握手会にハマったバツいちオジ
加藤 佑一
第1話 初ライブ参戦は分からない事だらけ
「これで滞りなく手続きは終了です。お疲れ様でした」
その日、僕は離婚が成立する事となった。
もうリアルの女性は懲り懲りだと思っていた。
これからはアイドルオタクとして生きて行こう。そう思っていた。
しばらく休みを取って気分転換をする。その気分転換になるかもしれないと思ったのが女性アイドルのイベントへの参加だった。
なぜかというと、僕がよく買い物に出掛けているショッピングモールの近くにはイベントホールが隣接されていた。
そこでイベントがある日は人が増え、食材を買い出しに来ているだけの僕に取っては邪魔な存在でしかなかったのだが、ある日、気分転換も兼ねてイベントホールまで足を伸ばしてみることにしたのだ。
その日、イベントホールでは女性アイドルの握手会なるものが催されているようだった。
今はセキュリティーチェックが厳しくなっているが、僕が初めて寄ってみた時はかなり近くまで近寄ることができた。
目隠しのパーテーションは並べられているが、女性アイドルの姿が全く見えないわけではない。
会場を訪れている人達は緊張した面持ちでアイドルの前へと進んで行き、その後笑顔になって戻って来ていた。
「なんか、楽しそうだなー」
会場内にいる人達は一様に足取りが軽い。そして何より目に止まったのが、一人で来場されている方が多いように見受けられたのだ。
これといった趣味はなく、友達も多くなく、独り身の僕にとっては参加しやすいイベントなのではないかと感じた。
独身の頃は友人とサッカー観戦や野球観戦にもよく訪れていたが、それをまた趣味にするには、一人での参戦はなかなか厳しいのではないかと思っていた。
一人旅行も考えたが、僕は一人では飯屋には入れないタイプだった。一人で何かを食べるとしたらラーメン屋か牛丼屋くらいしか入れない。
蕎麦屋も駅構内やデパートのレストランフロアに入っているようなところへなら入れるが、老舗の蕎麦屋となると敷居が高くなってしまう。
一人で来場されている方が多いというのは、僕にとって参加しやすそうなイベントだなと感じさせてくれた。
そして本日ついに、女性アイドルのライブに初参戦する事となったのだ。
イベントホールを訪れた後すぐにその女性アイドルのスケジュールを調べると、次の握手会はもう少し先で、その前にライブイベントが催されるようだった。
日付はなんと、離婚協議が終了出来るはずの日だった。もうこれは行くしかないと思った。
会場付近に到着するとスタッフと思われる方が人の集団を案内していた。おそらくあの方達もアイドルライブに参加される方なのだろうと思いながら横を通り過ぎて行く。
開場時間から10分ほどしか経ってないというのに、皆さん早くから並んでいるんだなーっと思いながら会場入り口の方へと向かって行った。
会場入り口に到着すると、なぜ、皆さんが早くから並んでいたのか理由が分かった。
入り口付近でスタッフの方が数字を叫んでいたのだ。
どうやら入場は整理番号順に案内されるみたいだ。なるほど、そうなると整理番号が早い人は開場時間に来ていないと後回しにされてしまうみたいだ。だから皆さん早くから並んでいたのかと思った。
そういえばここに来るまでの間に人の塊が何個かあったように思われる。あれは整理番号で区切っていた塊だったのだろう。
ホール内の位置どりは先着順である。せっかく早い整理番号が取れ、前の方で見れる権利を得たのに、遅れて来てしまうと後方になってしまい損をしてしまうようだ。
整理番号が早い時は早く来ないといけないんだな。気を付けよう。
まあ今日の僕は整理番号が1000番代なので、もっと遅く来てもぜんぜん問題はなかったようだ。
早い整理番号はどうやらファンクラブ会員にならないとゲット出来ないらしい。会員になっていると先行予約抽選に申し込みができるようになるのだそうだ。そこで当選すると早い番号がゲットできるらしい。
今回僕が買ったチケットは一般販売で購入したもの。しかも公演日間近で買ったものだ。遅い整理番号が割り当てられるのは当然のことである。
自分の番号が呼ばれるのはまだだいぶ先のようなので、早速サイトを見てみることにした。
300円!?
