第6話 両親

 その後も色々と部屋の説明を聞いてから俺は帰宅した。

 もう少し居たい気分だったが、家に帰って親に春香と一緒に住むことへの許可をもらわなくてはならない。

 俺の親の性格的に反対はしないと思うが、絶対にからかってくるに決まってる。特に父さんが。


 とは言っても、春香と一緒に夢を追いかける為だ。恥ずかしがっても仕方ないだろう。


「なんだ奏太、話って」

「重要な話かしら?」


 帰宅した俺はすぐに両親を呼んだ。

 話し出すのを渋ってしまうといつまでも話を切り出せなくなってしまうような気がしたので、すぐに二人を呼んだ。


 そして、俺と両親はリビングの机を囲むようにして座った。


「急で悪いんだけど、二人にお願いがあるんだ」


 俺がそう言うと、二人はお互いの顔を見合わせた。


「「お願い……?」」


 今からお願いするのは、春香と一緒に住むことだけではない。親にはお願いする立場なのに誤魔化すのはよくないので、俺が漫画家を目指すということも話さないといけない。


 春香と住むことに関しては許可されても、漫画家を目指すのは許可できないと言われる可能性も十分にあり得る。


 それでも、俺は話すべきだと思う。


 一度だけ深呼吸をし、俺は話し始める。


「俺は、漫画家を目指したいんだ。それで、一緒に漫画家を目指す相方と明日から一緒に住みたいんだけど……」


 母さんはぽかん、と口を開けながら俺の顔をじっと見ている。

 そして父さんは眉間にしわを寄せながら、難しい顔をしている。


 やはり、簡単には許可できない内容だったのかもしれない。

 でも、言ったんだ。

 あとは良い答えが返ってくるのを、ただ祈るだけ。


「その相方というのは男なのか?」


 やっぱりそこ聞いてくるよなぁ。

 ここまで来たらもう何も包み隠さずに話そう。


「同じ学校の女子生徒の方、です」

「なにぃっ!? 男女コンビの漫画家になるってことか!!!」

「えっと、まあ、そういうことになるね」


 先ほどまで難しい顔をしていた父さんだったが一緒に組むのが男ではないと知ると、驚きに満ちた表情に変化した。

 そして何故か俺の横に移動し、俺の背中を強く叩いた。


「がっはっは! ついに奏太にも春が来たか!」

「いや、別にそういうわけじゃ……」


 そういうわけじゃない、と言おうとしたが、アニメ化したら付き合うという約束もしているから、あながち間違っていないのかもしれないと思った。

 まあ、父さんが上機嫌になってくれたということは、許可してくれるということなのかな?


「まあ、いい! お前はまだ若いんだ。好きなことをするといい」

「ホント!?」

「ああ、もちろんだ。男は好きなことをして生きていくべきだからな! があっはっは!」


 父さんは豪快な笑い声を響かせながら再び俺の背中を強く叩いた。

 俺は母さんのほうに視線を向けると、母さんもうんうん、と強く頷いていた。どうやら俺は母さんと父さんの両方の許可を得ることが出来たようだ。


「あ、でも、明日から住むって住む場所はどうするんだ?」


 父さんはどこに住むのかが気になったようだ。

 そりゃそうだよな。急に明日から家を出て一緒に漫画家になる相方と住むって言っても住む場所の確保などは出来ているのか気になるよな。


「相方の親がマンションを経営してるらしくてそのマンションの一室に住まわせてもらえることになったんだよ」

「なるほど、そういうことだったのか。それならよし! 許可を出そう!」

「ありがとう!」

「ああ、頑張るんだぞ? あと、何かあったらすぐに連絡するんだぞ?」

「うん、わかった!」


 これで本格的に漫画家を目指すことが出来る。

 改めて思う。俺は本当に良い親を持ったなぁ、と。


 母さんと父さんに良い報告ができるように頑張ろう。

 そう心の中で誓った。


「いつか相方を紹介しに来るんだぞ」

「う、うん、わかったよ」


 どうやら父さんは春香のこともちゃんと紹介しに来てほしいようだ。

 いや、父さんだけじゃないな。何も言っていないが母さんもニコニコしながら父さんの意見に同意しているようだ。

 まあ、たしかに相方なのだからいつかは会わせてあげるべきなのかもしれないな。


 春香ならすぐに俺の両親とも打ち解けられそうな気がする。


 ♢


 ――翌日。


 俺はキャリーケースに色々な荷物を詰め、家を出る用意をした。


「父さん、母さん! 行くね」


 父さんと母さんは玄関まで見送りに来てくれた。

 昨日までは俺の話を聞いて嬉しそうだった二人だが、今はどこか寂しそうな目をしている。

 俺のことを心配してくれているのかもしれないな。


「たまには帰ってこいよ?」

「無理しないようにね」


「うん、ありがとう。それじゃ、行ってくる」


 父さんと母さんの言葉に俺は不覚にも少しだけ泣いてしまいそうになってしまった。

 二人の声が少し震えてしまっていたからかもしれない。


「少しでも早く連載するぞ」


 俺は春香のいるマンションに向かいながら一人でそう呟いていた。

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