第2話 変わってないな

「ほら、さっさと食べて! そろそろ出ないといつもの電車乗れないから」

「寝癖もついてるし。もうちょっと余裕持って起きられないの?」

「食べた? もう行くよ。寝癖とかなおしてる暇ないから」


 食器を下げる音と、荷物をまとめる音。


「じゃあおばさん、行ってくるね!」


 明るく元気で、かなり愛想の良い声。

 家を出て、駅までの道を歩く。


「アンタさあ、おばさんが起こしてもなかなか起きないんでしょ?」

「私がいないと困るってよく言われるの」

「アラームかけてるけど、何の意味もないじゃん」


 駅に到着。ホームに移動。


「……今日も人多い」

「アンタが早起きすれば、混んでない電車に乗れるのに」


「ありがとう? 別に、お礼とかいいから。ちゃんと起きれるようになってよね!」


 電車がくる音。

 満員電車に乗り込む。


「うっ……」


 潰されて苦しそうな声。

 ドア側に移動させてあげる。


「……ありがと。盾になってくれて」

「はあ? 別に私も、感謝くらいするし」


 電車内のため、小声で囁くような声。


「……大丈夫」

「一人だったら、こんなに混む時に乗らないから」





 電車を降りる。


「本当、満員電車って最悪」

「せっかく結んでるのに、髪もちょっと汚くなっちゃったし……」


「全然分かんない? これだからアンタは……!」

「私が毎日どれくらい時間かけて用意してると思ってるの?」

「メイクもあるし、アンタより2時間は早く起きてるんだからね?」


「昔はそんなことしてなかったのに? 当たり前でしょ。私、もう高校生なんだから」

「……はあ? 1歳しか変わらないのに、歳上ぶらないでよね!」


 話しているうちに学校に到着。


「じゃあまた……え? 放課後?」

「図書室で勉強? アンタが?」


 怪しむような声で聞いてくる胡桃。


「一緒に勉強しようって……あ!」

「もしかして、満員電車にならない時間に帰ろうってこと?」

「珍しく気が効くじゃない」


「……そういうとこ、変わってないな」


 聞こえるか聞こえないくらいの小さな声。


「じゃあね! 放課後、図書室で待ってるから」


 ちょっと嬉しそうな声。弾むような足音が遠ざかっていく。

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