そこには会費月額300円となっていた。親が入っている某有名男性演歌歌手の会費は年額一万円とかだったと思う。
月額300円となると年額でも3600円ではないか。なんとも良心的な価格設定だなと思った。
早速登録してしまおうと思ったのだが、呼び出される整理番号が今までは1番ずつの案内だったのに、5番ずつ、10番ずつと回転が早くなりだしてきていた。
そういえば先程まで多くの人でごった返していたのに、人の数がずいぶんと減ってきているようだった。
整理番号が後の方の人達は開演前に入場すればいいやと思っているのだろう。まあ当然の心理だろう。
ようやく自分の順番が回ってきたようで、会場内の入り口の方へと向かって行った。向かって行くといきなり手を上げられ立ち塞がられてしまった。何かしたのかと思っていたら、ドリンク代お願いしますとの一言が。
あー、そういえばそんなことが案内に書いてあったなーっと思い、ここで支払うのかと思い支払いを済ませ、いざ場内へ。
自分の後ろには誰も並んでいなかったので良かった。後に多くの人が控えている状態であったのなら、入場に手間取ってしまい迷惑な奴になってしまっていたところだった。危ない危ない。
中に入ると皆んな同じ方向に向かって歩いて行っている。向こう側が入り口なのかと思い、付いて行くと違っていた。
ドリンクの引き換え所だった。そこでドリンクを受け取りホールに入場するようだ。
ドリンクの品揃えは豊富だった。ミネラルウォーター、お茶、炭酸飲料、スポーツドリンクなどなど様々な種類が置かれていた。
炭酸飲料は人が集まっているところで吹き出してしまったら大変だ。避けておくのが無難だろう。
お茶もトイレが近くなってしまうかもしれないし、スポーツドリンクも素早い栄養補給のため糖分が入っているのでトイレが近くなってしまったりもするので、ミネラルウォーターにするのが無難だろう。
そう思い、ミネラルウォーターを受け取るといざホール内へ。
入場すると前の方は人がぎゅうぎゅうになっていた。ホール内は人を区切るためなのだろうか、途中途中に手すりが設けられているようだった。
手すりの後をゲットした人はそこに手をかけ寄りかかるようにしている。手すりに寄りかかれるのは楽そうだなと思いながら後方に目を向けると、一段高くなっている部分がありそこにも手すりが設けられていた。
そこはまだ人がいっぱいになっている感じではなく、スペースがあるようだったのでそこで観覧することにした。
時間を見るとまだ開演まで1時間ほどあるようである。
僕もどうせ遅い整理番号なのだからもっと遅くに来ても良かったなと思いながら、しばらくそこでぼーっと時間を過ごしていると開演時間が近づいてきた。
自分がいる部分の付近はまだ余裕があるようだが、到着した時は目の前の空間にはまだ余裕があったのだがいつの間にか人でいっぱいになっていた。
影ナレというものがあった後に会場内のボルテージはどんどん上がっていき、遂に開演となった。
音楽が鳴り始めると皆さんペンライトを灯し出した。
どうやらペンライトなるものを振って応援するのが文化のようである。そういえばグッズ販売にそんなの売っていたなーっと思っていると、メンバーが出てきて最初の曲が始まった。
会場の熱は一気に高まる。
僕は曲はぜんぜん知らなかったので曲に乗り切れないでいたが、皆さん楽しそうにペンライトを振り、声援を上げたりしているので楽しくなってきた。
ライブは歌やダンスだけではなく、途中で寸劇のようなものをしたり、どちらが可愛いセリフを言えて会場を沸かせられるか対決などをしたり、初心者の僕でも楽しめるような内容が織り交ぜられていた。
終了後すぐには退場せずしばらくぼーっとしていた。かなり楽しめる内容だった。ていうかサイコーだった。
いやー、これはヤバい、これはどハマりしてしまいそうだ。
最近、色々なことが重なり、ため息ばかりついていた日々が続いていたが、本当に幸せな時間となった。
また絶対に来よう。そう思った。
そういえば入場する前に受け取ったドリンク、全然口をつけていなかった。
あー、失敗した。色々考えてミネラルウォーターにしたのに、口つけないなら好きなのを受け取れば良かったと後悔した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます