第1話 バディ

ザヤは退院後、ハッキューの車に乗せられた。


八年ぶりのガソリンの匂いに気持ち悪そうにしていた。




「どこに向かってるの?」


「隣町だ。 隣と言ってもかなり遠いが。 『避難民地区』と呼ばれている。」


「安全なの?」


「ここと大して変わんねぇよ。」




街を出るとあちこちにクガラがいたが、100キロ以上の速度で飛ばしている車には追い付けなかった。




「あ、そうだ。 お前、これに着替えろ。」


ハッキューが後部座席の紙袋を指さした。


中を見るとハッキューやフェイが着ていたようなスーツが入っていた。





「おい、ネクタイつけろ。え、今?」


「なんか文句あっか? クソガキビッチ。ガキの体に用はねぇ。」


「ぶち殺すぞ。」


「やってみろってんだ。」


「いつかマジでやっからな。」




ザヤ少し躊躇しながら着替えた。


ハッキューは彼女の下着姿には目もくれなかった。




「ネクタイをつけろ。」


「あ、後でやるからッ!」


「ダメだ。制服はちゃんと着ろ。」


「く、苦しいから後でする...」




ザヤはネクタイの締め方を知らなかった。




着替えが終わってからさらに1時間、合計二時間ほど経つとハッキューが車を降りた。


そして、大きな門を開けると、もう一度車に乗り、門を潜り、そして車を降りて門を閉めた。


さらにそこから15分ほど進むと、もう一度車を止めた。




「降りろ。」




言われたとおりに車を降りるとそこには、警視庁山都警察署、と簡易的に書かれたであろう看板が飾ってある建物があった。


「ついてこい。」


建物の中に人気はなかった。


埃っぽかったが、それでもザヤの家に比べればマシだった。




階段を上がると、急に大声が廊下に響いた。




「お前ネクタイの締め方も知らへんの?クソダッせーー!」


「声、でけぇっす。口にクソ熱いタコ焼き詰め込んで喋れないようにするっすよ?」


「あ、あなたもうるさいですよ。静かにしてください。」


「あぁーん?」




ハッキューが向かったのはその声がする部屋だった。


その部屋の扉には『対クガラ対策課』と書かれた紙があった。


彼がその部屋を開けると、スーツ姿の男女が部屋に散らばっていた。


そこにはフェイやレイの姿があった。




「あー!風俗ねーちゃん!なんでここに居るんすか?」


ザヤが「ぶっ」と言いかけたところで、ハッキューが言葉を被せた。




「おい。クソガキ共。静かにしろ。この女もここ、『第4部隊』に入ることになった。俺は人を呼んでくるからここでしばらく『オスワリ』してろ。」


そう言い残すと、ハッキューは部屋を出てい行った。




彼が出ていくと、しばらく沈黙が流れた。




「じ、じ、じこっ!自己紹介とかします...?」


黒髪ポニーテールに、丸眼鏡ををしている女、いや女子が口を開いたが全員無視をした。




「あ、風俗おねーさん。煙草持ってます? 一本くれません?ここに来ててから一本も吸えてないんす。」


「おい、次その呼び方したら金玉と眼球入れ替えるぞ。」


「いやでもアンタの名前知らないっす。 っていうかおねーさん、そんなに眼の事気にしてるんだったら僕の金玉、右目に入れてあげるっすよ。」




ザヤは目を閉じで深く深呼吸した。


「...ふぅ。 私はザヤだ。」


「俺はレイっす。で、煙草あります?」


「ねぇよ。」




ザヤはそう言いながら、ポケットから煙草とライターを取り出し、火をつけ吸いだした。


それを見たレイは、先程口喧嘩していた関西弁の男に部屋全体に聞こえる声で、耳打ちした。




「なぁ、あんた。 あの女、痴女のくせに性格まで終わってるっす。あと、俺一回あいつに殺されかけたっす。」


「コッワーー!」


「こっちはテメェに眼ぇ喰われてんだぞ!クソロシアンルーレット野郎!」


「やっぱバカっすあの風俗おねーさん。 さっき名前教えたのにもう忘れてるっす。しかも『禁煙』の張り紙があんのに煙草吸ってるっす。きっと字ィ読めないんすよ」


「頭ワッルー!めっちゃ頭ワッルー!!」


「あ、あっ... け、喧嘩は...」


「あぁ?」




丸眼鏡の女子がそう言いかけると、レイとザヤの声が重なった。




「それはそうと。アンタとは仲良くなれそうっす!名前は?」


関西弁の男は答えた。


「リリオ。よろしくな。」


「よろしくっす!」




そんな会話をしていると、ドアが開いた。


そこから入ってきたのは、ハッキューと、男女が2人ずつ。


ザヤやレイとは違って、顔つきから成人していることが分かる。




「おいクソガキ共。『オスワリ』がどういう体勢か知らねぇのか?まぁいい。 おいニナ。こいつらに説明しろ。」


「はい、ハッキューさん。」


ハッキューに声を掛けられ、一歩前に出たのは、黒髪ショートにキラキラと光るイヤリングをした女だった。




「えー、みなさーん!こんにちワ~! 私は『対クガラ対策課第ニ部隊』のニノでーす!一応、みんなの先輩でーす!


えー、『第四部隊』のみんなには今からバディを組んでもらいます。 えーバディの組み合わせはこちらで決めているので、えー、それを今から発表します!」




そう言うとニノは胸ポケットから紙切れを取り出した。




「えー。えーーー。えーー.... あっ私、字ぃ読めないんだった。ヤス君読んで。」


「何やってんすか。」




ヤス君と言われた黒髪センター分け、頬に痛々しい傷がある男はニナから紙を受け取り、紙に書かれたことをそのまま読み上げた。


「えー。『一班 レイ ザヤ』『二班 リリオ フェイ』『三班 マル子 レン』 以上の組み合わせだ。 これから、『第四部隊』に任された任務は基本的にこのバディでこなしてもらう。 以上だ」




「ゲー! この風俗おねーさんが相棒ってマジすか」




「まぢで終わった...」


ザヤは一人で呟いた。

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