を返してくる娘はいなかった。
何回キュン死していることやら。
次は自分の前に並ばれていた方が、『必殺技お願いします』と言っていたので、自分も真似してお願いしてみた。
すると結構強めのパンチをしてきたので、驚いた表情を向けると『うふふふふ』と満面の笑みを向け、両拳を顎に当て上目使いをしてきた。
そんなアニメに出てくる萌えキャラのようなことを、実際にする女性がいるのかと思い、再びキュン死となってしまった。
そんなこんなで初の握手会は終了となる。
元妻には申し訳ないが、人生で一番楽しいひと時だった。
たった数秒間だったが、間違いなく人生でサイコーのひと時だった。
こんな神イベント、参加したことがないなんて、人生絶対損してんだろ。
人とは思えないような、お人形さんのような、アニメの萌えキャラのような人間が実際に存在しているだけでもあり得ないのに。
そのハイレベルのビジュアルをした女性が、自分の為だけに笑顔を向けてくれるなんて。
もう完全に終了だった。
こんなの来ない選択肢はないと思った。
この日から僕は、ドルオタへまっしぐらとなってしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます