第6話 突然の来訪

 インターホンが鳴る音。玄関の扉を開ける。


「……あのさ、おばさんから話聞いてる?」

「……やっぱり。おばさん、言ってないんだ」

「まあおばさんも仕事中だし、仕方ないけど……」


 気まずそうな声。


「私の家、お風呂が壊れたの」

「お母さんたちは仕事遅くなるって言うし、近くに銭湯もないし……」

「だから、アンタの家のお風呂、貸してもらうことになったんだけど」


「……仕方ないでしょ!」

「もう、おばさんの許可はもらってるから」


 胡桃が家に入ってくる。


「アンタはもうお風呂入った?」

「まだなんだ」

「とりあえず、家入れて」


 胡桃が家に入り、玄関の扉を閉める。


「おじさんもまだ帰ってきてない? 知ってるけど」

「おじさん、いっつも帰り遅いじゃん」

「おじゃまします」


 靴を脱いでちゃんと揃え、リビングへ移動する。


「着替えもタオルも持ってきてるし、お風呂だけ貸してくれたらいいから」

「……ご飯? まだだけど」

「いや、いいって。アンタが用意してくれるのって、どうせ冷凍チャーハンとか、カップ麺でしょ?」

「……やっぱり」


 溜め息を吐く胡桃。


「それなら、私が作った方が美味しいし」

「はあ? 料理くらいできるから」

「私の料理がちゃんと美味しいって、アンタに教えてあげる!」

「冷蔵庫の食材は使っていいのよね?」


 胡桃が冷蔵庫を開け、中身を確認。


「なるほどね」

「だいたい分かった」

「それなりに材料あるから、買いに行かなくてもなんとかなりそうね」

「じゃあとりあえず、お風呂入りたいんだけど」


「場所くらい分かるって」

「小さい頃、何回も泊まったんだから」

「……お風呂一緒に入ってたよね? はあ? アンタ、何言い出すわけ!?」


 恥ずかしそうな、照れ隠しの大声。


「子供の時の話、いつまでも持ち出さないでくれる!?」

「そんなの、小学校低学年の時の話でしょ!?」

「ほんっと、デリカシーないんだから」


「……言っとくけど」

「覗いたりしたら、ただじゃおかないから」

「じゃあね!」


 脱衣所の扉を力強く閉める音。

 少し経って、シャワーの音が聞こえてくる。

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