第3話 ランガート村

俺は、屋敷からランガート村に向かっていた。最初、馬で行くことを考えたが、魔物に襲われたら

馬に乗っているとやりにくいので、徒歩で行くことにした。


 朝から、出発して、夕方にはランガート村に着いた。ランガート村は、のどかな感じの村だった。


 ここに勇者がいるのかーーどこにいるんだろう?

 俺は、村中を探したが、勇者らしき人を見かけることはなかった。


 勇者がいると思ったけど、もう村を出てしまったのかな?

 

 そう思って村を出て、しばらく歩いていると悲鳴が聞こえたので、聞こえたところへ行ってみると、魔物と、少年と少女がいた。

 少年を見て、勇者に似ていたので、勇者じゃないかと思った。周りにはゴブリンの死体が十体ぐらいあった。

 さすがは勇者だと思ったが、今度の相手はオーガだ、相手が悪い。

 

 少年が少女をかばいながら魔物と対峙しているが、どうみても、少年の方が不利と思った俺は、自分に防御魔法を使い、シールドを張ると、炎魔法をオーガに放った。

 オーガは俺の気配に気づいていなかったようで、俺の魔法をもろにうけた。


 オーガの全身が炎に包まれ、焼かれていく。 オーガは火を消そうと地面にのたうち回るが、火は消えない。

 やがて、オーガは息絶えた。


 俺がオーガを倒すと少女と少年がやってきた。少年が俺に言った。


「どうもありがとうございます!おかげで助かりましたー」


 少女も俺に言った。


「本当にありがとうございます!ほんと一時はどうなるかと思いました!」

 

 俺は二人に「いえいえーお二人が無事に済んで本当によかったです」と言った。


「私は、リーザ・クレインと言います。一緒にいるのは私の幼馴染のエドワード・クリスティンです」


「エドワード・クリスティンと言います。よろしくです」

  

 名前を聞いて、やっぱりこの少年が勇者だったのかーと思った。仲良くなりたいものだな。

 

「私は、カイン・ホルスタインと言います。どうぞよろしくです」


「カイン・ホルスタイン?あのホルスタイン公爵家の?」


 二人は俺の名前を聞くとかなり驚いていた。こんなところにも俺の悪名が轟いていたとは……

   

 二人はしばらく沈黙していたが、リーザがその沈黙を破った。

 

「カイン様、私の家に来てくれませんか? お礼をしたいので」


「お礼をされるようなことはやっていませんよ」


「いいえ、助けてくださったのに何もしないのでは、こちらとしても納得ができませんので」


「僕からもお願いします。カイン様」


 エドワードも俺に言ってきた。二人からお願いされては、行くしかないか。


「……わかりました。そのようなことなら行かせてもらいます」


 二人は笑みを浮かべて、「ありがとうございます」と感謝した。


 俺は、二人とともにリーザの家に向かった。リーザの家にはリーザの父と母がいた。

 リーザは両親に俺を紹介してこう言った。


「この方に私もエドワードも危ないとこを助けていただいたの」

 

 両親は、俺の名前と俺のしたことを聞いて、とても驚いていたが、しばらくすると、父親がこう言った。


「娘とエドワードを助けていただき、ありがとうございます。よろしければ、一緒に今晩、食事をしませんか?」


「…はい、わかりました。一緒に食事をしましょう」


 俺の返事を聞いて、「それじゃ支度をしましょう」と母親が言った。


 ……しばらく後、俺は、リーザとその家族、エドワードとともに、夕食を取った。


 しばらく世間話をしていたが、リーザの父親がこう切り出した。「今日は、娘とエドワードを助けていただきどうもありがとうございます

 何とお礼を言ったらいいか、わかりません」


「お気になさらなくてもいいですよ。あの時は助けないといけない状況でしたし……」


「お心づかい、ありがとうございます」


「カイン様はどうしてこの村にこられたのですか?」

 

「そのことについては、二人で話したいので、席を外してもらえますか?」

 

「わかりました」


 二人は食卓を離れて別の部屋に入った。


 俺は、勇者を探しに来たとはいえないので、こう言い訳した。


「実は、私の護衛として務まりそうな人を探しにきたのですよ」

 

「そうですか。護衛になるような人を探しにこられたんですか」 


「はい。めぼしになりそうな人はいるんですが、本人がどう思うか…」


「誰のことをいってるんでしょうか?」


「エドワード君ですよ」


「エドワードですか?たしかにエドワードは少年ながら村一番のつわもの、護衛としては、打って受けでしょうが……」


「まだ年端もない若者、何かあるやもしれませんが……」


「彼なら護衛としては十分だと思います。ただ、彼の気持ちはどうなのかが気になりますが」


「あとで、エドワード君と話してみます」


「そうですか。わかりました」


 話を終えると、二人は食卓の方に戻っていった。


 食事を終えると俺はエドワードに声をかけて外に出る。


 外は、綺麗な夜空がでていた。


「エドワード君、私は自分の護衛を探しにこの村に来たんだ」


「そうだったんですか」


「それで君に話があるんだが……」


「なんでしょうか?」


「実はエドワード君に私の護衛をお願いできないかとおもったんだ」


「えっ? わたしにですか?」 


「そうだ、君が最適任だとおもったんだ。先ほどの戦いを見て」


「あの戦いではあやうくオーガにやられるとこだったんですか…」

 

「でも、一人でゴブリンを十匹倒していたのは見事だった」


「あの時は必死でやってたんで……」


「なにはともあれ、あれぐらいやれば上出来だよ」


「そうですか……」


「君には、見どころがある。私のところに来ればもっと強くなると思う

頼む、私のところへ来てくれ」


「すいません、今は答えようがないです」

 

「まだ時間はあるからゆっくり考えるといいよ」


「はい……わかりました」


 今日の宿はどうしようかと思ったが、リーザの親父さんが泊まっていくように勧めたので、

リーザの家に泊まることにした。


 翌朝、目を覚まして、居間に行くと、リーザとエドワードがいた。


「おはようございます。カイン様」と二人は口をそろえてあいさつした。


「おはよう。リーザにエドワード、ってエドワードは自分の家に帰ってなかったのか?」


「いえ、私はリーザのところに居候してるんですよ」


「私が八歳の時に、両親が魔物に殺されまして、それからリーザの家にやっかいになってるんですよ」 


「そうだったのか……いや、いやなことを聞いてしまったな」


「いえいえ、気にしてませんから」


「そうか…」

 

「あの…カイン様…昨日のことについて話したいことが」


「わかった。外にでようか、エドワード」


「はい」

 

 それから俺とエドワードは外に出て、見晴らしのいい場所にいった。

 

「カイン様、護衛の件ですが、お受けしようと思います」


「受けてくれるのか?」


「はい、私もいつまでもこの村にとどまっていようとは思いませんし、

昨日のカイン様の強さを目の当たりにして『この方の傍にいたい』と思ったんですよ」


「そうか、私も君のような護衛が欲しいと思ってたんだ」


「よろしくおねがいします。カイン様!」


 エドワードを護衛にすることに成功した俺は、自分の屋敷にエドワードと帰ることになった。


 このあと、俺は村の宿屋に泊まり、次の日、エドワードと俺の屋敷に向かって出発した。

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