家族の味、中華料理ジャン

第2話 ランチタイムの試練

博多の朝は、いつも通りに始まった。しかし、この日は何かが違っていた。早朝から雲ひとつない快晴で、人々はこぞって外出を楽しむ気分になっていたのだ。「中華料理ジャン」の前にもすでに数人の客が並び始めていた。

「今日は忙しくなりそうね」と玲子が言うと、明はただ静かに頷いた。彼の目はすでに厨房での一日の段取りを考えていた。

開店すると同時に、店内はすぐに満席になった。常連客が次々と注文を出し、新規のお客様も次々と入ってくる。玲子は笑顔で接客を続け、美咲はテーブルを回りながら料理を運んだ。厨房では、明が中華鍋を振る音が絶え間なく響いていた。

「美咲、注文が立て込んでるわよ！」玲子が急かすように言った。

「はい、お母さん！」美咲は急いで厨房に戻り、次々と出される料理を配膳した。汗が額ににじむ中、彼女は父の背中を見て、ますます気を引き締めた。

明は黙々と鍋を振り、料理を仕上げていく。その手際は見事で、どんなに多くの注文が来ても、同じクオリティで料理を出し続けた。美咲はその姿に感動し、さらに一生懸命に働いた。

その日、店の賑わいにさらなる特別なゲストが現れた。九州場所で訪れた横綱とその部屋の力士たちだ。大きな体と迫力に一瞬圧倒されたが、玲子はすぐに笑顔で迎え入れた。

「いらっしゃいませ！今日は特別な日ですね！」

横綱はにっこりと微笑み、「ここに来るのを楽しみにしていたんだ。美味しいと評判だからな」と答えた。

横綱のために、明は特製の麻婆豆腐と餃子を用意した。厨房では、熱気と香りが溢れ、明の集中力が一層高まる。玲子と美咲は、力士たちが快適に過ごせるよう、細やかな気配りを忘れなかった。

やがて、特製麻婆豆腐と餃子が横綱の前に運ばれた。横綱は一口食べると、目を閉じて味わった。その表情から満足感が伝わり、周囲にいたお客様も興味津々で見守っていた。

「これは、本当に美味しい。お墨付きだ。」横綱がそう言うと、店内は拍手と歓声で溢れた。

忙しいランチタイムも終わりに近づき、店内は次第に落ち着きを取り戻した。最後の客が帰ると、家族は疲れた様子で顔を見合わせた。

「今日は本当に大変だったわね。」玲子が息をつきながら言った。

「でも、なんとか乗り切れた。」美咲も笑顔を見せた。

「これも家族のチームワークのおかげだな。」明が微笑んだ。

忙しいランチタイムを乗り越えた三田村家は、一層強い絆で結ばれていた。この経験を通じて、美咲はチームワークの大切さと、家族の力を改めて感じたのだった。