第10話 今日はずっと
朝。珍しく胡桃がまだ寝ている。
「……ん、んぅ……」
少し声を漏らしながら、寝返りを打つ。
胡桃がかけていた目覚まし時計の音が部屋中に鳴り響く。
「わっ……!」
飛び起きる胡桃。
「寝坊……じゃないけど!」
「ていうか、なんでアンタもう起きてるの!?」
「いつもなら私が起こさないと起きないのに」
「……もしかして、布団だからあんまり眠れなかった?」
申し訳なさそうに言う胡桃。
「それに、起きてるならせめて布団から出ればいいのに」
「どうせごろごろしてたんでしょ」
「なんか言ってよ」
「……ねえ、お兄ちゃん、なんか顔、赤くない?」
「もしかして……」
近づいてきて、おでこに手のひらをあてられる。
「熱っ! ちょっと……!」
額をくっつける。かなり顔が近い。
「アンタ、熱あるんじゃないの!?」
「ちょっと怠いだけ? 馬鹿! 悪化したらどうすんの!」
「体温計持ってくるから、絶対動かないで!」
どたばたと足音を立て、急いで部屋から出ていく胡桃。
少しして、急いで戻ってくる。
「ほら、熱測って」
頭に響くのを気にし、いつもより小さい声。
「食欲はある? 頭は痛い? 病院行く?」
「大丈夫って……だめ。アンタ昔から、大丈夫じゃなくても大丈夫とか言うんだから」
ピピッ! と体温計が鳴る。
「37.2度……」
「まあ、微熱だけど、37度はこえてるんだから、今日はゆっくり休むこと」
「土曜日だし、別に予定もないでしょ?」
「ほら、いいから寝て。起きるの禁止ね」
強制的に寝かせられる。
「朝ご飯とか、部屋に持ってくるから」
「他にもいるものがあったら動かずに私に言うこと」
「……やけに優しい? 私だって、病人には優しくするんだから」
「いいからおとなしくしてて」
♡
「起きてる?」
「お粥持ってきた。さっきよりは顔色いいみたいね」
「おばさん、今日は前からおじさんと映画行く約束してたみたいなの」
「アンタのことは私が見とくから、行ってきてって言っといた」
お粥の乗ったトレイをベッド脇のテーブルに置く。
「ちょっとだけ身体起こせる? 食べさせてあげるから」
「仕方ないでしょ、アンタは今病人なの」
「たかが微熱……って、その微熱で終わるようにちゃんと休まなきゃいけないわけ」
「分かる?」
圧の強い声。
「ほら。……ふー、ふー」
「あーん」
お粥を食べさせてもらう。
「今日はずっと、私がお世話してあげるから」
ぶっきらぼうだが、嬉しそうな声。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます